「それでも映画館に行く価値がある作品があるのか。ハリウッドが出したその答えの一つが本作。巨大竜巻を描くスペクタルシーンは、まさに圧巻です。」ツイスターズ 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
それでも映画館に行く価値がある作品があるのか。ハリウッドが出したその答えの一つが本作。巨大竜巻を描くスペクタルシーンは、まさに圧巻です。
竜巻の恐怖を描いた1996年の映画『ツイスター』の続編。超巨大竜巻が多数発生したオクラホマを舞台に、知識も性格もバラバラな寄せ集めチームが竜巻に立ち向かう姿を描いたアクションアドベンチャー作品です。
連日の酷暑、集中豪雨による水害など、日本の夏は気がめいるニュースが絶えません。海の向こうのアメリカもたびたび異常気象に見舞われており、とりわけ竜巻がもたらす被害はすさまじいものがあります。1996年の「ツイスター」は、竜巻に立ち向かう追跡者たちの奮闘を描いた異色のパニック映画でしたが、本作はその新たな現代版。これが実に見事な出来ばえなのです。
●ストーリー
ケイト・カーター(デイジー・エドガー=ジョーンズ)は、5年前の学生時代にオクラホマ州で嵐を追うハビ(アンソニー・ラモス)、アディ(キーナン・シプカ)、プラビーン(ニック・ドダーニ)、そしてボーイフレンドのジェブ(ダリル・マコーマック)とともにストームチェイサーとして働いていました。チームは竜巻の強さを弱め、さらなる研究のための資金を確保することを目指しポリアクリル酸ナトリウムのビーズを大量に竜巻に打ち込むますが、竜巻がEF5にまで激化し一同は退散しようとします。しかしアディ、プラビーン、ジェブは竜巻に飲み込まれて死亡し、ケイトとハビは生き残るのてした。
5年後。ケイトはニューヨークで自然災害を予測して被害を防ぐ仕事をしていました。彼女は、故郷オクラホマで史上最大規模の巨大竜巻が連続発生していることを知ります。 そんな時、学生時代の友人ハビが突然連絡をよこして、ケイトに彼が開発した革新的な竜巻追跡システムをテストするため、手伝うように頼んできます。
ただ、過去の竜巻との忌まわしい出来事がトラウマとなっているケイトは、もう竜巻に関わりたくないと拒絶します。それでも必死に説得してくるハビに折れたケイトは、竜巻が連続発生している故郷の対策のために戻ることを決意するのでした。
故郷に戻った彼女は、竜巻を追いかける姿を投稿することでSNSで大活躍中の人気者でクールだがタフな男タイラー・オーウェンズ(グレン・パウエル)と出会います。竜巻が猛威をふるう中、ケイトとタイラー、そして対抗するチームは、オクラホマ中央部に複数の竜巻が接近するなか、前代未聞の計画で巨大竜巻と命がけの戦いに身を投じることになるのです。
●解説
ある者は科学的な研究のために、ある者は「バズる」動画を追い求めて。それぞれの目的を秘めて竜巻を追う人々はストームチェイサーと呼ばれ、実際に活動中の死亡例も報告されています。しかし本作に悲壮感はありません。「ミナリ」で脚光を浴びたリー・アイザック・チョン監督は、竜巻多発地帯のオクラホマで撮影を実施。畏怖の念すら抱かせる自然現象を視覚効果で映像化しながら、主人公たちの特殊車両が険しい大地を疾走する様を爽快に見せていくのです。まさに追いつ追われつ、怒濤のスリルみなぎる冒険活劇です。
さらに「ツイスター」にも盛り込まれていた「オズの魔法使」へのオマージュをちりばめ、ロデオなどの伝統的な風景を35ミリフィルムに焼きつけた映像世界は、どこを切り取心でもアメリカン。人命を救う使命感と気象への好奇心を大きな瞳にたたえたケイト、一見軽薄だがカウボーイの開拓精神を今に受け継ぐタイラーが織りなすドラマも、ほどよくロマンチックで古き良きハリウッド映画のようです。
ちなみに「ツイスター」では「シャイニング」上映中のドライブインシアターが竜巻に吹っ飛ばされましたが、本作では映画館がクライマックスの舞台となります。暑気払いにもうってつけの快作です。
●感想
話の組み立てが非常にいいのです。竜巻にここまでテンションが上がるのは不謹慎では?と思いましたが、臨場感と熱量に圧倒されて一気に新たな「ツイスターズ」の世界に引き込まれた。
竜巻の中に入って花火を打ち上げたりする、お騒がせユーチューバー集団が、時代の闇をあぶり出す役回りとなっています。これがリアルな現実社会を反映しています。
気象のプロであるケイトの足を引っ張りそうに見えたアマチュアのユーチューバー集団でしたが、ケイトの参加するハビの竜巻観測プロジェクトにスポンサーの疑惑が浮上。それに不信感を抱いたケイトとタイラーが接近していくという意外な展開。
ケイトは仲間を失ったトラウマを抱え、インフルエンサーのタイラーは欲望のままに突っ走ります。違いはあれど誰よりも“竜巻おたく”の2人が、恋愛感情ではなく知識や経験によって共鳴しあっていくのです。そんなフェアな関係が気持ちいいところ。カウボーイが似合うタイラーは、野性味とおちゃめさを持ち合わせていて実に魅力的でした。
日本では巨大竜巻には縁遠く、どうしても他国の出来事と見てしまいがちです。それでも異常気象の猛威に晒されている昨今のわが国の気象を思えば、巨大竜巻が決して他山の石と無関心を決め込むのはどうかと思うのです。
●最後にひと言
コンピューターグラフィックスで何でもできるし、動画配信サービスなら好きなだけ映画も見られます。それでも映画館に行く価値がある作品があるのか。最近のハリウッドは、そんな命題に応えようと懸命です。本作はその答えの一つ。巨大竜巻が全てをのみ込む恐怖と、壮大な自然の神秘とカタルシス。観客は登場人物と一緒に竜巻を追い続け、何か見えるかを体験するのです。ケイトとタイラーは観客を運ぶ乗り物となって、感情の波を作ります。巨大竜巻を描くスペクタルシーンは、まさに圧巻。できれば巨大スクリーンとドルビーアトモスでの鑑賞をお勧めします。大きなスクリーンに没入し、余計なことを考えないで見てこそ楽しめそうですし、これが小さなテレビ画面では面白さが半減することでしょう。