「芸術って何ぞや…?」まる 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
芸術って何ぞや…?
スローライフから抜け出して、近年はトランスジェンダー題材や初のシリアス作など意欲的な作品続く荻上直子監督。
今回はアートに挑戦。
しかし、勿論この監督。風変わりな画を。
美大を卒業したものの一向に芽が出ず、40を過ぎても著名美術家のアシスタントで食い繋ぐ日々の沢田。さらには自転車で事故に遭って片腕を折ってしまい、アシスタントの仕事はクビ。コンビニでバイトを始める。
全くうだつの上がらないある日、部屋に紛れ込んだ蟻に誘われるようにして“○”を描く。
古物屋で金にもならん程度で売ったその“○”が、いつしかSNSや世界や本人の知らぬ所で大バズり。
“○”と謎のアーティスト“さわだ”が世間を賑わす中、当の沢田本人は…。
“○”なんて誰でも書けるやん!
ただの“○”ではなく、本作に於いての“○”は“円相”。初めて聞いた言葉…。
禅の書画の一つで、この“○”で宇宙や真理や仏教や悟りを表しているという。
終わりも無く始まりも無く、何ものにも囚われず心の解放も表しているという。
つまりは、人によって何を感じるか、どう解釈するか。
たかが“○”。されど“○”。
世間の人々はこの“○”に癒しや救いを求めて…。
一方では美術の冒涜だと批判。
一枚100万円以上で売買。さすがに欲がある沢田、世間に名乗り出る。
すると群がってくるエゴい奴ら。謎の商人、有名画商のギャラリー、ウザイ隣人、クビにした著名美術家は“私が育てた”なんてホラを吹き…。
欲が出てから“○”を描くといい“○”が描けない。
無心に返るといい“○”が描ける。
世間も沢田も“○”に取り憑かれ…。“○”を求められ、他の画が評価されず…。
何と! これが映画単独主演27年ぶりだという堂本剛。『金田一少年の事件簿』を27年前、劇場で観ました。
掴み所の無い脱力感。戸惑いや悶々、芸術への向き合い、何かを見出だしていく。根はいい人なんだと思わせる好演。
いい感じでウザイ隣人、綾野剛。
真の芸術を推奨する、吉岡里帆。
今回はヤな奴の吉田鋼太郎。
何者? 柄本明。
荻上作品の常連、小林聡美と片桐はいりは期待どおりの個性。
キャストの中でとりわけ愛すべきは、バイト先の外国人同僚役の森崎ウィン。外国人故受けてきた差別偏見を滲ませながら、あなたの気の良さ、優しさ、金言は悟りのよう。
人物描写などに荻上監督らしいゆるいユーモアやシュールさを感じ受けるが、皮肉や風刺も効いている。
謎のアーティスト。実際にいるね。天才か、世間騒がしか…?
全く見向きもされなかったのに、突然評価が一変。
何が変わった…? 何が変えた…?
確か『コンフィデンスマンJP』で言っていた。世の中で評価されている絵画や骨董なんて誰かが何処かのタイミングで価値を付けただけ。それが後世に高値で称えられている。
もし、ピカソの画を誰かが見出だしてなかったら…?
もし、沢田の“○”を誰かが見出だしてなかったら…?
価値って何…?
評価って何…?
つまらなくはなかったけど、かと言って好みかと言われたら…?
私の荻上作品ベストは『彼らが本気で編むときは、』。
好きな人は好き。合わない人には合わない。
あたかも芸術作品のよう。分かる人には分かる。分からない人には分からない。
荻上監督は本当に芸術作品を創り上げたのか…? それとも…?
芸術って何ぞや…?