「本物の贅には虚飾はなく極める悦びがある」パルテノペ ナポリの宝石 クニオさんの映画レビュー(感想・評価)
本物の贅には虚飾はなく極める悦びがある
贅沢を比較の意味合いでなく、人間の本質として見直せば、なんと豊潤で美しいものでしょう。衣食足りて礼節を知る、その先にある余裕を堪能するのが当然の世界。イタリアのフェデリコ・フェリーニの後継と言っても差し支えないと私は思っているパオロ・ソレンティーノ監督の新作は、ズバリ彼自身の故郷たるイタリア南部のナポリへの賛歌のごとき。「グレート・ビューティー 追憶のローマ」2014年、「グランドフィナーレ」2016年、「LORO 欲望のイタリア」2019年に続き、たとえスノッブだと揶揄されようとも、確固たる美意識はそんな野次を容易く吹き飛ばす堅牢を持ち合わせている。なんだかんだ言っても、イタリアと言う国の圧倒的ポテンシャルに基づく自信ってのが羨ましい。
もっと平たく言えば、古くて恐縮ですがハリウッド映画「避暑地の出来事」1959年 A Summer Place のテーマ音楽は誰でも聞いたことがあるはず。マックス・スタイナー作曲のテーマ音楽をパーシー・フェイスがカバーした「夏の日の恋(Theme from A Summer Place)」のイメージを画にすれば、そっくりそのまま本作のシーンとなる。煌めく陽光の地中海を背景に、大理石の広大なテラスのひんやりとした触感と、大きく膨らむカーテンに現れる涼風に、この曲は相応しいと勝手に私は思っております。Netflix版「リプリー」も同様な贅に包まれており、本作ナポリにも近いあのアマルフィが舞台。
ベルサイユから超豪華な宮廷馬車をそっくり運び込みベッドに仕立てるなんて程にクレイジーな贅沢な家に1950年に生まれた女の子の一代記。ですが、主人公が人類学を追究し形而上の様相で、ストーリーも半分しか理解出来ません。ですが、それでいいのです、殆ど美の化身として成長する主人公と取り巻きのイケメン達のライフ・スタイルを眺めるだけで十分に眼福なんですから。テラスに向かって置かれた椅子にさりげなく掛けられたビキニ水着が風にそよぐなんて、天国ですよ。崖の下からボートの男どもの手が止まるのも当然ですよ。
賛美が付く程の満点の成績なんてのをサラッと獲得してしまうパルテノペ、2023年まで描くのですから数多の男たちとの交流を深め、人類の深淵を探ってゆく。唐突にゲイリー・オールドマンが登場し哲学的示唆を説いたり、ナポリの貧民窟の実態に接したり、教皇にオンナのどこに魅力を感ずる? なんて質問に「背中」とあっさり答えるカソリックの権現にも驚かされる。なにしろ重厚の極みのような教会内部でのロケーションだから、よけいに。信頼していた教授が遂に退任とのことで、やっと会わせてくれた彼の息子の異形ぶりが凄まじい。この辺り典型的なフェリーニ嗜好が顔を出す。
そしていよいよ現代に突入し、上品に年を召したパルテノペがまさかステファニア・サンドレッリが演じてたなんて、観ている最中には全然気づきませんでした。ベルナルド・ベルトルッチ監督の「暗殺の森」1970年でドミニク・サンダと美を競い合ったイタリアの人気女優ですよ。
サッカーの勝利を祝す喧騒に青く染まるパルテノペ、結婚という選択肢を除外した人生の先に何を見出したか。そんなことはどうでもよろしいとばから、喧騒をケラケラと笑う。ひょつとしたら実在の人物を基にしたかもね。エンドタイトルに流れる地中海の波音が妙に心地よい。
