「良い意味で期待外れ」ANORA アノーラ shin-zyさんの映画レビュー(感想・評価)
良い意味で期待外れ
「期待外れ」と言う言葉が適確かどうかは分かりませんが、正直なところ、鑑賞前の想像を大きく越えてきました。ありていな言い方をすれば「最高に面白い」でした。
予告編、チラシデザイン、宣伝文句から想像していたのは、1人の女の子の華やかなサクセスストーリーを描く「プリティ・ウーマン」ぽい内容かな、と。ただし「シンデレラストーリーのその先の〜」というのが、私自身の貧困な想像力ではとても思い描けませんでした。
実際鑑賞を始めてみると、これは思った通り、普通でない(?)女の子がでてきて、金持ちのアホボンボンと恋仲になり、ボンボンの友達も巻き込んだ「パリピ」な様子が映し出れていきます。
私にはその「パリピ」なシーンがやや冗長に感じられ、途中から少し飽きてきていました。まさか、このままパリピなシーンが延々と続くはずがないよね?何かが起こるよね?何が起こるのか分からないけど…と思っていたら、アホボンが逃げ出した辺りから急にアクセルを全開したかのように、俄然目が離せなくなりました。
怪しげなお目付け役の牧師と、一見コワモテのその2人の部下が絡んでくると更に面白さのスピードが加速します。なぜかと言うと3人のキャラクターが見た目と違いとても魅力的だからです。
牧師なのにマフィアみたいな雰囲気で、言葉の悪さと脅し文句も筋金入り。部下もいかにも何のためらいもなく暴力を振るいそうで、特に若い方(イゴール)が何をしでかすか分からないような不気味な雰囲気を醸し出していました。
わ〜、これは女の子がボコボコにされる陰惨な場面が出てくるのかな?嫌だな、と思いながら観ていたのですが、ボコボコにされるどころか暴れ放題、叫び放題の女の子に3人ともタジタジで、むしろ3人のほうが可哀想に思えてくるぐらい。鼻を折られたり、サイコ呼ばわりされたりそれはもうめちゃくちゃ。それでも、キレることなく女の子に暴力を振るったらだめ、という彼らの出で立ちにしては謎(?)の信念があるようでじっと耐えてる姿、特にイゴール君がとても印象的で気になりました。
実際、女の子ともうひとりの男が言い合ってるシーンでも、なぜかイゴール君にフォーカスが当たっていたりと、何かを匂わすようなシーンはありました。
すると本当にイゴール君がキャラ立ちし始め、おとなしいのかと思っていたら、聞き込みをしたお店を容赦なくバットでぶち壊したり、女の子を常に気遣うような素振りも見せ、本当に途中から彼から目が離せなくなりました。とにかく、彼のアノーラに対する眼差しがとても優しい。
またおばあちゃんの話しを時々したり、もうひとりの仲間のために薬を持ってきたりと、何かしら行動や言動に生真面目さがにじみ出ている。
とにかくいいキャラだなあ、と思ってたら、案の定最後においしいところをもっていってしまいましたね。
彼を絶讃していますが、牧師ももうひとりの仲間も憎めない愛らしいキャラで、アホボン探しの夜間珍道中は笑いっぱなしでした。
アノーラもなかなか強烈で憎めなかったですが、それに勝るとも劣らず、他の人たちもとても魅力的で良かったです。
変な例えですが、ボケとツッコミがバランスよく描かれた何か壮大な「吉本新喜劇」みたいな作品でした。