「ラスト10分の凄み」ANORA アノーラ グレシャムの法則さんの映画レビュー(感想・評価)
ラスト10分の凄み
前半1時間くらいまでは無駄に長いし、無暗に騒がしい。
というかしつこいくらいにうるさい。
と思ってたのに、ラスト10分に凝縮されたアノーラの心情表現に、ガツンと持っていかれました。
ストーリーだけなら200字もかけずに語れるほど。
たとえば、こんな感じ。
「ストリップダンサーのアノーラが、気まぐれに遊びに来たロシアの大富豪のバカ息子と意気投合、1週間の専属契約を結び、セックス三昧の勢いのままラスベガスで結婚。お互いに本気だと信じていたのに、体面を重んじるバカ息子の親の介入で結婚はご破算に。アノーラのやり切れない涙の原因は、果たして、彼の裏切り行為への怒りなのか、自分本位な大人たちの介入に対するものなのか。」
20代前半の幼くて危なっかしい恋愛とか、悪友・親友たちとの度を超したやんちゃな遊び……良識ある大人からすれば、本当に馬鹿げていて、くだらない時間にしか見えない。
でも、誰にもなかったことにはできない。
自分たちにとってはかけがいのない、みんなが本気で楽しんだ時間。
〝確かにそこにあった〟何かを〝無かったことにしてしまう〟権威者たち。
学校でも、会社でも、集団があれば必ずそこには権威をもった人間がいて、何か問題があれば、立ちどころに元々なかったものとして解決してしまえる人たちがいる。
自分のことなのに「無かったことにする」行為に加担してしまったことへの怒りと悲しみとふがいなさ。その他諸々のやるせない感情がラスト10分で怒涛の如く、こちらの胸に入り込んできます。
前半とは打って変わって、騒がさしさを排除した無音のエンドロールが、とても余韻に残ります。
グレシャムさんのレビューを拝読して、20台前半の体力あってたくさんのバカができるアノーラとイヴァンの前半シーンとその年齢の自分のバカ時代が重なり頭が走馬燈でした。最後の10分!ニコニコしたり怒ったり叫んでいても決して泣かなかったアノーラの涙を受け止める人。無口で痛いこともせず、いかれた「大富豪ファミリー」を冷静に見ていた唯一の人でした