「すごい映画だった」宝島 Katkatさんの映画レビュー(感想・評価)
すごい映画だった
すごい映画。
戦果アギヤー(米軍から物資を奪い貧者に戦利品を配る若者達)、小学生11名を含む19名の死者と210名の負傷者を出した宮森小学校米軍機墜落事故、米兵による性被害や交通事故、ひいては殺人事件までもが不起訴になる事案、コザ暴動、弾薬庫への毒ガス貯蔵事件、等戦後沖縄で実際に起こった米軍起因の事件をモチーフに物語は進む。
沖縄、米軍、戦後直後…と聞けば「反日なの?」「説教じみてるの?」とよぎるヒトもいるかもしれないけれど、そう言う類の映画ではない。政治信条を主張する映画でもない。
フィクションではあるけれど沖縄の人達が何に怒ってきたのか、というのがひしひしと伝わる。謎解きに関わる内容の会話が方言で理解不能な部分が多々あるのだけれど、そのせいでラストの衝撃、痛みと慈愛が一気に押し寄せた。
※こっからネタバレ
190分と長編だけど、俳優陣の演技も見事で緊張感緩む事なく最後まで駆け抜けた。
怒りを向けられる対象の横暴を強調すれば、ともすればヘイトに繋がる昨今、巧みなバランスで描かれていたと思う。本土への政治批判も然り。
とにかく心が痛い。窃盗や暴力は犯罪だけど、皆そこに至る、戦争や戦勝国からの不平等な占領に起因する深い傷を抱えている。だから主要登場人物全員の幸せを願ってやまないのだけど「この流れからじゃ幸せ無理?破滅?」とずっとハラハラしっぱなしだ。
喪失した事で、主要人物それぞれの中で大きくなったオンちゃんの存在感もすごかった。
統率力があり何より前向きで窮地でも歯を剥き出して「笑え」と皆を鼓舞するオンちゃん。そして学校を作るのだと語るオンちゃん。戦果アギヤーのリーダーとは言え、ただの不良青年ではない。未来を前向きに見据える青年だったのだ。
炎を多用した暴動がこれでもかと丁寧に描かれていたけれど、積もりに積もった怒りの暴発をじっくり表現したかったのだと思う。
熱気に浮かされ高揚する様、願いが叶ったような気持ちで漏れる笑み、そして解決ではない事や暴力に対する虚しさ…妻夫木くんの1人演技で見事に表現されてましたな。高揚はするけれど決して爽快ではない複雑な心境。
これな、個人的に、多くの人に観てもらいたいな。
戦中多くの県民が戦火に巻き込まれ、戦後本土と同じタイミングでは戦後にならず、長年戦勝国に支配される占領地であった沖縄。その戦勝国から受けた仕打ち。単純な優越的支配だけでなく、自国における兵士達のフラストレーションの捌け口にもされてきた沖縄。
フィクション映画なんだけど重い。個人的には、救われた子供には助かって欲しかった。困難さの象徴としての死なのだろうけれど。
そして辛いし重いけど、迷いながらそれぞれの道を征く3人それぞれの傷と強さと。
グスクはきっと、オンちゃんのテロ関与を疑っただろうけど、彼の優しさと強さを再確認して、存命ならそんな事はしなかった、と確信しただろうしそれが救いになったろう。
ヤマコは強い。強さ故の頑なさでこれまでオンちゃんの示した道を自身の夢として進んで来て、益々確信を得ただろうけれど、できれば自身の幸せも顧みて欲しい。
そしてレイ、レイよ、どうかどうか自身の命を大切にする生き方を見つけて欲しい。いや、きっと見つけると信じてる。
晴れやかな大団円とはいかないけれど、今後も紡がれるであろう生の在り方が、ほのかな希望として心に灯る終わりだった。
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