「ドラ息子に翻弄される者たちの、ほんのわずかな共感」ANORA アノーラ KaMiさんの映画レビュー(感想・評価)
ドラ息子に翻弄される者たちの、ほんのわずかな共感
ストリッパーと御曹司の許されざる関係の映画かと思ったら、そもそも恋とか愛とかこの世にありましたっけ、とでもいうような苦い話だった。
第1幕。主人公アノーラは金持ちの若者イヴァンの玉の輿に乗りたい、イヴァンのほうはロシアに帰りたくないからアメリカで結婚したい、という打算でスピード結婚。ロシアの両親にバレるとイヴァンは逃走し、あっけなく画面からも姿を消す。
第2幕。代わりにアノーラの前に現れたのは、両親に代わってイヴァンのお世話をするアルメニア人の男性3人だ。イヴァンを探すという目的のためにアノーラと4人で珍道中を繰りひろげる。ここで映画にぐっと活気が出てくる。
しかし第3幕、イヴァンやその両親と結婚を取り消すシーンはとてもあっけない。イヴァンがしれっと手のひら返ししても大した怒りを見せないアノーラ、両親相手に裁判を起こすという威勢の良さもやがてはしぼんでいく。
結局、住む世界が違うということなのだろうか。アノーラが感情をむき出しにして取っ組み合い、本音を漏らすのは、むしろアルメニア人たちやストリップ仲間なのだ。ちょうど「金持ちに翻弄される身分」どうしで共感しあうように。
しかしその関係のなかにも温かさはなく、傷つけあう様子が痛々しい。(最後まで寄り添ったアルメニア人をレイプ犯呼ばわりまでする必要、よくわからなかった。)
エンドロールには音楽もなく、白黒の画面でスライドショーみたいなスタッフロールが映されるだけ。「娯楽大作」のようなポスターから、いったいこういう結末を予想した人がいるだろうか。
(追記)以上のように結構皮肉な映画だと思うのだが、それにしてもいろいろ無理がありませんかね。
あんな両親なら「ストリッパーと結婚」で驚く以前に、息子がアメリカで遊ぶ間、24時間監視役を付けて見張っているのでは。
アノーラを強い女として描くなら、ちょっとイヴァンに対して無防備すぎる。
唯一「人の心」を持つアルメニア人も、御曹司に対し「彼女に謝るべきだ」とか、ちょっととってつけたような感じが。