劇場公開日 2025年2月14日

聖なるイチジクの種のレビュー・感想・評価

全113件中、21~40件目を表示

3.5社会派的なメッセージと家族のドラマ

2025年3月10日
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鑑賞方法:映画館

悲しい

怖い

知的

 物語のモチーフとなっているのは、2022年に起きたマフサ・アミニという女性の不審死である。彼女はヒジャブを被らなかったという理由で警察に拘束されて亡くなったと言われており、この件を巡ってイランでは各地で抗議運動が起こったということだ。劇中には、その模様を写した映像が再三登場してくる。

 自分はこの事件のことを全く知らずに本作を観た。
 確かにイランでは女性の人権は著しく制限されている。そのあたりの事は、アスガー・ファルハディやジャハール・パナヒの映画でも描かれている。彼等は女性に対する理不尽な差別をテーマに掲げ、世界的な評価を得ている作家たちである。こうした問題提起、告発は今作の中にも明確に読み取れた。

 さて、作品として観た場合、本作は中々ユニークな構成になっている。前半と後半でテイストがガラリと変わるのだ。
 前半は、主人公一家が抗議デモに巻き込まれていく社会派サスペンスのような作りになっている。長女レズワンがデモ鎮圧の流れ弾に当たって負傷した親友を家に連れ帰って来る…という展開で進み、緊張感あふれるタッチが持続する。
 後半は一転、家庭で起こる窃盗事件を巡るミステリ仕立てとなっている。疑心暗鬼に駆られ対立を深めていく家族は、やがて取り返しのつかない悲劇に飲み込まれてしまう。

 一つの作品の中に、このような形で異なる方向性が入り混ざると、普通であればとっ散らかった印象になるものである。しかし、本作はそこも上手くチューニングされていて、社会派的なテーマと家族のドラマ。この二つがラストにかけて相即不離の関係で見事に昇華されている。

 印象的だったのは、妻と娘たちが取調官に尋問されるシーンである。目隠しをされて筆記で調書を取るという、ちょっと今まで見たことがないような尋問シーンで実に不気味であった。そして、この尋問は後にイマンによって別のシチュエーションで繰り返されることになる。
 この演出からも分かる通り、この家族は現在のイラン社会そのものを暗喩している…ということなのだろう。女性に対する抑圧、支配がはっきりと投影されている。

 後で知ったのだが、本作で監督、脚本を務めたモハマド・ラスロフは、過去に反体制的な映画を撮ったことでイラン国内で実刑判決を受けたということである。彼は収監を逃れるためにイランから亡命し、本作のほとんどをリモートで撮影したらしい。そう考えると、よくぞここまでの作品を撮り上げることが出来たと感心してしまう。

 ただ、これは撮影事情が関係しているのかもしれないが、作劇や演出面でかなり気になる部分もあった。
 突然カーチェイスが挟まったり、イマンが次女をほとんど追求しなかったり、クライマックスの逃走劇も突っ込みを入れたくなる演出が目に付く。このあたりは実際に撮影現場で指揮を執れなかったことによる弊害かもしれない。

 尚、ラスロフ監督のようにリモートでゲリラ撮影をするスタイルは、実はジャハール・パナヒもすでに行っている。先頃観た「熊は、いない」は正にそれをメタ視点で描いた作品で面白かった。

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ありの

3.0撒いたものを刈り取る

2025年3月9日
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KsSKY

3.5「関心領域」を思い出したけど…

2025年3月9日
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悲しい

怖い

難しい

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ガンビー

4.0念願の昇進、一家意気揚々のはずが… 前半、思ったテイストとは違い、...

2025年3月9日
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念願の昇進、一家意気揚々のはずが…
前半、思ったテイストとは違い、イランで起こるデモとそれを鎮圧する過激な武力行使、生々しすぎる犠牲…実映像交え見せられる。これは予想だにしていなかったからガツンとくる。ただ、この政権批判を映画を通して表現するのは良いのだが、ちょっと長い気がした。
中盤、銃を無くしたことで猜疑心が生まれ、狂気の片鱗が見え始め、後半から一気にそれが爆発する。この前後半の違いが観ていて飽きさせないでくれた。

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いたかわ

3.5途中からの転調が残念で勿体ない

2025年3月8日
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イランでの政府への抗議デモと、それを暴力で弾圧する警官隊(すさまじいSNS画像は、本物ではないか)。
住所を知られれば家族にまで危害が加えられるほどの、体制側の仕事についている父親と、デモに巻き込まれ負傷し追われている友人を助けようとする娘たち。
父の目の前には昇進と豊かな生活というニンジンがぶら下がっているが、娘たちの行動が知られればすべてを失う。
イランの恐ろしい体制と、個人の相克を描いて、前半は傑作と言っていい。
ところが後半、無くなった官給拳銃の話になると、一気に家庭内のごたごたに矮小化してしまう。しかも、父の行動も娘の動機も理解し難く、途中からの転調が残念で勿体ない。

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ファランドル

3.5現実と希望

2025年3月8日
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怖い

難しい

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まこやん

4.0展開の意外性に唖然、そして最後は納得。

2025年3月7日
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yurimaripapa

3.0事前知識が必要過ぎる労作

2025年3月6日
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悲しい

怖い

本作の凄みを理解するには以下の予備知識が必要。
1. 道徳警察によるMahsa Aminiの殺害と、その後の反ヒジャブ運動
2. 本作の制作陣への政府の圧力
 監督は制作途中で亡命、母役は逮捕
3. 反ヒジャブ運動と政府の弾圧は国民に撮影され、VPNを利用してSNSに投稿されていた事
🎬️
これらの情報は英語版wikiに詳載されている。イラン人の常識を補完すると、本作が如何に命懸けで撮られたのか、何故政府を寄生者のイチジクに例えるのか理解しやすい。
 ただ、イラン人には言わずもがなでも、世界に訴えたいのなら、国情や背景も説明する国際版の制作が必要。じゃなきゃ、単体の作品として高評価できない。中盤まではサスペンスとしても確かに面白いが、終盤の追っ掛けっこや、訪れるラストも正直ショボ過ぎる。ラストは現政府が辿るべき未来を象徴しているのは分かるが、家族と物語としてあのラストはいただけない。
 本作が重要な事を描いている事や、命懸けで制作されたのを考慮しても、映画単体の評価は高くできない。ただ、本作のメイキングムービーが公開されたら必ず観に行くし、めっちゃ高得点を付けたくなる気がする。

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LittleTitan

3.03時間がすっごく長く感じた……

2025年3月5日
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ラスト15分はエッシャー展を連想させる不思議な空間の使い方でちょっと笑った。

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らまんば

3.5疑心暗鬼の家族と、ヒエラルキー

2025年3月5日
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悲しい

興奮

難しい

ミステリー性も兼ね備えた、家族のヒエラルキーの崩壊を描いた話
私の思い描く犯人とは違ったものの、時代の流れを考えると…
今の日本家族ヒエラルキーは全く逆じゃね〜
虐げられるのは父 ある意味羨ましいと思ったのは僕だけですかね〜 悲しい現実

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ろくさん

5.0完全に騙された、うえにすごい展開

2025年3月5日
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怖い

興奮

知的

ものすごい心理戦を駆使した映画かと思います。
いや〜前半の自分の感情と、後半の緊迫感がハンパない。

子どもたちの心情に思いを馳せる余裕がなく、今やっと、しみじみその気持ちを考えている。

みごとに観客を巻き込み、細部まで真実がわからないように描ききった作品だと思います。

そして、その裏側にある政治的な文化的な宗教的な背景が、しっかりと描かれているところが、ホントに素晴らしい。

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ミツバチば~や

4.5強権国家と家父長制の恐怖

2025年3月5日
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イランを舞台にしたサスペンスでした。念願かなって予備判事に昇進した主人公のイマン(ミシャク・ザラ)の一家は、妻ナジメ(ソヘイラ・ゴレスターニ)と長女レズワン(マフサ・ロスタミ)、二女サナ(セターレ・マレキ)の4人家族。イマンは職務に忠実に真面目に働いて来たようですが、昇進した途端に検察による不当な起訴を追認するよう迫られ悩むことに。そんな暗い気持ちのイマンは、上司から貸して貰った護身用のピストルを紛失してしまい、自らも刑に処せられる危機に陥り、それがきっかけで家庭内の疑心暗鬼が増幅していくというお話でした。

俯瞰して観ると、イランと言う強権国家の中で、家庭においては家父長制が敷かれて父権が重んじられ、そんな父親が国家同様に家庭内で強権を発動し、やがて”狂犬化”していくところが見所でした。そんなストーリーも面白かったのですが、随所の映像がリアルで背筋が凍ったり、意外な展開があって覚醒させられたりと、印象的なシーンの連続でした。

インパクトがあったシーンを順番に列挙すると、まずは長女レズワンの友人が反政府デモに巻き込まれ、というか参加した結果、顔に大怪我を負ってイマンの家に逃げて来たシーンは本当にゾッとしました。画面いっぱいに晒された彼女の顔の怪我を、妻ナジメが応急手当するシーンは強烈なインパクトが。とにかく怪我の様子がリアル過ぎて、本当に怖かったです。
その後も、不当な起訴を追認したイマンへの報復として、反体制派により一家の住所がネット上に晒されたために、家族4人がイマンの実家に逃れる際のカーチェイスも印象的でした。反体制派のアベックに見つかり、スマートフォンで撮影されるに至り、アベックの車とイマンの車は砂漠の中の道でカーチェイスを繰り広げました。まるで韓国映画かと思うようなドタバタな展開は意外で、3時間近い長編に強烈な香辛料をぶっかけることで、観ている方の神経を覚醒させてくれました。
さらにはピストルを隠した”犯人捜し”のため、イマンが妻や娘を”尋問”するに至り、最終的に逃げる彼女たちを追いかけるイマンの姿に、さらに恐怖は増幅されました。自分の地位や名誉のため、掛け替えのない家族を反体制派の不満分子のごとく扱う彼の強権は完全に狂犬で、自らの身に置き換えると非常に恐ろしいシーンでした。
物語の前半では、家父長制下の貞淑な妻として夫を立て、若い盛りの娘を窘めていた妻ナジメも、最終的には「あなたの本性を隠して来た」と発言。つまりは夫が”狂犬”の本性を持つことを端から気付いていたナジメの言葉は、強烈かつ痛快でした。

以上、印象に残る場面が随所にあり、さらには冒頭にも言ったようにイランと言う強権国家が、言論の自由や政治的自由が確保されていないばかりか、三権分立すらも確立されていない現状を余すところなく告発し、また国家全体だけでなく、家父長制により家庭内も抑圧されている点を表ざたにしており、社会的意義もたっぷりの作品でした。

そんな訳で、本作の評価は★4.6とします。

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鶏

3.5タイトルなし(ネタバレ)

2025年3月5日
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りゃんひさ

3.5政治的・社会的圧力の中で

2025年3月3日
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『聖なるイチジクの種』は、2022年のイラン反乱を描いた力強い映画。「Woman, Life, Freedom」運動の始まりを描写し、特に女性の抑圧に焦点を当てている。イランの中産階級の家族を通じて政治的・社会的圧力を描写し、実際の抗議活動の映像とフィクションを巧妙に組み合わせ、観客に緊迫感を与える。

ピストルの紛失以降、映画はやや解体するが、体制に仕える父親とその家族が直面する倫理的な葛藤を描き、イランの現実をドキュメンタリーのように感じさせる。観客は家族の苦悩を追体験することになる。

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どうかな?他に変更があれば教えてね。 😊

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アウトテープ

5.0支配欲とプライドからくるもつれ

2025年3月2日
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自分の環境をコントロール下に置こうとする欲望によって、人間同士のコミュニケーションが破綻していくさまが印象的だった。

大きな世界(社会)においては、神権政治を絶対視する価値観とリベラルな価値観の二つが対立し、小さな世界(家族)の中では、家族の絆を大事にする価値観が、前述の双方の価値観と摩擦を起こしている。

単一の価値観を信奉できれば良くも悪くも行動選択は単純だが、異なる様々な価値観を内在化している人物はその調停に苦しむ。例えば母親は、家族の絆に中心的価値を置いているからこそ、神権(夫)とリベラル(娘)の両者を飼い慣らそうとする。とはいえ、ニュートラルな仲介者であることはできず、「親」や「妻」という自分に固有の社会的役割への意識も加わるからこそ、振る舞いはより強迫観念的なものとなっていく。長女も父もこうした葛藤の中に置かれているのは同様だが、それぞれの価値観に配分する比重や自分の役割に対する意識がひとりひとり異なるため、アウトプットもばらばらとなる。その状況がまた、家族の集団行動をさらに掻き乱す。

冒頭、転職と転居をめぐる夫婦の会話からもわかるように、この映画の大人は(家族に対してさえ)見栄や体裁を気にしすぎている。弱さや恥を晒し、完全なコントロールを諦める覚悟があったら、ここまでの悲劇には繋がらなかっただろうに。

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のこ

4.0どんな恐怖映画より悍ましい現実

2025年3月2日
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前後半がはっきりわかれてる。前半は悍ましい現実を知らしめるドキュメンタリー映画、後半はサスペンス・スリラー映画。前半部の抗議デモや警察の暴行シーンは本物の映像というのだから当然超リアル。ぼかし入ってるけどかなり生々しい。このヒジャブを巡る反政府運動が起こったのはほんの数年前…幾度か報道番組で目にしたがあまり現実味を感じられていなかったと気がつきショックを受けた。同じ時空でこんなこと起きてます…そしてある意味、シャイニング(by スタンリー・キューブリック)な後半に救われる。前半の調子のまま最後までいったら何日間かは起き上がれなくなりそう…

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菓子

3.0やりたい事多過ぎかも

2025年3月2日
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ある家族を通して垣間見る現代イラン社会の諸問題。

途中までそこそこ面白く観ていたんだけど終盤から急に作品のトーンが変わって、色々と謎で何となく興ざめしてしまった。

終盤に向けてのネタ振りが少な過ぎる印象。

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石岡将

3.0家庭内の緊迫感の描写が今一つに感じます

2025年3月1日
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QuantumGR

5.0権力に対峙する人間の心の変貌

2025年3月1日
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前半は、価値観を強要する政府の権力に対する母娘の恐怖心が、
デモの暴動事件のSNS投稿動画、負傷者への対応などを通じて
家の中を主舞台にしながら増長していく様子が描かれる。

一転、後半はアクションあり、ホラーあり、サスペンスありの
エンタメ的な要素が満載の展開になるので楽しく、長めの上映時間は気にならない。

本映画は、置かれた状況から母娘の立場、視点を強く意識させられるが、
密かに変貌していく父イマンの姿がストーリー全体の幹となり、
それが枝葉のように母娘に絡まっていく様が面白い。

映像表現の趣向も全体に面白く、
長めのシャワー(水やり)、ヘアカット(伐採)のシーンなどは
父イマンがまさしくイチジクの木に乗っ取られつつあることを
比喩的に表現しているように思った。

実際のデモの映像が多く使われているので
特定の地域、文化圏の政府批判的な要素を強く印象付けられるものの、
その最前線から一歩離れて対峙する一般市民、家族の
心の有り様や変化を描いている点で
より普遍に昇華しうる物語になっていると感じた。

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HK

4.0銃が無くなるのは後半。

2025年2月28日
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前半この国の宗教的、社会問題がじわじわとこの家族に迫ってくる。たぶんこの引っ張り具合が上手くいってるのだと思う。ヒジャブを被らなかった女性が私警団に殺されたために起きたデモは日本でも報道された。その実際のデモ映像も使われている。父親の仕事と学生の娘2人、板挟みに合う母親。
劇中の台詞でもあるように「神の教えは変わらない!」「時代は変わってるのよ!」
つまりそう事である。

「唯一の神」と言う考えは地球が小さかった頃の話だ。
地球にいくつも宗教が有り、殺し合いの原因になっているのにそれでも宗教は人間に必要なのか?
必要な個人は居るんだろうなぁ。
しかし宗教が拡大、政治とつながり、人と人を繋ぎ留め縛るために機能し始めたあたりからヤバくなってきたような気がする。

話後半の流れはなかなかうまくやった感あり。
監督もこの映画で国を追われて可哀想なはなしである。

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masayasama