「「欲望」ではなく「搾取」」サブスタンス ふぇるさんの映画レビュー(感想・評価)
「欲望」ではなく「搾取」
本作はまだルッキズムのような言葉がないような年代が舞台になっている。イケおじのような高齢の男性を評価するような言葉はあるのだが、高齢の女性を評価をするような事は現代においてもまだ少ないように思う。
劇中ではデニス・クエイドはデミ・ムーアと同じくらいの年代だが圧倒的に地位的な差がある設定になっている。
エリザベスが新しい身体を手に入れて、過去を追体験するような設定はよくあるが、本作ではそれらの共有はされていないように思える。どちらかといえばエリザベスはスーの事を我が子のように接している。
エリザベスの欲求が満たされる瞬間があり、それを繰り返し体験したい欲求でドラッグの様に乱用するとなれば因果応報ともいうべきラストなのだろうが、どちらかといえば、スーが一方的に私欲を満たした結果のラストになっているので、エリザベスが終始報われていないように思える。
ルッキズムをするような奴は血祭りだと言わんばかりのラストだが、実際には血をぶっかけているだけで誰も報復されていないのは少しカタルシスに欠ける。
あのような状況であればトラウマくらいにはなるのかもしれないが。
オスカー受賞とはならなかったが、このようなジャンル物での演技が注目された事には大いに評価したいと思う。
SFやホラーなどのジャンルはどうしてもオスカーから敬遠されがちだが、これらのジャンルにこそ役者の演技が光るものが多くあるので今後も正しく評価されるよう期待したい。
追記
色々考察した結果、
あの時代に女性という性別の枠の中でエリザベスはスーになる事を望んだのではなく、選択の余地すらなかったということだろう。
エリザベスへの見返りがなく、スーにだけあるというのはまさに一方的な搾取であり、文字通りエリザベスはスーから安定剤を搾取される状況にあった。
物語の芯にあるのは「欲望」ではなく、「搾取」という点でエリザベスに救いが無いのは当然なのだろう。
