「新時代の幕開け」ヒューマニスト・ヴァンパイア・シーキング・コンセンティング・スーサイダル・パーソン R41さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5 新時代の幕開け

2025年11月10日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

人間主義的ヴァンパイアが探すもの──『Humanist Vampire Seeking Suicidal Person』をめぐる死生観

この長いタイトルを直訳すれば、「人間主義的なヴァンパイアが自殺志願者を探している」となるだろう。
だが、その言葉の背後には、倫理と欲望、そして生と死の境界をめぐる深い問いが潜んでいる。

物語の中心にいるのは、サシャ──生まれながらにヴァンパイアでありながら、殺すことを拒む少女だ。
彼女は人間社会に溶け込み、母の厳しい監視のもとで育った。
しかし、脳の奥底に刻まれた「殺すことへの嫌悪」は、彼女を同族から異端へと追いやる。

そんな彼女が屋上で出会ったのは、死を切望する少年ポールだった。
その瞬間、サシャの中で「反応」が起きる。
殺さずに血を得る──その可能性が、彼女に牙を許したのだ。

ポールはなぜ死を望んだのか?
彼の家庭には、優しいが忙しい母と、無関心な父がいる。
学校を卒業しても、同じような孤独と暴力が待っているだろう。
自殺は、最後に残された「権利」だと彼は考える。
しかし、その選択には母を悲しませる後ろめたさがつきまとう。

ここに、フランス的な死生観──「自殺という権利」をめぐる思想が垣間見える。
正しい答えなどなく、すべての選択を尊ぶべき時代の匂いが漂う。

ヴァンパイアとは何か?
それは人間の苦悩を凝縮した化身だ。
コッポラ版『ドラキュラ』のように、呪いを受け入れた存在は醜悪な怪物となる。
しかし、血縁として生まれた者は、美しくなければならない。
生きるための手段としての吸血と、気高さを伴う生きる神聖な権利──この二つが、ヴァンパイア作品の核だ。

「君の最期の望みって何?」
ポールの問いに、サシャは答える。「太陽を見ること」
その言葉には、人間でなかったことへの悲しみが滲む。

人間に恐れられ、嫌われ、歴史の中で迫害されてきたヴァンパイア。
その歴史は、イスラエル問題に似ている。
血で血を洗う戦争は、なぜ繰り返されるのか?
人は学ばない。だからこそ、この物語は祈る──戦争というものの終焉を。

やがて、ヴァンパイアの中から、自殺志願者の同意を得て血を分け合う者が現れる。
殺さずに生きるために。
倫理と欲望の折り合いをつけるために。

この長いタイトルに込められたもの──それは、暴力の連鎖を断ち切り、選択を尊ぶ時代への希望である。

R41
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