劇場公開日 2025年6月20日

「巨匠が描く英雄譚」メガロポリス うぐいすさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5 巨匠が描く英雄譚

2025年8月4日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

近未来の都市・ニューローマで改革を目指す一人の英雄の物語。建築家で発明家のカエサルは、格差の上で富裕層が浪費と放蕩を尽くすニューローマの問題を解決すべく、昼はお薬・夜はアルコールに頼りながら自身の上司でもある市長・キケロと対立を深めていく。

公開の数年前から、何度も頓挫しながら自主制作で完成させた・試写をやっても買い手がつかない…等、作品の中身とは違う部分が話題になり続けた作品。ディレクターズカット版が完成してからが本番なんだろうなぁ、と思いつつも劇場で鑑賞した。

こだわりぬいた美術に薄い物語の断片を詰め込んだ作品という印象だった。
現在のニューローマに問題があるというのはわかるが、それがどんな構造や経緯に基づいていて、カエサルがそれをどう解決しようとしているのかは説明されない。カエサルの詩的な演説には政治的な中身がなく、旧体制派やポピュリストに扇動されていた市民がカエサルを支持する根拠が見えない。ニューローマの救い手になるであろうメガロンの機能も曖昧で、劇中の民衆がカエサルを持ち上げるほど観ているこちらは冷めてしまった。

カエサルもまた富裕層に属し、政治的な後ろ盾も富裕層から得ている矛盾・芸術や科学の才能があるものだけが持つ特殊能力の数々・メガロンの機能や噂される危険性・風見鶏な資本家達…等、物語に厚みを与えそうな要素は沢山ある。本編が時間を割くのは、ストーリーの緩急や世界観と人物のデティールアップよりも、セレブのゴージャスライフや理解されない天才の孤独、芸術と非言語の感性で共鳴する尊さだった。

カエサルが提示するニューローマの未来像・メガロポリスの具体像も、縦横自在の移動が可能になるフレームレスでスケルトンな道路、曲線的な街区、ふんわり発光する街…と、ひと昔・ふた昔前の『〇〇世紀の想像図』そのままで、新しいものを感じなかった。

強烈な意欲を感じる映画作品ではある。さまざまな時代の記号を有した未来都市の姿と、古典や史劇でおなじみの英雄譚とのケミストリーはレトロフューチャー感があるし、コッポラ監督が考える人類の課題と芸術の可能性も伝わるのだが、本作がそれらを観客と共有できる映画作品かと言えば、疑問符が浮かぶ。
テンプレとは洗練された物語であり、キャラクターのカリスマは俳優が持参するもので、映像と美術と音楽が充実してこそ映画だ、というのが監督の答えなのかも知れない。原作がある作品で好評を博した監督だけに、もし複数のジャンルのブレーンがいてくれれば、彼の構想やイメージを映画体験としてもっと共有できたのではないかと思えてやまない。

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うぐいす