劇場公開日 2024年10月4日

「What kind of American are you?」シビル・ウォー アメリカ最後の日 鶏さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0What kind of American are you?

2024年10月4日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

今まさにアメリカ大統領選挙が行われていますが、そんな”民主的”な手段ではなく、内戦でアメリカの支配者を決めようという”近未来”を描いた作品でした。何度も観た予告編では、兵隊が民間人に対して「What kind of American are you?」と詰問するシーンが流れてました。ちょっとユーモラスな印象があるシーンでしたが、実際に観てみると主人公たちが殺されるかどうかという本作で一番緊迫したシーンであり、本作の内容を象徴するセリフだったので、あの場面を予告編に選んだ人のセンスに敬意を表したいと思いました。しかも赤いサングラスを掛けた兵隊が、よくよく見たらジェシー・プレモンスで、先日観たばかりの「憐みの3章」とは全然違う雰囲気の役柄で驚きました。今年のカンヌ国際映画祭で男優賞に輝いたジェシー・プレモンスにしてはほんの短い登場シーンでしたが、インパクトは抜群でした。

さて内容ですが、アメリカで実際に内戦が起こるとすれば、赤い州=共和党支持の州vs青い州=民主党支持の州に別れて戦いそうなものですが、本作では赤の代表・テキサス州と、青の代表・カリフォルニア州が手を組んで大統領がいるワシントンD.C.に進軍するというものでした。アメリカの実情を考えれば、この2州が手を組むとは到底思えないため、内戦の大枠にリアリティはありませんでしたが、一方で市街戦と中心とする戦闘シーンは実にリアリティがあり、一般市民が巻き添えに遭い、多数の死傷者が出ている様は、今般のロシア・ウクライナ戦争や、イスラエルによるガザやレバノンへの侵攻の恐ろしさを想起させるものでした。

また、大統領に対する単独インタビューをするために、ニューヨークからワシントンD.C.を目指したジャーナリストとカメラマン達の決死のドライブは迫力満点でした。戦地を取材して我々に伝える彼らの存在は、歴史の証人としても非常に重要であることを再認識したところ。日本ではとかく”マスゴミ”嫌いのネット民から叩かれがちの存在ですが、彼らのような人がいなければ真実を後世に伝えることは出来ない訳で、日本でももっと評価されて然るべきかなと感じたところでした。
ただ、件の「What kind of American are you?」に繋がる原因を作ったカレンが並走する車に乗り移った行動は、イマイチ動機も不明だし物語的にも突飛な流れであり、ちょっと合点は行きませんでした。ジェシー・プレモンスのセリフが良かっただけに、もう少し自然な流れで繋いで欲しかったと思いました。

そんな訳で、本作の評価は★4とします。

(追記:2025.6.14)
アメリカ大統領選挙前に鑑賞した本作でしたが、その後トランプ候補が2度目の当選を果たしました。「MAGA」という標語のもと、「トランプ関税」「不法移民追放」と言った政策で、国内外に驚愕の影響を与えているトランプ政権ですが、選挙戦当時ウクライナ戦争やガザ紛争を「数時間で止められる」と豪語していたのとは裏腹に、いずれの戦争もいまだ続いています。それどころか、直近ではインドとパキスタンという核兵器保有国同士の紛争が発生したり、イスラエルがイランを攻撃してイランがその報復を行い、一層緊張が高まっているなど、アメリカの国際的影響力はむしろ低下しているようにすら見えるところです。
さらに国内では、「不法移民追放」を名目として取り締まりを強化しており、カリフォルニアでそれが違法な取り締まりだとして抗議デモが起こると、大統領権限で州兵を派遣する事態に至っています。カリフォルニアは伝統的に民主党の地盤であり、またヒスパニック系などが多い土地柄ということもあって、カリフォルニアを狙い撃ちにした感のある政策のように思われますが、いずれにしても”トランプ軍”と”レジスタンス”の対立は、さながら内戦状態を思わせる状態に発展しています。

前置きが長くなりましたが、「シビル・ウォー アメリカ最後の日」では、カリフォルニアやテキサスを中心とする西部連合が中央政府に反旗を翻すという筋立てで、当時私は
「アメリカで実際に内戦が起こるとすれば、赤い州=共和党支持の州vs青い州=民主党支持の州に別れて戦いそうなものですが、本作では赤の代表・テキサス州と、青の代表・カリフォルニア州が手を組んで大統領がいるワシントンD.C.に進軍するというものでした。アメリカの実情を考えれば、この2州が手を組むとは到底思えないため、内戦の大枠にリアリティはありませんでした」
と感想を述べました。ところが今回のカリフォルニアにおける騒動を目の当たりにして少し調べてみると、実はこの2州が結束してワシントンに反旗を翻すという本作の筋立ては、意外にも現実性があるのではないかと思ったので追記することにしました。

どういうことか?カリフォルニアでは、トランプが最初に大統領選挙に勝利した2016年11月に独立運動が起こったそうです。同じ年の6月に世界に衝撃を与えたイギリスのEU離脱=Brexit(ブレグジット)に準えて、「Calexit(カレグジット)」と呼ばれた運動だそうで、当時カリフォルニア州住民の3人に1人が独立を支持するという記事もありました。
一方テキサス州ですが、こちらはカリフォルニア州とは全く違った動機ではあるものの、「テキサス・ナショナリスト運動(TNM)」というものが存在するそうです。歴史的には、南北戦争前に「テキサス共和国」というのが存在したそうで、その復活を狙っているとか。このテキサス独立運動家たちは、住民投票を行うための署名活動を行って共和党の州政府に提出したものの、これが門前払いにあったことから「州共和党と闘う」と宣言したということです。

つまり、動機こそ全く異なるものの、カリフォルニアとテキサスの2州には「独立運動」が存在していて、しかもその矛先は「(中央と州の違いこそあれど)共和党」。そうした状況を考えると、本作の「西部連合」は、「敵の敵は味方」という”戦時の理屈”を踏まえれば、全くあり得ない設定ではなかったのだと思うに至った訳です。日頃日本に流れて来るアメリカのニュースを丹念に読んでいれば気付いたかも知れないことですが、本作を観た時はこれらの運動があることを全く知らなかったため、「内戦の大枠にリアリティはありませんでした」という結論に至りましたが、どうも見立てを誤ったのかも知れません。

いずれにしても、現実社会と映画の世界の繋がりは、あるようでいてなく、ないようでいてあるところが面白いところ。今後とも国内外のニュースに目を向けつつ、映画鑑賞に励むことが、現実社会と作品双方をより一層理解する手立てになるのだと思ったところでした。

鶏
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