「タイトルに偽りなしの大傑作。」シビル・ウォー アメリカ最後の日 ジョイ☮ JOY86式。さんの映画レビュー(感想・評価)
タイトルに偽りなしの大傑作。
凄まじい物を見た。
これは紛れもない傑作だ。
音響がとにかくリアル、今スクリーンで見るべき映画なのは間違いない。
現代アメリカでの内戦。
その只中に放り投げられたようなこの感覚。
誰が敵で誰が味方かも分からない。
撃ってきたらそれが敵、ただそれだけ。
ここには正義も悪もない。
ひたすら恐怖の連続。
緊張感が最後まで続き、エンドロールまでの間生きた心地がしなかった。
体感型戦争映画の大傑作なのは間違いないだろう。
現代の市街戦における臨場感は「トゥモローワールド」、「クローバーフィールド」にも近いか。
ディストピアの世界を舞台にしたロードムービーとしては「ラスト・オブ・アス」を思い出す部分もあった。
内戦下でのロードムービーとしては韓国映画の大傑作「タクシー運転手」にも近いものがあるかもしれない。
戦場映画とロードムービーという二つの要素によって、メリハリのある構成になっているのも上手い。
ベテランカメラマンを演じたキルスティン・ダンスト。
ヒリついた作品唯一の癒しスティーヴン・ヘンダーソン。
エイリアンロムルスとは全く異なる役を演じ切ったケイリー・スピーニー。
キャスト陣も本当に素晴らしかった。
ただこの作品の特筆すべき点は"居心地の悪さ"だろう。
映画的カタルシスを一切廃したドライな作風はひたすらリアル。
それでいて敵も味方もない上に、どちらも残忍な殺し合いを繰り返している。
故にどちらにも感情移入できず、ただ怯えることしかできない。
でもそれが戦争なのだろう。
そういう意味では、過去のどんな戦争映画よりもフラットに描いているとも言える。
大それたメッセージ性を全面に出したり、どちらか片方を賞賛するような作風にもなっていない。
公平に、フェアに戦争を見せているからこそ居心地が悪い。
これは当然の感覚だと思うし、当然意図的な物だろう。
見終わった後、安易に観客を心地よくしてくれない意地悪なエンディングも含め。
非常にA24ならではの戦争映画に仕上がっていた。
見る人によっては嫌悪感すら覚える作品だろうが、それが戦争の1つの側面とも言えるのかもしれない。
アメリカが割れ、世界で侵略戦争が多発している現代にこの映画を放映してくれている意味を噛み締め。目を背けずに起こっている事を直視してほしい。
私は見ている間に落涙していました。
どこかのシーンに感動してとか、悲しくてとかではないんです。
ただただ人間が殺し合う事の愚かさや虚しさに自然に涙が流れていました。
人間が人間である限り終わらないであろう戦争を、これほどフェアに描いてくれた監督に感謝。