「魂を揺さぶる演技」宝島 つとみさんの映画レビュー(感想・評価)
魂を揺さぶる演技
とにかく俳優陣の演技の熱量が高くて、どんどん物語の中に引きずり込まれていくような3時間。
中だるみも一切感じられず、程よい緊張感と胸を刺す痛みが続いていて、最後は涙が自然とあふれ出してしまった。
戦果アギヤーのリーダー・オンちゃんの行方を探すために刑事になった親友のグスクを演じる妻夫木聡を視点に、ヤクザになった弟のレイ(窪田正孝)、教師になった恋人のヤマコ(広瀬すず)、それぞれの思いもふんだんに描かれる。
インタビューにもあったが、オンを先頭にグスクとレイが路地裏を駆けていくシーン、たったそれだけの映像でグスクたちにとってオンがどれだけ特別で、眩しくて、英雄だったのかがすんなりと理解できる。
背景となる戦後沖縄の数々の事件が、この時代を生き抜いてきたグスク・レイ・ヤマコの行動や考え方に強い影響を与えていることも、画面を通じて痛いほど伝わってくる。
映画の中ではほとんどの登場人物が沖縄の言葉とイントネーションで喋り、人によってはセリフの半分くらい何と言ったか分からない(アメリカ政府官僚であるアーヴィンの英語の方が聞き取りやすいくらい)のだが、それでも全く問題なく、何を言いたかったのかがわかるのは俳優陣の演技と監督の演出によるところが大きいと思う。
クライマックス、グスクの感情が爆発し叫んで走り出したあたりから、それぞれの思いがさらけ出されていき、オンの失踪の謎も紐解かれていく。
オンという英雄が見すえていたもの、「宝島」というタイトルの「宝」とは一体何なのか。
残されたグスクや、レイや、ヤマコがオンから受け取ったオンの思いとその形はそれぞれ微妙に違うけれど、結局のところ心から笑えるその時が来るまでたくましく生きていくことでしか、オンの思いを引き受けることは出来ないのだと気づかされる。
もう一つ、グスクは作中でアーヴィンと彼の通訳である本土の人間・小松と協力関係を築くのだが、すれ違いが起きて彼らの協力体制は崩壊する。
小松はコザ暴動の最中にグスクに詰め寄る。
アメリカ・本土・沖縄をそれぞれ代表する3人の関係が良好に続いていれば、こんなことにはならなかったのだと。
小松の主張はよく理解出来る。私も小松と同じく、沖縄にゆかりのない人間だから、本当の意味でグスクたち沖縄の立場に立つのは無理だ。結局我慢に我慢を重ねて、一番つらい立場に身を置き続けるのは自分ではない。どれだけ耐えれば報われるのかと聞かれれば、何の保証もできないのだから。
個人の思惑を超えたところで大事なことが決められてしまう状況で、それでも目指すものは同じだと信じたい気持ちに共感しつつ、うまくいかないもどかしさ。短いシーンだったし、オンを追いかける物語の中で小松はそこまで重要な役回りではないが、それでも彼にその思いを吐露させることで、オンの思いは立場を超えて受け継がれる可能性があるのだ、という小さな希望につながる良い場面だったと思う。
繰り返しになるが、登場人物それぞれの思いがスクリーン越しに自分の中に染みわたって、魂を揺さぶられる素晴らしい映画だった。
日本でしか撮れない題材の、骨太の作品。
映像の持つ力で熱量に打たれ、そのメッセージを理解より先に体で感じられる素晴らしい映画だ。
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