「アニーよ銃?をとれ」ANORA アノーラ かなり悪いオヤジさんの映画レビュー(感想・評価)
アニーよ銃?をとれ
ユダヤ人を主人公にした『ブルータリスト』や『名もなき者』、そして多様性を前面に押し出した『エミリア・ペレス』をさし置いて、本作『アノーラ』がアカデミー賞主要5部門を独占した。リベラルの巣窟といわれるアカデミー会員ならびにハリウッド内部も、トランプ大統領就任によってかなりの影響を受けたという証だろう。
共和党の🟥と民主党の🟦をモチーフに、ポリティカルなメッセージをストーリーに忍ばせた『リアル・ペイン』や『ザ・ルーム・ネクスト・ドア』と同様に、本作にもその🟥と🟦の原色が印象的にちりばめられている。前作『レッド・ロケット(発情した犬のペニスのスラング)』を撮ったショーン・ベイカーが、新星マイキー・マディソンにセックス・ワーカーのヒロインを演じさせている。
ロシアン・マフィアのバカぼっちゃまイヴァンの資産に目が眩み、2つ返事で結婚のオファーにOKを出すアニーことアノーラ。ところが、イヴァンの両親がそれを認めるはずもなく、あわれイヴァンはロシアに連れ戻され、アニーは結婚無効のサインを強制されてしまう....おそれをなしてアニーを残して雲隠れしたイヴァン捜索のシークエンスが、実は本作のメインであったことを観客は知らされるのである。
どうも放蕩息子イヴァンは男色の気もあるバイセクシャリスト、この度トランプと公開大喧嘩したゼレンスキー🇺🇦と同じだ。プーチンにクリソツの用心棒イゴールにしても確信犯的キャスティングといえるだろう。隠れトランピストだと私は確信している監督ショーン・ベイカーが、(家父長制との対決を隠れ蓑に)🟥と🟦をモチーフにアメリカ🇺🇸とロシア🇷🇺の和解をストーリーに練り込んだ、ポリティカルラブコメディこそ本作の正体だと思うのである。
1万5千ドルという大金で1週間のエスコート嬢貸し切り“ディール”を取り交わすイヴァンとアニーは、劇中ズッコンバッコンやりっ放し。その度、イヴァンの萎え(🇺🇦の消耗)具合を横目でチラ見するアニーの冷たい視線にドキッとさせられる。つまり、イヴァン=ウクライナ🇺🇦もアニー=(バイデン時代の)アメリカ🇺🇸も金だけの関係で、おそらくそこに本当の愛はなかったのであろう。
あまりにも冷たいイヴァンを含むザハロフ家の仕打ちに対し、思わずイゴールが「アニーに謝るべきだ」と勇気ある提言をする。このあたりから、アニーの気持ちが徐々にイゴールへ傾斜していくのである。イヴァン捜索中、夕暮れ時寒さに震えるアニーへ手渡した赤いスカーフがとても印象的だ。そして、もしかしたら映画史に残るかもしれないラストの雪中カーSEXシーン...
バカじゃないの。これは◯◯を返してくれたお礼なの、あくまでもディールなのよ。ここであんたと◯◯したら、本気だってことがバレバレじゃない。あんたみたいに真っ直ぐな男、こっちから願い下げよ....唯一信じていた“金”に裏切られ、今まで否定し続けてきた“愛”に救われた時、胸の中で泣き崩れるアニーをひしと抱き締めるイゴール。無音のエンドロールから雪がしんしんと降りつもる音が聞こえてきそうな名シーンだ。🟦も🟥もない⬜だけの世界。2人は気づくのだ、不毛な争いの勝者などいなかったことに....