劇場公開日 2024年10月4日

「制作意図は高く評価していい作品」シビル・ウォー アメリカ最後の日 Moiさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0制作意図は高く評価していい作品

2024年10月5日
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鑑賞方法:映画館

感想

2024年11月5日にアメリカ大統領選挙が実施され
る。核となる二大政党、現政権の民主党。バランス
オブパワーの原則論からいくと次期政権は共和党と
いう概念は21世紀の今日、日々、刻々と変わって
いく世界の政治状況を見る限り全く通用しないもの
となっているのは明らかである。現に今回の大統領
選挙の二大政党の支持率を見るとその差は僅差であ
り、ここだけを見るとアメリカの世論が二分されて
いるように感じる。

大統領候補者の資質の判断やアメリカ本国内におけ
る人口増加によるダイバーシティの深化が進み多元
的思想に基づく経済行政運営などは合衆国と言うだ
けのことはあり、法律、政治、経済、文化思想にお
ける分野に於いてまで50州分の考え方が明確に別
れてきているのも最近の傾向である。
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それにしてもこのような映画がいつかは出来るので
はないかという予想はしていたが、やはり創ったな
。という実感で制作が米映画界のダイバーシティ深
化の代表とも言える問題作連発のA24。今年の春、
全米でたった2館で公開されながらも2週間全米興
行収入1位を記録したというニュースを見て絶対に
観ておかなければいけないと感じ、映画館に足を運
んだ。

世論分断どころか、現政権に対して21世紀のシビ
ル・ウォーを起こしたカリフォルニアとテキサスの
西部連合(WF)。そして連邦から離脱したフロリダ
を中心にした他州連合の第三勢力までもが絡み全米
を巻き込む、WFよる現政権に対しての戦闘が展開
されている状況。戦線はWF優勢で末期状態。ニュ
ーヨークから内陸部を経由して無法地帯となってい
るアメリカ東海岸地区を南下、陥落寸前のD.Cを目
指して大統領に直接インタビューを試みようとする
、ロイター(ユダヤ系アメリカ人創設。現実の報道
会社名が映画内で使われていたのもショック!)通
信の雇われ報道記者の主人公達の視点を中心に世界
中の紛争、戦争におけるジャーナリズムの意義とは
何かを考えさせるのかと話の途中まで考えていた。

しかし結論はそこにジャーナリズムの意義などを感
じさせる余裕さえもない、怒りと暴力の応酬による
権力装置の奪還の瞬間しか描かれていなかった。ま
さに硬直化し、泥沼化した人間の姿を冷淡に克明に
記録する記者と使命(大統領殺害)を全うするのみに
執着する兵士の姿しかなかった。最後に大統領のコ
メントが聞けそうになる落ち着いた展開があるのか
と思わせる雰囲気はあるのだが、弁解の余地無くあ
っと言う間に生命が奪われてしまう。人間性の俗悪
な低次元な部類の振る舞いで歴史が形創られてしま
う恐怖が語られる。人間性を優先して行動する本人
自身が抹殺されてしまうという理不尽な世界を描い
ていたのだ。現実的で極めて冷徹な恐怖である。後
味が必ず悪いのがA24制作全作品の特徴である。

製作・脚本・演出・映像
政治的な圧力もかかったと思われるテーマを臆する
事なく勇気を持って創り上げた心意気は◎。

設定的に統治機構の重責を担う連邦警察の廃止やカ
リフォルニアとテキサス、民主党の牙城州と共和党
の保守本流の中心州の連合と武力闘争など現実的に
考えられない設定であり、話はあくまでもリアルな
ようで原則論としての政治的視点からはズレる大担
な状況設定であった。脚本のみの出来は深く突っ込
めない事情もあったのだろう。⭐️3程度の出来と
感じる。
実際のところ2024年10月現在ではテキサス州の
民主共和双方の支持率は極僅差で共和党優勢であり
共和党絶対優位ではなく民主の想定外大逆転もあり
うると空想された原因となっているのかも知れない

演出的には厭世観とジャーナリズムの真迫観が感じ
られる描写でありドキュメントを観ている様であっ
た。軽率に描かれていたアジア系ジャーナリストが
ホワイトプアそのものの考え方を持つヤバい白人(
ジェシー・プレモンス)に射殺されるシーンもショ
ックで目を見張る。製作者であるA24の勢いの強
さを感じる。
映像はVFXの進歩により現実に想定される映像と
して遜色のない出来映えとなっている。◎

配役
報道記者達の出身と出自がアメリカそのものを反映
しており興味深い。全うな人間性を併せ持つ報道記
者であるリーをキルステン・ダンストが今までにな
い役どころとして淡々と地味に演じている。新進ジ
ャーナリスト、ジェシー役のケイリー・スピーニー
も人間的に一皮剥ける過渡期の役を上手くこなして
おり印象的であった。また気がおかしくなるのを必
死に抑え、大統領に最後のインタビューを試みた南
米系のジョエル役ワグネル・モウラも印象的で記憶
に残る。更に老練で常識的な人間性でほぼ現在の政
治的主流意見を持ち合わせている黒人のサミー役の
名優スティーヴン・マッキンリー・ヘンダーソンも
素晴らしい演技で良い味を出していた。

現実としてのアメリカの統治機構は大統領統率の形
は取られているが、司法、行政的に見ても三権の分
立は厳しく守られていて、簡単に分離独立を一つの
州が唱え実現するのは難しいだろう。しかし映画の
中で描かれる個人主義に基づく極端な保守白人優位
思想などは多民族国家の中でこれから問題が大きく
なる可能性があり注視していく点として描かれてい
るところは評価できる。

作品として流動的な政治状況と様々な現体制の意見
に臆する事なくひとつの主義主張を映像化した事と
俳優陣の素晴らしい演技に敬意を払って2024年現
在の評価としては⭐️4とした。

IMAX鑑賞

Moi
トミーさんのコメント
2024年10月5日

共感ありがとうございます。
自分には、ジョシーとジョエルはもう別にイッテしまった感でした。

トミー