「沖縄の声を聴け」宝島 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
沖縄の声を聴け
3時間の『国宝』の大ヒットは、『鬼滅の刃 無限城編~』以上に日本映画界への意義は大きい。
映画は時間やジャンルは関係ない。良きものにはちゃんと客が入る事を証明したからだ。
よく長尺映画に難を示す声が多い。何だかがっかりする。今の時代、配信でドラマシリーズやアニメシリーズを一気見し、3時間なんて悠に越える。なのに、何で映画だけ長いなんて…。
そりゃあつまらない映画だったら拷問だが、面白ければこの上ない充実感と見応え。
『風と共に去りぬ』『七人の侍』『ベン・ハー』『ゴッドファーザー』『ダンス・ウィズ・ウルブズ』…。『タイタニック』もこちら側に入れておこう。往年の名作は長尺が当たり前だった。
近年(2000年代)も『ロード・オブ・ザ・リング』『愛のむきだし』『ドライブ・マイ・カー』『RRR』など面白い作品が多い。
長尺は名作の宝庫!
『国宝』の大ヒットがそのきっかけになってくれたら…。
そして、もう一本…。
終戦80年。
日本が今日の平和や繁栄に至るまで幾多の努力や困難があったが、最も激動の80年を駆け抜けたのが、沖縄。
今沖縄と言うと、日本のハワイのような南国。
夏シーズンは台風の通り道だが、年間通して比較的温暖な気候。
本土とは違う雰囲気、文化、歴史。
沖縄料理も人気。今年新たなアトラクション施設もオープンし、日本屈指の観光地。
沖縄出身の有名人や人気スターも多い。
陽気で、方言“なんくるないさ~”が耳に心地よい。
私も是非一度は行ってみたいのが、沖縄である。
そんな沖縄が今日の平穏を手にするまで、どれほど壮絶な受難に晒されてきたか…。
おびただしい血が流された沖縄戦。実に、沖縄人の4人に一人が戦死…。
戦後長らくアメリカの統治下に。1972年にようやく日本へ返還されるも…
沖縄県民と米軍の確執、米軍基地問題…。さらには沖縄と本土の関係…。
何故こんなにも理不尽を…?
しかし、沖縄も堪え忍んでばかりじゃない。抗う者たちがいた…。
米軍基地から物資を奪い、困窮する沖縄の民に分け与える鼠小僧のような若者集団。
“戦果アギヤー”。リーダーのオン、親友のグスク、オンの弟レイ、オンの恋人ヤマコ。
危ない橋を渡りつつも、沖縄への迸る思いを胸に、熱く生きていた。
沖縄に真の平和が訪れるまで、まだまだ闘い続ける。
そう皆を鼓舞していたオンがある日突然、姿を消した…。
やがて、グスクは刑事に。ヤマコは小学校教師に。レイはヤクザに…。
各々の道を歩んでいたが、ずっとオンの行方を探していた。
そんな彼らが直面する沖縄の受難、そして真実とは…?
グスク、ヤマコ、レイ各々の今と、オンの面影がメインストーリー。
グスクが刑事になったのもオンを探す為。かつてオンと共に“戦果アギヤー”として名を馳せた彼に接触してきたのは、アメリカの諜報員…。
沖縄の子供たちの為に学校を造る。そしてヤマコが先生になれ。オンとそう約束したヤマコにも未曾有の悲劇が…。
一応真っ当な道を歩んだ二人に対し、荒々しい生き方のままのレイ。刑務所に入ったり、悪い連中とつるんだり揉め事を起こしたり…。
ここに様々なエピソードが交錯する。
浮浪児のウタ。その出生は…。
グスクが追う婦女暴行殺人事件。
米兵ばかりを狙った事件。
米空軍機が墜落。墜落した場所は…。
50年代~70年代、沖縄で起きた県民と米軍の諍い…いや、対立や争い。遂には暴動にまで…。
フィクションとノンフィクションを絡ませた大ボリューム。
妻夫木聡、広瀬すず、窪田正孝、永山瑛太ら今の日本映画界を代表する実力派たちのアンサンブル。とりわけ危うさを孕んだ窪田正孝が存在感放つ。
スケール感のある映像。美術が素晴らしく、あの時代を知らない者でもタイムスリップしたかのように。映像や美術であの時代の混沌をヒリヒリ感じる。
かなり痛烈な反米色は賛否分かれそう。現独裁者が見たら激怒しそうだが、分かり合えば…というメッセージも受け取れる。
並々ならぬ覚悟と意欲で挑んだスタッフ/キャスト。その圧倒的本気度、熱量の191分!
大友啓史監督にとってもキャリアの一つの到達点と言えよう。
間違いなく今年の日本映画の力作の一つ。
そう言った意味では『国宝』と並ぶが、果たしてヒットはするだろうか…?
『国宝』は万人受けしそうにない題材ながら、特異世界を見易くストレートに描き、見る者を引き込む魅力と見応えがあった。
本作もメッセージはひしひしと感じる。
が、あの時代の混沌を表したせいか、話がちと分かり難い。
沖縄特有の方言で聞き取りにくい台詞もあったかな…。
登場人物たちや話自体が何に向かっているか、迷走してしまった感も…。
彼らのように熱くがむしゃら…と言えば聞こえはいいが、大友監督、ちと力み過ぎたか…?
しかし、思いは伝わった。
訴えたい事は伝わった。
理不尽さに憤り、胸に突き刺さった。
小学校に墜落した米空軍機。生徒たちも死傷。が、起こした米パイロットは軍内部で軽い処罰を受け、罪を裁かれる事はなかった。そんな事、あってたまるか!
実際にもあった米空軍機の墜落。米兵によるレイプ事件…。
民間人が米兵の車に轢かれ、死亡。沖縄の怒りが爆発し、起きたコザ暴動。
それを誘発したのは何だ…?
何が沖縄をこんなにも混沌とさせた…?
米軍の傲慢。本土は見て見ぬふり。
本土返還が決まった時、多くの県民が歓喜。やっと自由になれる。本当に自由になれるのか…?
歓喜する県民とは裏腹に、レイは皮肉。アメリカの隷属に成り下がっている本土に返還されたって結局同じ事。
沖縄の自由は何処にある…?
一体誰が沖縄の声を聴いている…?
声を上げる者は居ないのか…?
冒頭、米軍基地を襲撃した戦果アギヤーが追われ、密林の中へ。
そこで聴いた謎の声…。
オンが姿を消した理由と深く関わっていた…。
散り散りに逃げ、オンは思わぬ遭遇をする。
赤子を出産し、息を引き取った民間人女性。居ない父親は言うまでもない。あの時代、米兵に孕まされた沖縄女性は多くいた筈だ。
この名もなき若い女性と赤子もその犠牲の一つ。
母親の方は息を引き取ったが、赤子の方は…。辛うじて息がある。
オンは人工呼吸で息を送り、歯でへその緒が噛みちぎる。
死ぬな!生きろ!
赤子は息を吹き返し…。
その赤子を引き取り、離島に渡ったオン。育てながら重労働。
ある時、米軍の攻撃が…。重傷を負ったオン。その傍から離れぬ成長した少年。木舟に乗って沖縄へ…。
その少年こそ…。
しかし彼もまたある修羅場で、米兵から被弾する。
傷付いた身体である場所へ。グスクたちも後を追う。
そこにあったのは…、白骨体。ウタが葬ったオンの亡骸。
姿を消したオン。いや、彼はずっとここに居たのだ。
まさかの真実。また俺たちの前に姿を現し、何かをしてくれると思っていた。
沖縄の運命や時代は変えられなかった。
しかし、繋ごうとした。
一つの小さな命を。未来を。
俺たちの思いを受け継いでくれ。
その命と未来も不条理に奪われ…。
レビュー序盤で“沖縄が今日の平穏を…”と書いたが、訂正したい。
沖縄は今も苦しんでいる。
沖縄は今も悲しんでいる。
沖縄は今も怒っている。
今も続く事件や理不尽に、沖縄の闘いはまだ終わらない。
沖縄の声を聴け。
最高のレビューだと感じました!
ありがとうございました。 m(_ _)m
監督の思いが伝わりました。^ ^
ただ、作品だけを観て、そこまで思いを感じ取れなかったのが残念でした。(><)
役者陣は非常に良かったのに、
なぜか共感しにくい所が多く。。
最後の暴動シーンは良かった!!
近大さん
確かに、沖縄の人々の『 苦しみ・悲しみ・怒り 』が、沢山込められた作品でしたね。
反米感情がリアルに、そして度々描かれていましたが、当時の状況を鑑みれば、そう感じるのは当然であり、沖縄の人々の複雑な思いが以前より深く理解出来た気がしています。
ヤマコの教師に掛けられていた「方言札」。方言を喋ってしまった子に、罰として首からかけさせる物です。
本土復帰を運動として目指すヤマコの胸中も、かなり複雑だったことが想像できますが、レイの眼差しの正しさを裏付ける描写でもあったと思います。このように、とても細かなところまで注意を払って描かれていたことは、評価したい作品ではありました。
近代さんのレビュー、目頭が熱くなりました。ガマの中でグスクがパニック状態になる場面で、広がりがあるかと思ったのですが……集団自決まで触れてしまうと毛色が変わってしまうので抑えてましたね。
近大さま
共感ありがとうございます🙂
長尺映画についての見解、同感です。(長文レビューについても…令和コソコソ噂話でした)
>沖縄は今も苦しんでいる。
沖縄は今も悲しんでいる。
沖縄は今も怒っている。
今も続く事件や理不尽に、沖縄の闘いはまだ終わらない。
沖縄の声を聴け。
レビューのラストで、もう一度泣いてしまいました🥲




