劇場公開日 2025年9月19日

「沖縄の、日本の未来のために観られるべき超重要作」宝島 高森郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5 沖縄の、日本の未来のために観られるべき超重要作

2025年9月27日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

悲しい

興奮

驚く

長く待ち望んでいた、日本現代史における大事件を題材とする社会派の劇映画がようやく登場した。同ジャンルの製作は韓国がここ10年ほど活発で、本邦で公開されるたび「日本はずいぶん遅れをとってしまった」と嘆いていたが、この「宝島」が流れを変えてくれたらと願う。

第二次世界大戦で連合国側に敗戦した日本は1952年発効のサンフランシスコ平和条約で主権を取り戻すも、沖縄県だけは米国の統治下に置かれた。米軍基地から市街に繰り出す米兵らによる若い女性への殺人や暴行などが頻発し、軍用機が墜落事故を起こして大勢が犠牲になるなど理不尽な出来事から県民らの不満が爆発して、1970年のコザ暴動が起きた――という大まかな流れを知ってはいた。それでも、真藤順丈の直木賞受賞作を大友啓史監督が映画化した「宝島」を観ながら、自分が知ったつもりになっていたのはごくうわべだけで、沖縄であの時代を生きた人々の苦しみ、悲しみ、怒りといった感情の部分にまでは思いが至っていなかったことを痛感していた。

ストーリーは「戦果アギヤー」と呼ばれた若者たちを中心に進む。ある夜の襲撃でリーダー格のオン(永山瑛太)が失踪し、時を経てグスク(妻夫木聡)は刑事に、ヤマコ(広瀬すず)は教師に、レイ(窪田正孝)はヤクザになる。オンの不在を内に抱えつつ、60年代の沖縄の現実を生きる3人。だが、度重なる米兵らの犯罪行為に住民たちの怒りがついに爆発し、1970年12月20日未明に米兵と軍属車両を襲撃する暴動が起きる。

観客も主要登場人物らに没入し、占領下の沖縄での出来事を追体験することになる。それによって、うわべの知識にとどまっていた沖縄の人々について、より自分に近づけて感じることができる。個人の自由について、国が独立することについて、より深く考えるきっかけを得られる。「宝島」にみなぎる演者と作り手の熱量が観る者にも伝わるからこそ、それが可能になる。

レビューの冒頭で現代史をベースにした社会派劇映画のジャンルで日本は韓国に遅れていると書いたが、この手の邦画がまったく作られなかったわけではもちろんない。ただ、国家権力、政治家、官僚や大企業などに関わる事件や不祥事を真正面から取り上げ、批判すべきことはしっかり批判して描く作品は、邦画界では避けられがちだ。これは単に作り手側だけの問題ではなく、観客側にもこのタイプの作品を積極的に求めないというマイナス要因があるように思う。一方の韓国では、こうしたジャンルの映画が観客に支持され大ヒットし、それが次の製作を後押しする好循環が続いているようだ。

現代史の不都合な真実、暗い部分に光を当て、きちんと向き合うことは、明日を、未来をより良く変えることにつながる。優れた劇映画にはそれを促す力があると信じるし、「宝島」に続く力作が今後増えることを切に願う。

高森郁哉
高森郁哉さんのコメント
2025年9月28日

羅生門さん、コメントありがとうございます。

まず、私のレビューでは「日本現代史」と書いており、現代は終戦後から現在まで、近代は明治から第二次大戦期までというのが一般的です。

また、「この手の邦画がまったく作られなかったわけではもちろんない。ただ、国家権力、政治家、官僚や大企業などに関わる事件や不祥事を真正面から取り上げ、批判すべきことはしっかり批判して描く作品は、邦画界では避けられがちだ。」とも書きました。大事件や大事故を題材にした邦画は多数あっても、国家や大企業を明示的に批判する社会派の劇映画は近年少なくなっているように感じます。

国や大企業と関わりのある事故や事象でも、21世紀以降の出来事でみると原発事故の「Fukushima 50」や豪華客船コロナ集団感染の「フロントライン」のように、個人や少数集団の奮闘を英雄的に描くことを主眼にした娯楽作は資金調達もしやすいのか、わりと作られています。

別作品のレビューでも、「韓国現代史を扱う社会派映画が日本に届くたび、邦画業界はずいぶん遅れをとっていると痛感する。同様に70年代以降を振り返ると、政治であれば田中角栄、小泉純一郎、安倍晋三ら個性が際立った元首相たちや、38年ぶりに自民党政権からの政権交代につながった新党ブーム。国民的な関心事ならオイルショック、ロッキード事件、リクルート事件、オウム真理教事件など。これらを真正面から描く劇映画がコンスタントに作られるようになればと切望する」と書きました。私なりに邦画で扱ってほしい題材やテーマの方向性が伝わりましたら幸いです。

高森郁哉
羅生門さんのコメント
2025年9月28日

昔から邦画には沢山ありましたよ。「帝銀事件・死刑囚」「広場の孤独」「地の群れ」「人間の条件」「日本列島」「傷だらけの山河」「貴族の階段」「黒い潮」「二・二六事件 脱出」「日本のいちばん長い日」「戦争と人間」「華麗なる一族」「不毛地帯」「金環蝕」「日本の熱い日々 謀殺・下山事件」「劇映画 沖縄」「海と毒薬」「金融列島・呪縛」「レディ・ジョーカー」「クライマーズ・ハイ」「沈まぬ太陽」などなど、沢山ありますよ。太平洋戦争を題材にした映画は数え切れないほどある。

羅生門
PR U-NEXTなら
映画チケットがいつでも1,500円!

詳細は遷移先をご確認ください。