劇場公開日 2024年7月12日

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「ひたすらディスり合っているのに、なぜかほっこり」お母さんが一緒 おじゃるさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0ひたすらディスり合っているのに、なぜかほっこり

2024年7月13日
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鑑賞方法:映画館

泣ける

楽しい

幸せ

大好きな江口のりこさん主演ということで、公開2日目に鑑賞してきました。姉妹3人のそれぞれに共感する部分も多く、なかなか楽しく、ほっこりする作品でした。

ストーリーは、親孝行をしようと母の誕生日祝いの温泉旅行を計画した、長女・弥生、次女・愛美、三女・清美だったが、幼いときから母や姉妹へ抱いていたそれぞれの不満が愚痴となってこぼれ出し、しだいにエスカレートしていく中、清美がサプライズで呼んだ恋人タカヒロが現れ、さらに事態は混乱し、収拾のつかない修羅場と化していくというもの。

本編の90%は母親への愚痴と姉妹のディスり合いという、かなり攻めた内容の作品なのですが、その中に垣間見える愛情や家族の絆がなかなか沁みてきます。とはいうものの、一緒に旅行に来た母親はなぜか別室で、最後まで顔も映らなければ言葉も発しません。それなのに、三姉妹の言動を通じて、その存在がありありと伝わってくるという構図が、なかなか興味深いです。

そんな本作の大部分を占める姉妹の大舌戦ですが、3人の立場や性格を反映させた話しっぷりと、それぞれの言い分に一理あると思わせるワードチョイスが絶妙です。中でも、最も母親の性格を強く受け継いだであろう弥生が無自覚に発するネガティブな言動は、ことさら周囲をイラつかせます。しかし、本人はむしろ親切心から正しいことを言っていると思っているので、よけいにタチが悪いです。妹たちが我慢の限界を迎えて反撃するのも当然でしょう。

ただ、これだけ本音で激しくぶつかり合えるのは、なんだかんだ言ってもそこに絶対に切れない繋がりがあると感じているからなのかもしれません。安心感と煩わしさ、絆と束縛、優しさとおせっかい、期待とプレッシャー、家族から感じるさまざまな感情は、どれも表裏一体のような気がします。そう考えると、母のネガティブワードも、実は娘たちへの深い愛情に裏打ちされた言葉だったのかもしれません。それは、娘たちが母に吐き捨てる言葉も同じです。

一見すると三者三様の娘たちですが、互いに相手の中に母に似たものを感じて不満に思っていたことでしょう。でも、しかたないのです。だって「お母さんが一緒」なのですから。そんな姉妹が、飾らぬ本音を吐き出し、壮絶にぶつけ合うことで、改めて家族の絆を強く噛みしめたのではないでしょうか。3人とも母に似て面倒な一面をもっているようですが、この旅行を機にちょっとだけポジティブになれたのではないかと思います。なんだか私も、離れて暮らす母や弟妹と久しぶりに旅行に行ってみたくなりました。

三姉妹役は、江口のりこさん、内田慈さん、古川琴音さんで、息の合った本当の姉妹のような演技が秀逸です。脇を固める青山フォール勝ちさんも、姉妹とは全く異なる空気を醸し出し、存在感を発揮しています。

おじゃる