「インド映画の新しい傑作」私たちが光と想うすべて ヨシリンさんの映画レビュー(感想・評価)
インド映画の新しい傑作
ケララ州は教育に熱心で都会に行く若者が多いが、主人公と後輩の看護師とイスラムの恋人、同僚医師はケララ州からムンバイに出てきた優秀な人々のようだ。
キスシーン、着替える場面、ドイツ製炊飯器に足を絡めるシーン等性的な描き方はフランス共同製作だから可能になった面もあるが、濱口竜介監督のドライブマイカーに影響を受けているとも言えると思う。
多言語国家、トイレ問題、宗教と婚姻の問題、等インドが抱える課題を盛り込んでストーリーが進む。
舞台となる病院は堕胎手術専門のようで、胎盤、パイプカット、等の精神的に辛いシーンが続き、娯楽はダンス映画鑑賞が描かれる。
主人公はドクターや新人ナースから信頼されている一方、堅苦しく付き合いの悪い、勃起した患者をしっかってEDにしてしまうような人格と笑われている。
同居する後輩ナースの奔放な性格に主人公が徐々に変化して行く。
猫の妊娠をドクターと検査し、その後怒りの感情を唯一発散する場面と謝罪するシーン以降は対等な関係になって行く。
同僚のドクターからノートに書かれた詞とお菓子で告白されるが返事のシーンが無く、ディレクターカット版が公開されたらその後の二人の関係が描かれていると思う。
主人公がドイツへ電話した時に女性のアナウンスが流れ、この電話は現在使われていないようだ。
富裕層はベンツ、貧乏人は日本車と対比される。
あえて他言語で撮る監督もいて、ネイティブな言葉の細部にこだわりすぎて作品のテーマが曖昧になるのを避ける意図があるそうだが、本作はヒンディー語、マラヤーム語、マラーティー語の三言語で描かれているとも言える。
ケララ州の名監督、アラヴィンダンとゴーパクリシュナンの作品は幻想的なストーリーが盛り込まれていることが多いので、主人公が人工呼吸で救った男と夫が重なるシーンは両監督の影響があると思う。
主人公の表情がガンダーラ仏像と敦煌壁画のように見える。本作のテーマと主人公を演じる俳優が持つ雰囲気がピタリとはまり、傑作が生まれている。
