「【”女性の命、人権を蔑ろにする国、男にイスラムの神の加護はない。”今作はイラン革命裁判所の審議官になった男が、護身用に渡された銃を紛失した事で窮地に立たされ、本性を現し報いを受ける寓話である。】」聖なるイチジクの種 NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【”女性の命、人権を蔑ろにする国、男にイスラムの神の加護はない。”今作はイラン革命裁判所の審議官になった男が、護身用に渡された銃を紛失した事で窮地に立たされ、本性を現し報いを受ける寓話である。】
<Caution!内容に触れています。>
ー 今作は、2022年にイラン・テヘランでヒジャブ着用を義務付ける法律に違反したとして、警察に逮捕された女性アフサアミニさんの不審死により、テヘランで起きた”女性・命・自由”運動を背景に描かれている。
そして、今作製作により有罪を言い渡されたモハマド・ラスロフ監督はドイツに亡命したのである。
ご存じの通りイランは、映画大国であるがモハマド・ラスロフ監督やジャヒール・パナヒ監督は、反体制的な映画製作により、度々国家から厳しい処分を受けている。
だが、モハマド・ラスロフ監督は、そのような危険を承知でこの運動を弾圧する政府の役人の一家をドラマとして描いたのである。ー
■革命裁判所の審議官に20年掛けて昇進したイマン(ミシャク・ザラ)は彼を昇進させた上司から護身用の銃を渡される。
抗議デモ参加者に対する山の様な判決書に目を通すことなくサインする事を裁判官から求められる彼は日に日に疲れが溜まって行くが、銃の紛失を切っ掛けに、それまで彼を娘達レズワン、サナたちからの糾弾から彼を擁護して来た妻ナジメ(ソヘイラ・ゴレスターニ)にも当たるようになり、到頭彼女達を郊外の叔父の家に連れて行き、誰が銃を盗んだのかを尋問する愚かしい行為に走るのである。
◆感想<Caution!内容に触れています。>
・イマンが昇進した当初、妻ナジメはお祝いをするし、食洗器を買ってくれと頼むし、官舎に引っ越すので娘達に部屋を与えられると喜びを隠せない。
だが、夫が革命裁判所の審議官になった事で、家族には政府に対する忠誠がじわじわと求められるのである。
・レズワンの親友がデモに巻き込まれ、散弾銃を顔に受け血塗れになってイマン家に担ぎ込まれる辺りから、物語はきな臭くなる。血まみれの顔から散弾を取り出すナジメの表情と娘達の怯えた表情。
・イマンとナジメはそれでも、娘達に政府に対する忠誠を強制し、娘達は激しく反発するのである。そして、ある日イマンの銃が無くなるのである。
イマンは最初、自分のミスと思い部屋中を探し回るが、徐々に疑いはあろうことか、妻や娘に向けられて行くのである。
■今作では、スマホで撮影したと思われる実際のデモで、道路に血だらけで横たわる学生やニュースなどが映される。
正式なカメラでは当然、無理だったのであろうが、それが逆に臨場感を増している。
・イマンは上司から見つからないと懲役3年だと叱責され、代わりの銃を渡されるが、焦りを深めて行くのである。街中で隣に停まった車の若い女性が、ヒジャブを付けていない姿を見た時の彼の険しい顔。
・到頭、彼は妻と娘達を郊外の叔父の家に連れて行き、誰が銃を盗んだのかを尋問する愚かしい行為に走るのである。妻とレズワンを牢に閉じこめるが、銃を盗んでいたサナは脱出する。
サナは父に向けて且つて家族が仲が良かった頃に行ったピクニックの時の音声を流すのだが、イマンにはその想いが届かない。そして、サナは逆に父を閉じこめナジメとレズワンを開放するが父も脱出し、激しい追いかけ合いが始まり、イマンとサナは銃を向け合うのである。
そして・・。
<今作は、イラン革命裁判所の審議官になった男が、護身用に渡された銃を紛失した事で窮地に立たされ、愚かしき本性を現し報いを受ける”女性の命、人権を蔑ろにする国、男にイスラムの神の加護はない。”事を描いた恐ろしくも哀しき寓話なのである。>
<2025年4月20日 刈谷日劇にて鑑賞>