「支配欲とプライドからくるもつれ」聖なるイチジクの種 のこさんの映画レビュー(感想・評価)
支配欲とプライドからくるもつれ
自分の環境をコントロール下に置こうとする欲望によって、人間同士のコミュニケーションが破綻していくさまが印象的だった。
大きな世界(社会)においては、神権政治を絶対視する価値観とリベラルな価値観の二つが対立し、小さな世界(家族)の中では、家族の絆を大事にする価値観が、前述の双方の価値観と摩擦を起こしている。
単一の価値観を信奉できれば良くも悪くも行動選択は単純だが、異なる様々な価値観を内在化している人物はその調停に苦しむ。例えば母親は、家族の絆に中心的価値を置いているからこそ、神権(夫)とリベラル(娘)の両者を飼い慣らそうとする。とはいえ、ニュートラルな仲介者であることはできず、「親」や「妻」という自分に固有の社会的役割への意識も加わるからこそ、振る舞いはより強迫観念的なものとなっていく。長女も父もこうした葛藤の中に置かれているのは同様だが、それぞれの価値観に配分する比重や自分の役割に対する意識がひとりひとり異なるため、アウトプットもばらばらとなる。その状況がまた、家族の集団行動をさらに掻き乱す。
冒頭、転職と転居をめぐる夫婦の会話からもわかるように、この映画の大人は(家族に対してさえ)見栄や体裁を気にしすぎている。弱さや恥を晒し、完全なコントロールを諦める覚悟があったら、ここまでの悲劇には繋がらなかっただろうに。
コメントする