「マイキーマディソンさんの表情が豊か」ANORA アノーラ 山川夏子さんの映画レビュー(感想・評価)
マイキーマディソンさんの表情が豊か
昨日、新宿ピカデリーに観に行ったら、運良くショーンベイカー監督の舞台挨拶がある回にあたって、脚本と監督と編集を1人でこなすことで、ブラッシュアップの精度を限界まで上げていくべイカー監督の作業量はハンパなさそうなのに、それが楽しくて仕方がないということが伝わってくる舞台挨拶でした。本物のオスカー像まで見ることができました!
映画が終わって歌舞伎町に出たらザクザクと雪が降っていて、寒くて、ロシア系アメリカ人が主役の映画を観た後に表に出たら雪。
「プリティウーマンのその先の話」ということだったので、甘い期待をして観に行ったら見事に裏切られて、プリティウーマンとは全くテイストの違う作品で、というより真逆?!
セックスワーカーとして働くアニー(おそらく貧困層で、ロシアからの移民してきたアメリカ人3世)、たまたま店で相手をした超富裕層の若いバカ男と結婚……からのグチャグチャ。
プリティウーマンのヴィヴィアンやエドワードよりも若い二人。
親はロシアの超富裕層の有名人(おそらくオリガルヒとよばれる人たち)で、アメリカで放蕩三昧、遊び暮らすバカ息子イヴァン。アニーは苦労人だけど、イヴァンがあまりにもおバカ過ぎて、「やめとけこんな男」と言いたくなります。
といって暴力をふるうタイプでもないし、バカでパパとママのお金で遊び暮らしてるだけの男との「結婚」は地獄に降りてきた 蜘蛛の糸としては文句なし!だったんでしょうね。若い二人、イチャイチャしてれば至福の時が流れる、という思考停止も苦労続きの女の子なら仕方ないか…。
ショーンベイカー監督はセックスワーカーや貧困層の人々の生き方を作品に描くことで知られる監督さんなんだそうで、ベイカー監督の本領が発揮された作品で、シリアスで胸が痛む作品でした。
でも悲しいだけではなくて、この作品は「ロシア系アメリカ人」がたくさん出てきて、アメリカ国内で真面目に生きてるロシア系アメリカ人たちが、アニーとイヴァンの結婚に巻き込まれて、ドタバタと騒動が起きていきます。そこは本当に面白くて爆笑ものでした。でも、笑ってるうちに、(れっきとしたアメリカ人で善良な市民として暮らしていても、冷戦の敵国の出身者は、なにかと気苦労が続いているんじゃないかなあ)と、ふと感じたりしました。アメリカ移民のロシア人にとっては「真面目に生きる」ことが、アメリカ人として受け入れられるための基本姿勢になっていて、なにも考えてないおバカなイヴァンは「祖国の恥」でもありながら、「自由の象徴」だったりしたんじゃないかなあ。
ロシア系アメリカ人のイゴールを演じたユーリー・ボリソフさんが、いかにもロシア的なイケメンで、いい味を出していて、アニーも、彼女はこの先も、人生を勇敢にチャレンジして、強く生きていく!と信じさせてくれる女の子で、前向きに生きていく強い意志を感じる作品でした。