「世代を超える”命の環”」ライオン・キング ムファサ おじゃるさんの映画レビュー(感想・評価)
世代を超える”命の環”
前作で兄弟の確執を見せたムファサとスカーの幼い日の物語ということで、かなり期待していた本作。仕事を定時で上がって、先行上映のIMAXで鑑賞してきました。前作ですでに完成の域にあった映像は、もはや本物の動物が演技しているとしか思えないレベルです。加えてローアングル多用のアグレッシブなカメラワークが圧倒的な躍動感を生み出し、視界いっぱいに広がる大自然に飲み込まれます。この没入感は劇場でしか味わえないと思います。
ストーリーは、前作の主人公シンバの娘キアラに、マンドリルのラフィキが物語を語る形で、楽園”ミレーレ”をめざす途中で両親とはぐれた幼きムファサが、ある一族を率いる王オバシの息子タカと出会い、兄弟のように育った二人は強い絆で結ばれていたが、その縄張りを狙うキロス一味に追われる中で、グループに加わったメスのサラビをめぐって関係が崩れていくさまを描くというもの。
前作では種を越えてつながる”命の環”を描いているように感じましたが、本作では世代を超えて紡がれる”命の環”を描いているように感じます。オバシからタカに引き継がれたものが血筋と小さなプライドであったのに対し、育ての母エシェからムファサに引き継がれたものは生きるために大切な資質と能力。そこに加えて、他の動物の命をも守る王としての責任を自覚したムファサの思いが、シンバ・キアラへと受け継がれる物語であったとも受け取れます。
過去のアニメ作品を観たことがないので、本作の話がもともとあったものかどうかは知りませんが、前作の前日譚としてはきれいにまとまり、うまくつながっていると感心します。大筋は予告から推して知るべしの内容ではあるものの、前作とのつながりを感じさせるストーリー展開にわくわくします。中でも、足元で助けを求めるムファサを、タカが見下ろしながらも助けるシーンが印象的です。これが序盤と終盤の2度描かれますが、タカの心情の変化を描き出すとともに、前作との対比ともなっており、演出の妙を感じます。他にも、プライドランドの岩のステージ、ラフィキの杖、スカーの傷など、前作への橋渡しとなるシーンも見逃せません。
一方で、観客はこの先のムファサとタカの行く末を知っているだけに、幼き日のタカの優しさとムファサとの絆が切なく、若き日のタカの怒りとムファサとの確執が悲しく映ります。父の反対を押し切ってまでもムファサを一族に迎え入れようとした優しきタカですが、長ずるにつれてムファサとの器の大きさの違いが目だち始めます。ムファサの懐の深い言動がタカの小者っぷりをより際立たせ、演出の巧みさを感じます。父オバシがもう少し良き王であったなら…、そんな思いさえ抱いてしまいます。少しずつよどみ積もっていく劣等感を、自身の血筋とムファサにかけた恩情で塗りつぶそうとするタカの心情は察するに余りあり、やるせない思いがします。
ただ、そんなタカがサラビをめぐってムファサとの関係を急速に悪化させていくのですが、このあたりの描写はやや乱暴に感じます。もちろんタカの怒りには共感しますが、その後の手のひら返しの行動はあんまりです。一方のムファサも、最後の最後に勇気を奮い立たせたタカに対して、にべもない態度をとります。長い時間をかけて築いた二人の絆が、こうも簡単に壊れることに少なからず違和感を覚え、自分にはちょっとしっくりこなかったです。
また、終盤でキロス一味の撃退を呼びかけるムファサに、ミレーレの動物たちが一斉に奮起したのもちょっと引っかかります。この時のムファサの演説にそれほど心揺さぶられなかったし、そもそもムファサたちがキロスたちを招き入れたともとれるのに、動物たちがあっさりとムファサを支持した理由がわかりません。
こうした終盤の畳み掛けに強引さを感じるものの、全体的には後味のよい作品に仕上がっていると感じます。ストーリーだけなら本作だけでも追えますが、前作の知識があったほうが間違いなくより楽しめますので、お時間のある方はまず前作を鑑賞することををおすすめします。
キャストは、アーロン・ピエール、ケルビン・ハリソン・Jr.、マッツ・ミケルセン、ビヨンセ・ノウルズ=カーター、ブルー・アイビー・カーターら。