劇場公開日 2024年10月18日

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「面白味はある。が、「堂本剛」を知るには足りない。荻上作品の綾野剛は新鮮でよいスパイス。」まる ycoさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5 面白味はある。が、「堂本剛」を知るには足りない。荻上作品の綾野剛は新鮮でよいスパイス。

2025年7月16日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

知的

「堂本剛さんに興味があります。なぜかとても辛そうで」
荻上監督のこの言葉に物凄く共感する。私もそう思っていたから。
なので監督が彼でどんな作品を撮ったのかかなり興味深かった。

ストーリーは、芸術家ひょんなことから有名になり、本来の自分と乖離していくことに戸惑い苦しむ、とういうある意味で凡庸。
なので予定調和的ではあるが、荻上監督ならではのユーモアのおかげで見ていられる。

ただ、私が期待しすぎたのか、「堂本剛の深淵」を覗くには至らなかった。堂本剛がなぜ辛そうで、何を感じ何を考えているのか、知ることはできなかった。“自分がわからなくなってしまう人の話”ということなので「そこ」止まりなのは仕方が無いのかもしれないが、「自分との乖離」のもっと深い正体まで掘り下げてもらいたかった。

ただ、音楽も彼がつくっているというのには驚いた。私は「街」と彼のエンドリケ名義のアルバムを1枚聴いたことがある。彼がファンクが好きで音楽に真摯に向き合っているということも理解していた。が、私が考えていた以上に彼の音作りはプロのそれだった。作中で音楽が流れた時、好きなコードだなと思った。余計な音はなく、一つ一つの響きが大切にされているのを感じた。私の「エンドリケ」のイメージとは全く異なり、彼が作っているとは予想すらしなかった。それだけ彼の感性の幅が広いということだろう。

脚本も彼にお願いしたらどうなっていたかなと思う。その方が監督もより彼のことを知ることができたんじゃないか。

最後に、綾野剛。荻上作品は「淡々・ユーモラス・ちょっとシュール、時々不穏」で基本的には明るかろうが暗かろうがテンポ感は一定。時々「小さな波」は来るがさざ波として海面に馴染んでいく。私が持つのはそんなイメージ。
が、綾野剛は違った。ちょっとしたことで目を引き付けるし、流れに小さな渦を作る。水面に渦の輪を残す。現れると「あ、またコイツがきた!」ってザワつくのに、話すと案外憎めなくてつい気を許しそうになる。出会う前と明らかに違う心持になる。そういうスパイス・アクセント的な存在感がある。荻上作品には余りなかったキャラクターであり、綾野剛のキャラとしても私的にはちょっと初めてかもしれない。
よいキャスティングだったと思う。

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yco
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