「いまだに身分の差?-こんなに笑える作品だったとは!」ANORA アノーラ Tofuさんの映画レビュー(感想・評価)
いまだに身分の差?-こんなに笑える作品だったとは!
開始直後のパリピ的なノリから、結婚を無かったことにしようとする両親とその手先たちが登場してからのスラップブティックなドタバタ劇への怒涛の展開を経て、諦観へと続いていくテンポが抜群に良い。
前半ではR18+に当然なるような性描写がてんこ盛りではあるが、あっけらかんとし過ぎていて余りいやらしさすら感じない。セックスワーカーの仕事としてこなしている様は、家政婦が部屋を掃除しているのと何ら変わらない。
アニーが好きなプリンセスはシンデレラだという台詞が出てくる。舞踏会で夢をみるシンデレラは午前零時を迎えると魔法が解けてしまう現実を抱えている。しかし、魔法が解けたら終わりなのではなく、それでも自分は自分なのだというブレない芯の強さをアニーは持ち合わせている。彼女の職業に対しては嫌悪感を持ったとしても、この強さに共感し応援したくなる女性も少なくないのではなかろうか。
にも関わらず、如何ともし難い状況のやるせ無さにも直面し、思わず涙をこぼすアニー。朝ドラの『虎に翼』ならBGMにインストゥルメンタルで「うちのパパとうちのママが…」と流れてきそうな展開。セックスワーカーを見下し、蔑みの目で身分の差を突きつけてくるイヴァンの母親に象徴される資本主義的階級社会の冷酷さ。そこでは弱いものどうしが支え合っていかざるを得ない。
だが、アメリカ合衆国という国が、そもそもの成り立ちとして、信教の自由とともに(プリンスやプリンセスが存在し、身分が生まれながらにして定められている)階級社会からの自由を求めて旧世界からやって来た人々によって建国された国では無かったのか?
自由と平等を希求する人々の国だったはずなのに「独立宣言」の理想を覆すように自らを「王」と称する男が大統領になり、大富豪が貴族のように振る舞っている。そして、大国ロシアが隣の小国を蹂躙している。そんな現実世界に思いをつい馳せながら観ていると、小娘だと思っていたら意外と手強かったのは誤算だった、という場面で劇場に笑いが起きる。
あれだけ身体を張った演技をしたんだから、ご褒美にオスカーの主演女優賞が与えられてもバチは当たらないよね。