「開通記念日」まる サプライズさんの映画レビュー(感想・評価)
開通記念日
堂本剛が堂本剛過ぎるし、綾野剛が綾野剛過ぎる。けど、それを生かしたキャラクター性とストーリーですごく面白かった。クセ強な役者をこんなに集めて、よく自分のものにできるよね。流石、荻上直子監督。日本映画界に欠かせない存在になってきました。
予告の期待通りの作品で、言っちゃえば意外性はさほど無く結構想像できる展開なんだけど、細かな演出やセリフに笑ってしまったり更には心動かされたりと、今回もまた荻上監督らしいところに惹かれてしまった。
かなりアートなお話。絵という美術をテーマにしながら、薄気味悪い人間社会や日常的にはびこる思想、宗教に近い集団認識という洗脳なんかをフワッと描いているため、どちらかと言えば人間ドラマに重点を置いている作品ではあるんだけど、美術に限らず、芸術そのものに対する向き合い方によって好き嫌いは顕著に現れそう。
自分は明確な取り決めや思考がなくとも、曖昧な作品でも割と受け入れることができるし、印象画のような作者にしか分からない世界みたいなのを見るのもすごく好き。だけど、人によってはちゃんとメッセージが欲しい!ハッキリして欲しい!と思うだろうし、その気持ちも分かる。でもこの映画は〈まる〉というとても不明瞭な絵のように、これを伝えたい!とかそういうのがない作品だから、ちょっと気をつけた方がいいかも。
だけど、個性豊かな登場人物、言っちゃえば現実世界の等身大のような人々が放つ言動や行動には、共感したりハッとさせられるものがあって、どんな人でもひとつは自分の心に深く刺さるものがあると思う。そこがこの映画の好きなところ。FilmarksのジャンルにはSFとか抜けたこと書いてあるけど、そんなことは全くなくて、むしろ逆くらいのテイスト。舞台挨拶中継付き上映で見たのだけど、司会者が「いちばん共感できるな〜自分と似ているな〜と思う登場人物は誰ですか?」という質問をキャストに投げかけていて、それこそがこの映画の持つ魅力なんだなと鑑賞後に感じた。
荻上監督といえば、シチュエーション作りの天才。今回もその才能をいかんなく発揮。これまでの監督作ベストシーンは「川っぺりムコリッタ」のムロツヨシが松山ケンイチの家に手作りの野菜を持ってくる代わりに、風呂に入って、米食って、自分の私利私欲を思う存分満たすシーンだったんだけど、本作の開通記念日はそれを超してしまう最高のシチュエーション。笑い声を抑えるのに必死になるくらい面白かった笑笑
1人で喋って、1人で怒っている綾野剛に対して、たまーにボソッと返答する堂本剛。この空気感、一生見てられる。綾野剛演じる横山が、「川っぺりムコリッタ」のムロツヨシ演じる島田と重なって、荻上監督って、不器用だけどすごく真っ直ぐな人なんだな〜と思えた。
自分の好みとしては最後はもうちょっと面白味のあるオチにして欲しかったなと思ったし、せっかくいいキャラ設定しているからサワダ含めそれぞれもっと活躍する場面があっても良かったかなと。吉岡里帆演じる矢島は特に、サワダとの絡みをもっと増やしても良かったんじゃないかと感じた。その分、コンビニ店員モーは最高に良かったけどね。森崎ウィンがすげぇ。
賛否結構分かれてるみたいだけど、見て損は無いと思うし、前述の通り必ず自分の心に刺さるものが確実にあるだろうから、是非とも見に行って頂きたい。まるのなかのアリ。あの演出は惚れた。役者目当ての方は楽しめること間違いなし。あ、でも戸塚純貴目当てはやめたほうがいいよ。