「【”目には目を、歯には歯を、騙しには騙しを!そして、二人の男が騙しに加担した訳。”今作は相手の裏の裏の裏をかいていくストーリー展開と、最後はムネアツな気持ちになる邦画コンゲームの新たなる逸品である。】」アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師 NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【”目には目を、歯には歯を、騙しには騙しを!そして、二人の男が騙しに加担した訳。”今作は相手の裏の裏の裏をかいていくストーリー展開と、最後はムネアツな気持ちになる邦画コンゲームの新たなる逸品である。】
■東京のとある税務署に勤める熊沢(内野聖陽)は、精気なき事なかれ主義で日々の仕事をこなしている。ある日、国税局への転属が決まっている脱税を許さない部下望月(川栄李奈)が、10億円の脱税疑惑がある橘社長(小澤征悦)に、その事実を詰め寄ると逆に訴えると言われ窮状に陥ってしまう。
そこに、手を出して来たのは熊沢に中古車販売詐欺をした氷室(岡田将生)だった。氷室は”詐欺を見逃してくれたら、橘に10億払わせる。”と約束する。熊沢は同期の税務署員が且つて橘の脱税を暴こうとしたが、逆に横領の罪を被せられた際に”見て見ぬ振り”をした為に自死した事を深く後悔しており、氷室の提案におずおずと乗って行く。
◆感想
・冒頭は、家族に頭が上がらず事なかれ主義で生きて居る熊沢が、且つて同期を自死させてしまった悔いの心から、氷室の”橘に10億払わせる。”という言葉に乗って、”地面師詐欺”の仕掛けに乗って行く中で、精気なき男から学生時代の様な活力ある男に変化していく様を、今や名優と言っても良い熊沢を演じる内野聖陽が良い。
・又、橘社長を演じる小澤征悦も、その圧倒的な”眼圧、顔圧”で見事に悪役を演じている。所謂”悪”のキャラが濃いと”善”が引き立つという法則が今作では見事に当て嵌っているのである。故に小澤さんが、悪辣であればあるほど、観る側は再後半の展開にカタルシスを覚え、更には沁みてしまうのである。
・チャラい詐欺師氷室を演じた岡田将生も見事で、彼が詐欺師になった理由を劇中、橘を騙すために不動産屋に化けた際に口にした”父が警部、母は弁護士・・。”という台詞が、実は本当の事であり、後半効いてくるのも良いし、彼のチャラい表情の下に隠していた怒りと哀しみ、そして決意を眦に表した真面目な表情の使い分けも絶妙である。
■今作では、税務署長(吹越満)が橘と通じている事や、描かれないが氷室の父の上司が橘と繋がっている事に対して、決然と怒りを持って立ち向かって行く熊沢と氷室とその詐欺仲間達の姿が、可笑しくも熱いのである。
・橘が、氷室の仕掛けた罠に気付き、手下に命じ逆襲するシーンも全て、氷室の想定内だったという展開も、観ていて実に爽快である。
序盤に、偽造屋の丸(上川周作)が、ふざけて透かしに熊沢の顔を入れて見せるシーンが、再後半の橘が10億を巻き上げられた事に気付く連動性も、良い。
今作では、しばしば序盤に小さなシーンが織り込まれ、後半その意味を回収するストーリー展開も良い。
・橘が、”地面師詐欺”を疑って、橘の司法書士(神野三鈴)が物件の写真を物件主になった娘(森川葵)に多数見せ”本物ではない写真はどれですか。”と問うシーンもハラハラしたが、最後にバイクに乗って颯爽とヘルメットを取った女性の顔を見て”成程ねぇ”と唸るとともに、氷室母子の執念が感じられるのである。
そして、それまで”動かない時計”を嵌めていた氷室が、時計の竜頭を巻いて再び時計の針を動かすシーンも良い。それまで、無実の罪で留置所に入れられていた父と離れ離れになり、停まっていた時を再び動かしたという事であろう。
<私が一番沁みたシーンは、ラスト、橘に見事に復讐した熊沢がスマホに入れてあった自死した男と、自分と、そして同じく同期で熊沢を支えて来た刑事の八木(皆川猿時)と三人で、笑顔で映っている写真を見るシーンである。
今作は相手の裏の裏の裏を掻いていくストーリー展開と、最後はムネアツな気持ちになる邦画コンゲームの新たなる逸品である、と私は思います。>