「言霊とは口にした言葉が本当になること」あの人が消えた ジュン一さんの映画レビュー(感想・評価)
言霊とは口にした言葉が本当になること
冒頭の章。とあるマンションで
一人の若い女性が姿を消す。
ただこれが、実際の出来事なのか、
象徴的なイメージなのか、
この時点では分からない。
次の章。
狂言回しの『丸子夢久郎(高橋文哉)』が登場し、
彼のプロフィールが紹介される。
しかしここで違和感が。
名前が『むくろう』って?
付き纏った感覚が、
最後には正しかったことが分かる。
言葉を使ったこうした仕掛けに象徴されるように、
本作は至る所に伏線が張り巡らされた緻密な脚本がウリ。
幾つかの瑕疵は散見されるものの、
観終わればなかなかに完成度の高い秀作。
運送会社に勤める『丸子』は、
マンション「クレマチス多摩」の配送担当になり、
そこにオシのWEB小説作家『小宮千尋/コミヤチヒロ(北香那)』が住んでいることを知る。
本物の『千尋』を見て、憧れを抱く『丸子』だが、
他の住人たちの怪しげな挙動を目にするにつけ、
彼女の身を案じ、
ついには仕事そっちのけで(ストーカーと見紛う勢いで)マンションを訪れように。
ここの心情変化の描写がやや弱い気もするが、
以降は緩急自在の展開が小気味良く続く。
真実の吐露(と、思わせる)シークエンスは「緩」の描写。
突然コメディタッチとなり、
妄想と思わせる内容で納得感も皆無。
これで終幕だったら金返せ、くらいの勢いで。
過去のシーンが適宜挟み込まれ、
一見、筋の通った説明に見えるも
成立するためには全ての情報が関係者で周知されている必要があり、
短時間で可能なのかと、首を傾げる箇所。
時系列的にも、なんとなく得心が行かぬ。
もっとも『千尋』をWEB小説家とした設定が生きる部分でもある。
全ての住人が一斉に姿を消した理由と
背景の説明にも違和感が。
対する『丸子』の慌てぶりは何だったのか。
その一方、何度配達に訪れても
一向に姿を見せない203号室の住人の存在は、
さらっとした表現ながら実際は肝心な要素で
謎を引っ張る鍵として上手く機能している。
その後には驚愕のどんでん返しが待ち受け、
鑑賞者をアッと言わせる。
団円を迎えたのち、
オマケ映像の前に本作のタイトル「あの人が消えた」が縦書きで重なり、
エンディングまで言葉を使ったギミックにこだわった監督の力量に唸らされる。
なまじ周囲に芸達者は配したばかりに
ヒーローとヒロインの『高橋文哉』と『北香那』の
とりわけの前者の演技の拙さが目立ってしまうのは残念。
なんとなく『神木隆之介』『千葉雄大』の中間の外見なのだが・・・・。
そう言えば『北香那』も『山崎紘菜』に似ているよねぇ。