エミリア・ペレスのレビュー・感想・評価
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謎の半信半疑
さて、本作『エミリア・ペレス』と言えば避けて通れない、主演女優のカルラ・ソフィア・ガスコンに関するスキャンダル。一時は作品自体の評価に対する影響が心配されましたが、発覚後(さらにはカルラのリアクションに対する再炎上後)にもゾーイ・サルダナは賞レースを勝ち続け、第97回アカデミー賞において助演女優賞を受賞。大変素晴らしいスピーチを披露してくれたことも相まって、絶対に見逃せない作品として期待していました。
と言うことで、今回も極力情報を入れないで劇場鑑賞まで漕ぎ着けた私。実際に観始めると、授賞式などでチラホラと見ていた作品中のシーンから想像していた内容とは大分違っていて、序盤は正直戸惑いを感じながらの鑑賞。そして前半のクライマックス、なるほど!カルラ・ソフィア・ガスコン起用はこういう意図だったのか!!と解る「本作最大のギミック」に震え、そしてまたその演技の出来が素晴らしかったからこそ、彼女がした「過去の差別的なツイート」をとても残念に感じました。
一方のゾーイ・サルダナ、スクリーンタイムは一番長い上にストーリーから言っても彼女が「主演」と言ってもいい役どころであるリタ。スクリーン越しにもヒシヒシと伝わるゾーイの気迫が凄く、リタに対してエミリア(カルラ・ソフィア・ガスコン)に引けを取らない存在感を感じられるからこそ、ストーリーの終盤の展開に対する納得度が高まります。アカデミー賞において歌曲賞に輝いた“El Mal”のシーンなど、ゾーイが賞レースを席捲した理由が解る演技は必見です。
そして、今回も「いい意味で裏切られた」のがジャック・オーディアール監督(脚本、製作)。私、何故かジャック・オーディアールの作品に対し、鑑賞前に観る予告編や作品紹介のサムネイルなどから毎回「ややネガティブ」な印象を持ってしまうのですが、実際に観終われば必ず好印象。毎作品、様々なテーマを全く違うアプローチで見せてくれる表現力はオリジナリティに溢れ、唯一無二な作品性で驚かせてくれるジャック・オーディアール監督。そろそろこの「謎の半信半疑」をやめては、と思いつつ、結局それ込みで楽しんでいることもあるのかもしれません。監督、これからも応援しています!
見事なミュージカル演出! 物語は?
『エミリア・ペレス』は、ミュージカル演出と映像美で多くの観客を魅了した。だが、観終えた後、私の中に残ったのは高揚感ではなく、ある種の倫理的な違和感だった。
それは、「赦し」についての物語であるかのように装いながら、実のところ“赦される”ことの本質を描いていない、という違和感だ。
まず触れておきたいのは、映像と演出の見事さだ。ミュージカルパートと現実パートの融合、群像の動きと構成、色彩、音楽、振付——どれもが極めて高い完成度で、美術と演出の職人技に圧倒される。
しかし、映像と音楽、演技の美しさとは裏腹に、物語の焦点はなかなか定まらず、登場人物に感情移入しにくい。主人公が「元麻薬王」だったという設定が物語の中心にあるにもかかわらず、その過去の描写は極めて曖昧で、「なぜこの人は変わろうとしたのか?」という内面の葛藤がほとんど描かれない。
物語は、男性として生きてきた麻薬王が、性転換手術を経て女性“エミリア・ペレス”として生き直す姿を描く。そこには、「自分らしく生きる」という強いテーマがある。劇中でも「自分の声に従って生きたい。それで崖から落ちても、それは自分の崖なのだから」といった歌詞が繰り返される。
だが、私はこう問いたくなる。
「自分が変わることで罪の償いは終わるのか」と。
ここで、ふと自分自身の倫理観を振り返る。
「犯罪者は罰せられるべき」「過去の罪は改心だけでは帳消しにできない」——そんな考えが、自分の中に染みついている。
だがそれは、いま私たちが生きる“現代社会の倫理”によって構成された価値観でもある。
そしてこの映画は、そうした現代倫理の前で、あまりにあっさりと「赦し」を与えすぎているように見える。
エミリア・ペレスは名前も性別も姿も変えた。けれど、過去に殺人や恐怖で支配してきた人物としての記憶や判断基準、あるいは“生き残るためにタフで非情でなければならなかった”という内面の軌跡は、果たしてどこに描かれていたのだろうか。
その部分を描かずに“新しい自分”を肯定的に提示されると、まるで「罪の漂白」が行われたような印象を受けてしまう。
別人の体と名前を手に入れても、人の自己同一性は継続している。生きる動機も、後悔も、過去も、変化しながら続いている。だから過去は、完全には消せない。
『エミリア・ペレス』は、変化を肯定する物語であると同時に、赦しの構造をめぐって観客に問いを残す物語でもある。その問いにどう答えるかは、観る者それぞれの倫理観に委ねられている。
私にとっては、それが「赦しを与えるには、まず罪を引き受ける姿勢が必要だ」という、ごく当たり前だが見落とされがちな事実だった。
奇抜なミュージカル
予備知識無しで鑑賞。
ボスのいいように使われ、弁護士として認められることのないリタ。そこに、メキシコの麻薬王カルテルのボス、マニタスから女性への性転換をして、新たな人生を送る計画遂行を依頼されます。
リタの完璧な計画によりマニタスは姿を消すことに成功。
数年後、イギリスでエミリアとしてリタの前に現れます。そして今度は家族と共にメキシコで住めるように手配をすることを依頼します。元妻、子供達に女性エミリアとなった(父親)の生活が始まります。というのが要約したあらすじです。奇抜なミュージカルと感じるのは、ミュージカルになるタイミングが微妙であることです。歌い手が感情を込めて歌うというより、どこか愚痴を吐き出していたり、メロディラインが無くリズムに合わせて語るような歌となっています。話が進むと「ここで歌?」というタイミングにはやや興醒めでした。人間、性別が変わり、立場が変わり、環境が変われば、色々心変わりはするものです。しかし、エミリアはいいとこ取りをしようとしています。女性としての幸せを求め、男性だった頃の家族も求め、元妻の愛も求めます。そして、弁護士のリタまでも拘束してしまいます。結局、違う人生が送れるチャンスがありながらも、心の本質は変われない。という事なのかもしれません。
奇抜なミュージカルのお陰で、衝撃的なラストではありますが刺激は強く感じませんでした。フランス映画のできる技かもしれません。
もっとそれぞれの心の内面を掘り下げてほしかった
作品としての発想も、主要キャストの面々の演技もとても良かったと思います。
面白かっただけに、何故彼女は(彼は)その行動に至ったのか、その決断の時期は何時だったのか?そこがはっきり認識できるシーンがあると更に深みが増したような気がします。
エミリアは何故メキシコへ戻ろうとしたのか?子供たちへ注ぐ愛は父としてか母としてか?行方不明者(逝去者)を探す事業へ駆り立てた動機は?
リタは巨万の富を手に入れロンドンで成功していたのに、メキシコでエミリアを手伝うことになったのは?(彼女の場合お金と名声が動機だったかもしれませんが)
痕二人の女性ジェシーとエピファニアにしてももっと葛藤や心離れを描いてくれたら没入できたのにと思います。
後は、結局どこかで裏社会と繋がっているのだから、エミリアもジェシーも素性がばれて早晩消されそうなはずなのにそうでもない、メキシコってどんな国なんだろうとも思ってしまいました。
でも、ミュージカル仕立ても含め素敵な悪品に仕上がっていたと思います。
内容・音楽・質、全て期待以上でした
ずっと前から音楽に惹かれて幾度もサントラを聴き続けて、早くゾーイ・サルダナを─と期待していた作品でした。
正直、性的マイノリティを扱った作品にはうんざりするくらい雑多なところを感じる昨今、ちょっとこの作品は違うぞと感じさせてくれて、しかも半ばミュージカルということもあって、かなり興味をそそられたわけで、なおかつあのガモーラが─なんて言ったら酷いレッテルなんでしょうけど、しっかりと最優秀を勝ち取ったわけだから、もう期待値はマックスだったわけです。
聴き馴染みあるメロディーから始まって、ああやっぱいいとなって、歌詞の字幕とかをしっかり確認すると非常に濃くて意義深い作品であることがよく分かったし、それでいてなおかつ壮大でエンタメでハラハラドキドキの展開、感動もするし非常に楽しい作品でした。しかもゾーイ・サルダナ・・・素晴らしい!泣ける!演技・ダンス・歌唱力すべて最高です。
内容とか演技・音楽もそうなんですが、音楽やリズムを存分に生かした台詞回しとか絵つなぎがこれまた絶妙で、細かな演出まで完璧だった印象で、自分の中では作品賞も監督賞も最優秀はこれでしょう!てな思いで、感傷的に観賞・・・って感じです。
⭐︎3.6 / 5.0
…なぜ?
聞いたら承諾
際どいイロモノに見えるが引き込まれた
トランスジェンダーである事を隠してメキシコの麻薬王として悪行の限りを尽くして来た男が、性適合手術を受けて全く別人の女性として生き直そうとするお話です。もうそれだけで、何じゃそれ?ですよね。しかも、その物語がミュージカルとして展開するのです。いかにもイロモノ映画の匂いがするのですが、とんでもありませんでした。
ミュージカル・シーンが重いテーマをスピーディーに牽引し、「この話、一体どこに行くんだ?」と一気に引きずり込まれました。様々な場面での歌がよいアクセントを生み、非常にテンポの良い展開で突っ込み所も吹っ飛ばします。そして、最後に何とも言えぬ思いが残るのでした。これ、一体、何の映画だったんだろう。でも、その疑問が心地よいのです。
そして、この種の物語では、LGBTがネタや驚かせの道具として消費されているのではないかと言う点が気になります。それは、現実社会に生きる性的マイノリティーの人々への偏見や嘲笑を煽る事になり兼ねないからです。しかし、本作は際どい線を進みながらも、僕は違和感は感じませんでした。
今年のアカデミー賞レースを賑わせた中では一番の問題作かと思いますが...
麻薬王が性転換して自分らしく生きる… 設定が衝撃的でこの時点で面白...
エミリア ペレス
セレーナ・ゴメス
徹頭徹尾のシスターフッドに感涙
楽曲やダンスのボリューム、ミュージカルシーンの編集に圧倒され、悲惨な展開につい笑ってしまうのに、そりゃおっかないだろう、麻薬カルテルの連中なんだから。133分がちと長い。120分切れたらもっとよかったのに。
過去の悪行が成功を阻害する
近年は「性転換手術」という表現は不適切で、「性別適合手術」と呼ぶべきとのこと。
勉強になった。
睡眠不足で映画を観たのが良くなかった。
途中まで眠気との戦い。
ミュージカルシーンが目覚まし時計代わりになっていた。
中盤までは元麻薬王が莫大な財力を駆使して自分の思い通りの人生を送っていくだけの話で、大きな事件みたいなのは起きないため、映画の2/3ぐらいまでは単調に感じた。
ただ、話自体は予測不能な展開の連続で、興味深くはあった。
「メキシコの麻薬王・マニタスが性別適合手術を受け、エミリア・ペレスという女性として第二の人生を送る」という導入部分から興味を惹かれるものがあったが、その後もエミリア・ペレスの取る行動に驚かさせることが多かった。
「え、そんなこと考えていたの」と思わされる場面の連続。
そもそも「バイで子持ちのトランスジェンダー」という設定が、他の映画では見たことがない複雑さと深みを生み出していると感じた。
ミュージカルシーンは見応え十分。
ダークで切迫感のある音楽が印象的。
特に、ゾーイ・サルダナの踊る場面に魅了させられた。
さすがアカデミー助演女優賞を獲得しただけのことはある。
ただ、ミュージカルシーン、ちょっと多すぎな気もした。
この映画の中で起こる出来事の数に対し、133分は長く感じた。
普通の場面でも「もしかしてここからミュージカルが始まるのか」と、変に身構えながらの鑑賞になってしまった。
ミュージカル映画ということで、歌や踊りのない場面でも、役者が音楽に合わせて台詞や動作を行う場面がちょいちょいあり、最近新作が発表された『リズム天国』みたいと思った。
終盤は「過去の悪行が原因で、大成功目前に大きなしっぺがえしを食らう」という話で、奇しくもアカデミー主演女優賞にノミネートされたカルラ・ソフィア・ガスコン自身に降りかかった出来事にも重なって見えた。
Netflixのドキュメンタリー映画『トランスジェンダーとハリウッド』を観ていた人間としては、ラストはかなりモヤモヤした。
LGBTQに寄り添う内容ではなく、あくまでドラマを盛り上げるための道具としてLGBTQを扱っただけに感じた。
思いを歌に乗せる、スペイン語ミュージカル
この映画はフランス監督とフランス資本によるフランス映画だが実質は、多くはメキシコを舞台に、スペイン(ラテン系)の俳優によるスペイン語映画です。
そしてクライムミステリー・ミュージカル映画です。
事前にRotten Tomatoes 調べたら批評家72%、観客16%。どうしたらいい?でも楽曲が凄く良いので見に行きます。
弁護士がいきなり拉致され、そしたら麻薬王がトランスジェンダーで女性になりたい。金はある、秘密を守れる優秀な医師を探せって。殺されるかも、引き受ける。4年後ようやくエミリア・ペレスの登場です。
いくら元麻薬王でも、父親ではなくなっても、真実は決して明かせないけど、子供に会いたい、暮らしたい。
子供は親戚の女性(?)にPapa を感じる。
自分らしく生きたい。
ただ麻薬王には妻子の安全と自身の希望を両立させる術がない。
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