劇場公開日 2025年9月5日

「“If I were a bird… 中学英語で習った仮定法の例文をふと思い出す 最悪の環境下でも明るくけなげに生きる少女をめぐるおとぎ話??」バード ここから羽ばたく Freddie3vさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5 “If I were a bird… 中学英語で習った仮定法の例文をふと思い出す 最悪の環境下でも明るくけなげに生きる少女をめぐるおとぎ話??

2025年9月18日
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鑑賞方法:映画館

鑑賞動機はバリー•コーガンが出演しているからです。『ダンケルク』や『イニシェリン島の精霊』で見せた彼の怪演ぶりからすると、彼が出ているだけで名作ではないかという錯覚を起こしそうです。彼は本作では主人公の少女の父親を演じます。

私個人はあまり好きではない言葉ですが、現代日本には「親ガチャ」なる言葉があります。子からみた親の当たりはずれということでしたら、この物語の主人公ベイリー(ニキヤ•アダムス)は親ガチャ大ハズレと言ってもよいと思います。父親と2歳ほど上の兄と同居しているようなのですが、兄は異母兄のようですし、バリー•コーガン演じる父親のバグはあまり働いてる様子もないのに新たな女性と結婚しようとしています。別に住んでいるベイリーの実母側に目を移せば、バグと別れた後もそれなりに男出入りがあったようで子どもが何人かいます。すなわち、ベイリーにとっての異父妹や異父弟ですね。まあ、ひょっとしたら、みんな父親が違うのではないかといった雰囲気も漂っているのですが、問題は現在の夫でこれがどうしようもないDV男で、ベイリーの幼い異父妹弟たちはとても可哀そうな境遇にいます。

そんななかベイリーは自らバードと名乗る不思議な青年と出会います。このバードを演じるフランツ•ロゴフスキもバリー•コーガンに負けず劣らずの怪優の雰囲気をたたえておりまして、図らずも、欧州二大怪優競演の趣きもあります(ただし、ふたりの絡みはありません)。で、このバードは生き別れた親を探しているとのことで、ベイリーも捜索に協力したりもします。

一方、ベイリーの異母兄はガールフレンドを妊娠させたみたいで彼女とスコットランドへの逃避行を企てているようです。このお兄さん、まだ14歳で妊娠させちゃったみたいなのですが、父親のバグは俺も14歳でお前の父親になったよみたいのこと言ってて、この男、30そこそこで孫を持つのか、と呆れるやら、びっくりするやら。でも、バグはまあクズと言えばクズなんでしょうけど、息子や娘に対する愛はホンモノで、根は善良でいい奴だとは思います。

この作品には、時折り、鳥の群れが空を飛んでるシーンが挿入されます。また、カラスが伝書鳩ならぬ伝書ガラスになって手紙を運ぶシーンもあります(まあでもカラスが運んだ距離は伝書鳩が運ぶ距離をフルマラソンとすると100m競走の範囲でしたけど)。そして、バードが演じるファンタジー•シーン……

ベイリーはとてもいい子です。幼い妹や弟の面倒は見ますし、兄にも協力的です。見ず知らずだったバードにも協力します。周囲の人たちともおおむねうまくやっていけそうです。でも、親ガチャだけでなく、階級社会の英国で階級ガチャや地域ガチャにも大ハズレしている感じで、日本流で言えば小6か中1あたりの年齢なんでしょうけど、学校に行ってるシーンがまるで出てきません。

タイトルに挙げた中学英語の仮定法の例文ですが、”If I were a bird, (もし、私が鳥なら)の条件節に対して I would fly to you.” (あなたのところに飛んで行くのに)という流れで、ちょっとロマンチックで切ない感じだったように記憶しています。そして、文法事項として、仮定法過去は現在において実現が不可能なことの裏返しであると習った憶えがあります。ベイリーは今、非常に厳しい環境下にいて実現が不可能なことの連続のようですが、どうか自分の周囲にある愛を大切にして、夢だけは持ち続けてほしいと思いました。

アンドレア•アーノルド監督は私にとってこの映画が初見だったのですが、英国の最貧層のリアリティを描きながら、そこにファンタジーを入れ込んでくるサジ加減が絶妙で感服いたしました。別の作品も観てみたいと思います。

Freddie3v