「95点/☆4.5」宝島 映画感想ドリーチャンネルさんの映画レビュー(感想・評価)
95点/☆4.5
本作は、直木賞受賞作・真藤順丈の小説を原作に、終戦から80年という節目の年に公開された歴史大作。
総制作費25億円、延期も含め6年の歳月をかけて描かれるのは、米軍統治下の沖縄。
物語は、米軍基地に忍び込み義賊として貧しい人々を助けていたリーダー・オン(永山瑛太)の失踪から始まる。
民の希望であったオンの行方を追う刑事グスク(妻夫木聡)兄を探しながら自分なりの正義を模索する弟レイ(窪田正孝)そしてオンの語った夢を信じ教師として生きる恋人ヤマコ(広瀬すず)
彼ら三人の運命が交錯しながら、1970年のコザ暴動へと至る過程が描かれる。
決して気軽なエンタメ映画ではない。
だが、この作品は沖縄の歴史と現在を知り、平和や命の意味を考えるための契機となる。挑戦的な構成でありながら、誠実な姿勢と力強いメッセージが観る者の心に深く響く。
返還前の沖縄で懸命に生きた若者たちの魂を、不滅の物語として刻み込む。
率直に言えば『国宝』のような娯楽性や親しみやすさはない。
3時間を超える長尺と歴史書のような重厚さは観客を圧倒し、ときに疲弊させるだろう。
それでも、この作品が持つ意義は計り知れない。
本土に住む人々にとって、沖縄といえば青い海や観光地のイメージが先行する。
だが、その地には唯一の地上戦が行われ、県民の4分の1が命を落とした苛烈な歴史がある。
教科書で触れるだけの事実を、本作は生々しく、しかし敬意を持って描き出す。
沖縄に生まれなければ理解しにくい複雑な感情、日本のようでありながらどこか異なる距離感。そして今も続く基地問題。
私たちはそれをどれほど真剣に考えてきただろうか。
確かに、人物の掘り下げが十分でない場面や、物語の方向性が一瞬曖昧になる箇所もある。歴史の全貌を網羅するのは不可能だったかもしれない。
それでも、本作は伝えるべき核心を明確に示し、その道筋を誠実に描ききっている。
終盤の「一度も平和なんて見たことない!」という叫びは、全編を通じた内なる声の凝縮。
沖縄には今も米軍基地が残り、戦闘機の轟音が響き、米兵による事件は今も後を絶たない。
「何をされても黙るのか、武器を取って耳を傾けさせるんだ」と叫ぶレイ。
「諦めずに対話を続け、信じるしかない」と応えるグスク。
正しい答えは存在しない。ただ一つ確かなのは、誰もが平和を望み、無駄な血が流れないことを願っている。
抑圧され、奪われ、声を封じられた人々の怒りが、やがてコザ暴動となって爆発する。
壊された故郷の景色。たわいもない歌や踊りに溢れていた日常。戻らない哀しみと行き場のない怒りを、沖縄は背負い続けてきた。
本作は、悲しみや苦しみを描きつつも希望を見失わない。
沖縄の美しい海を背景に、目の前の命を守ろうとする英雄の姿がある。
民は、懸命に生き抜くことで未来をつなぐ。どんなに不条理な現実でも、命がなければ何も始まらない。
主人公たちの生き様は沖縄の魂そのもの。
移民政策や外国人との軋轢など、現代日本が抱える課題は、沖縄が長年背負ってきた不条理と重なり合う。
私たちはどうすれば平和に生きられるのか。
簡単な答えはない。
だが希望を捨てず、目の前の命を大切に今を生きることの尊さを、この作品は確かに伝えている。
武器を持つことだけが戦うということではない。
英雄たちの志は、未来へと受け継がれていく。
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