劇場公開日 2024年6月28日

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「シンプルな構造に滲む語りのマジック」WALK UP 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5シンプルな構造に滲む語りのマジック

2024年6月26日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

いつもながらのホン・サンス映画といえるし、でも、翻って考えると彼ほど「いつも」という言葉が意味を持たない監督は他にいない。彼の映画は大抵は二人か三人が織りなすシンプルな方程式であり、あるいは固定カメラと長回しの会話劇。本作でもその特徴を踏襲しつつ、かと思えば、小さな4階建てアパートを上へと昇っていく。昇るたびに、時制と関係性は微妙に様変わり。作品の要となる「映画監督」という役どころはいつもながら、側から見ると尊敬すべき豊かな人間のようでいて、実のところ情けなく、だらしがない。本人も自分の性根に気づいているのに、もはや流れる川のように、どうすることもできない。すなわち、彼らは昇る。それに合わせて、我々は主人公の心をズンズン降りていく。そうやって彼という人間を深く知る。その上、章が変わると「あれっ?」という展開がじんわりとにじむ。ほら、いつもどおり。我々はホン・サンス映画の魅力と沼に抗えない。

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牛津厚信