「アナウンサーたち「の」戦争、ではなく…」劇場版 アナウンサーたちの戦争 九段等持さんの映画レビュー(感想・評価)
アナウンサーたち「の」戦争、ではなく…
ドラマ未視聴。
やっぱりタイトルって大事だと思いました。
「アナウンサーたちの戦争」と聞いて、まず思ったのが主役の和田信賢とその同僚達が激しく葛藤しながらも戦争に向き合い、そして玉音放送に取り組む姿でした。
いや、それ自体は内容の主軸として本作で描かれているはずなんですが、何かが足りない。
考えると、やっぱり背景や心理描写が足りないんです。圧倒的に。
例えば、序盤の東京オリンピック中止の話題。
さも当たり前のように会話の中で語られていますが、予備知識がなければ全く理解できないシーンだったのではないでしょうか。
それぐらい常識だろう、という考え方もあると思いますが、エピローグに繋がる背景でもあるぶん、見る側がスムーズに理解できる工夫が欲しかったです。
また結婚を申し込むシーンも、ヒロインが和田に惹かれる描写がほとんどない中で、いきなりプロポーズをされ、その答えを出すのがかなり後になってから、というのも気になりました。
(結婚断ったんじゃないか位のシーンが普通に間に入っていましたし)
このほか、和田アナの「努力を補ってあまりある」勤務態度の悪さが強調して描かれていたため、彼が次代のエースとして評価される理由もいまいち腑に落ちないままでした。
言うなれば中盤までずっとダイジェストを見続けた印象。
戦争という、自分の胸のうちを言葉にしづらかった時代を描いた作品なだけに、そのあたりは丁寧に描写をして欲しかったところです。
個々の役者さんの演技は素晴らしく、時代に流される役、抗う役それぞれに見応えがありました。
特に橋本愛はいい俳優さんになったなあ…と感じさせてくれますが、肝心のストーリー、軸が最後までよく見えないまま。
ということで和田信賢含め、多数登場するアナウンサーそれぞれの生き方を描いた群像劇として見るのが良いのかなと思いました。
そうなると、タイトルにふさわしいのは「アナウンサーたち"と"戦争」だったなと。
放送の世界に仕事で少し関わっていましたが、放送人としての思考や思いは史実に沿っているだけに学ばされるところがありましたが、いかんせん映画としては厳しめに評価せざるを得ませんでした。