「感情移入すればするほど楽しめる作品」ブリーディング・ラブ はじまりの旅 うぐいすさんの映画レビュー(感想・評価)
感情移入すればするほど楽しめる作品
傷ついた娘が父に連れられトラックで二人旅に出るロードムービー。
なんの変哲もない移動時間に、娘と父の過去や抱えている問題が断片的に明かされていく。明かされる情報量は必要最低限だが感情がはっきりと乗っているため、情報の余白を想像で補ううちに、父の後悔や娘を案じる気持ち、娘が父へ向ける愛憎が自分の中に入り込んできた。
登場人物や環境のディティールには意図したものであろう余白が多くとってあり、そこに観客が自分や身近な人の経験を投影したり、登場人物の傷に自分の何らかの傷を重ねて没入するタイプの作品だと感じた。
近年は、大人が抱える「親からの見捨てられ経験」を扱う作品が増えた気がする。
本作の娘も、事情を説明されないまま父が家を出て行った時、父が自分のことに手一杯で丁寧に構ってもらえなかった時、父が再婚して新しい家庭と子供を持った時、そして物語の始めに母が自分を父に託した時、それぞれのタイミングで見捨てられ感を抱いていることが伺えた。
親の無力さや手抜き、そして離婚が、子供=未来の大人の心の深い部分に傷を作ることは少なくない。そのことで親を批判的に描くと親の個人としての人生や幸せになる権利を否定してしまうため、描き方や落としどころは非常に難しいのだと思う。本作では父が必死に娘と旅に向き合う姿を描き、父と娘、どちらにも寄り添う形をとっていたのが良かった。また、娘が未熟過ぎず成熟し過ぎてもいない、この年代だからこそできる相互理解の形がとられていたのも良かった。