「善き人を優先しない戦場」シビル・ウォー アメリカ最後の日 LittleTitanさんの映画レビュー(感想・評価)
善き人を優先しない戦場
1. 大義が見えにくい戦争
宣伝は目にしたが、詳しい背景までは調べずに鑑賞したのが結果的に良かった。鑑賞後wiki等で、憲法違反の3期目を強行した大統領に抵抗する内戦(civil war)と了解したが、映画での説明は最低限で初見では詳細を把握できなかった。北米の内戦と言えば、1780年前後の独立戦争、1860年代の南北戦争は有名。どちらも大義名分が明確。特に北群の奴隷解放は大義として推しやすい。
本作の内戦も、大統領の暴走への抵抗という大義があったとしても、政府側の要人を裁判にかけず殺しまくる姿は、フランス革命より華かに野蛮。敵味方を確かめずに狙撃し合う兵士、丸腰の記者を香港出身だと撃ち殺す兵士に、軍の規律も統制も皆無。盗もうとした隣人を警察に任せず、半殺しにするガソリンスタンドの一般市民と変わらない。内戦は容姿で敵味方を判断しにくいし、兵士が非戦闘員になりすましている可能性もあるが、明らかに丸腰の相手を銃で威圧する兵士に正義は感じられない。もはや「北斗の拳」「Walking Dead」の世界。R指定に留める為に、敢えて描いていないが、恐らく多くの戦場同様にレイプも横行していそう。ただ事ここに至って、記者と名乗れば特別(透明人間)扱いしてもらえると期待しているジャーナリストにも、妙な選民思想を感じる。
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2. 死の機会は平等に ~ 善い人が護られる訳じゃない
NYを旅立った主要人物の4名(Lee, Joel, Jessie & Sammy)の内、2名が死ぬ。最初は年老いたSammy。先に捕らえられた若いJessieを助けに向かったLeeとJoelまで陥った窮地を、車で兵士をなぎ倒して救うが、残っていた兵士の銃弾に倒れる。ラストでは、無鉄砲に飛び出したJessie を庇い、Leeがシークレットサービスの銃弾に倒れる。
2人に共通しているのは、若い仲間を救おうとした事。更には、そもそも若者の行動にリスクがあると指摘している事。Sammyは、Jessie らに銃を向ける兵士の説得を試みるLeeとJoelに危険だと警告している。非戦闘員の遺体を埋める汚れ仕事は市民にバレたくない筈で、記者にも目撃されたくない筈。そこにノコノコ出ていったら、救う処か一緒に埋められかねない。実際、香港出身者とは言え、Reutersの記者を殺した事を隠滅する為、全員殺されていたかも。
Leeも、防弾チョッキも黄色のベストも着ずに暴動を取材するJessie を諌めていたし、経筋不足の彼女がD.C.に向かうのに反対だった。終盤案の定、Jessie は拙速過ぎる行動をとり、庇ったLeeの死を招いた。
正しく忠告し、仲間を助けようとした2人が亡くなった。戦場では善い人を神が優先的に護ってもらえる訳じゃない。寧ろ、仲間を救う為にリスクを冒したのだから、そのリスクに見合った結果がもたらされただけなのかもしれない。東日本大震災の時に、中国人留学生を山まで避難させた男性が、妻も迎えに行くといって山を下りて津波に呑まれた。災害でも善き人を神が救ってはくれない。
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3. Leeは最後まで記者でいたのか?
恩師(mentor)のSummyの死に動揺したLeeは、Summyの遺体の写真を消し、D.C.の前線でたじろぎ、取材に後ろ向きになる。それでも、逃走する政府公用車に群がる兵士に、大統領は未だWhite houseに居ると断言し、再び勇ましく最前線に向かう。ただ本当は、この時点で Lee はもうScoop記者ではなかったのかもしれない。旅の途中で、Jessie は Lee に「私が撃たれる姿を貴方は撮る?」と尋ねた。Leeは曖昧に応えるが否定もしない。やはりScoop記者なら、何より記録を優先する筈。しかし、Sammy に救われた Lee は、実際には Jessie の救助を優先した。不用意に飛び出したのは Jessie の自己責任。その酬いは Jessie 自身が受けて然るべき。にもかかわらず、撃たれたのは救助のリスクを冒した Lee で、その姿を記録したのはJessie だった。
Jessie は大統領が撃たれる瞬間も、殺戮者のドヤ顔もScoopする。間違いなく生前の Lee 同様、多くの記者の羨望と嫉妬を浴びる伝説的な存在になった。そもそも、Leeの感が冴え渡らなければ、更にLee に護られなければ、Jessie はその場に居る筈もない。戦場で取材するなら先ず己を護れと新人を諭したLee自身が、恩師と同じく仲間の危機を傍観できなかった。戦場を透明人間として傍観し、記録できなきゃ記者失格なんだとしても、最後に Leeが「人間」でいた事を Jessie には語り継いで欲しい。