劇場公開日 2024年7月19日

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「同意/不同意/翻意」HOW TO HAVE SEX うぐいすさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0同意/不同意/翻意

2024年7月18日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

リゾート地での卒業旅行の喧騒を通じて、ティーンの摩擦と背伸びの結末を描いた作品。
リゾートと若者と初体験という昔のおバカ系コメディを連想しそうな設定やタイトルではあるが、実際の内容には温度差があり、それを承知の上で観た方が良い作品である。

序盤から、16歳の少女たちが乱痴気騒ぎに飛び込む様を延々と見せられる。生きて翌朝を迎えられているのが不思議なくらいの彼女たちの過ごし方に、正直辟易した。
彼女たちの目的が進展していく様子もなく、物語の縦軸を探しながら鑑賞を続けていると、徐々に主人公タラが周囲のノリや旅先での解放感、そして「16歳ならこのくらい」的な根拠のないキラキラ願望に流される時に浮かない表情を見せるようになり、作品の本筋が見えて来た。

タラと友人とのやり取りと、タラと男性達のやり取りには、様々な拒否と同意の間のグラデーションが示されている。人間関係においてリードする側・される側の間で悪意の有無に関わらず生じる摩擦や行き違いと、それが心に傷を作る瞬間が様々なシチュエーションで描かれていた。

自分がすぐに連想したのは、MeTooブームと不同意性交罪の話題だった。
MeToo運動で過去の被害に対する告発が相次いだ時、告発者に対して「なぜその場で拒絶しなかったのか」という糾弾が頻出した。相手と上下関係があったり仕事の斡旋等の利害関係を理由に「嫌だけれど我慢したのだ」という答えに、納得しない人はいた。そういう人には様々なハラスメントや被害に対して後から声を上げる人の気持ちや、それがケアされるものであるという考え方、また本作のタラのように事前にも事後にも白黒つけきれないタイプの気持ちはわからないかもしれない。
また不同意性交に関する法整備がされた時、どうしたら合意を確信できるか、事後の翻意にどう対応すればいいか、とネット上で大喜利の様に交わされる投稿からは、後から「不同意だった」と言われる恐怖が見て取れ、本作の登場人物達の困惑と重なった。
本作は、これらの問題に共通する意思表示の難しさや認識の温度差を当事者の視点で描いた作品として、また心身の痛みを激しい嘆きや怒りで表現しないという点で目新しかった。

題材の着眼点や切り口が新鮮かつタイムリーなところは良いのだが、表現が尖り気味で勿体ない気がした。
騒音と酔客と肌色だらけの画面づくりは、観客の不快感をコントロールするための演出なのだとはわかっていても苦しい時間だった。また、タラ=被害者として問題提起をしているが、昼夜を問わない無軌道な泥酔ぶりや最初からワンナイト上等の姿勢を何度も見せられて、同情が失せる人もいそうである。

タラ役に小柄でハスキーな少女の記号そのものの俳優を起用していたり、タラが大人ぶる割にモラトリアムを終え社会に出ることを拒む素振りを描いたり、タラを年齢や自覚よりも未成熟に描きたかったのだろうか。そうであれば作り手はタラを通じて、大人の間際にいる子供の責任能力についても問うているのかもしれない。

ともすれば誰かのトラウマを抉りかねない内容でもあり、正直何かしらの警告が必要な気がする。封切されれば、コラムや制作者のインタビュー等で制作意図が語られる機会も増えるだろう。それらで準備をすることをおすすめする。

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うぐいす