教皇選挙のレビュー・感想・評価
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神を理想とする彼らが1番人間らしい
突然のローマ教皇の死により、次の教皇を決めるために世界中から100人以上の候補者が集められ、外部と完全遮断された礼拝堂で教皇選挙〈コンクラーベ〉が行われる。
文字に起こせばこれだけの話ではあるのに、その話の中に保守派とリベラル派の対立、聖職者のスキャンダル、野心、汚職、多数派と少数派…様々なテーマが次々と何重にも重なってくるのがおもしろい。
神を信じ、神という理想に少しでも近づけるよう生きる彼らが、むしろこれでもかというほど、生々しく人間らしい姿を曝け出すのも、おもしろい。
選挙を取り仕切る主人公ローレンスの息遣いや足音が作品内でもすごく強調して響き渡っていて、それがより一層緊迫感や焦りみたいなのを感じさせてくる。それもあってか、まるで自分もあの場で選挙に参加する1人になったかのような気持ちになった。まさにスリリングなサスペンスエンターテイメント作品!特に最後の衝撃は、是非映画館で味わってほしい。
また、劇中色彩として赤がところどころで印象的に描かれていて、それが絵画のようでとても美しかった。
色彩だけでなく、選挙の準備ひとつをとっても、歴史や気品を感じられる作法や衣装に、思わず「美しい…」と見惚れてしまうシーンが度々あり、その手もこの作品が魅力的だった部分のひとつだった。
宗教に対しての新たな気づきもあり、音と色彩と巧みな脚本で満足度の高い作品だった。
スカッとアクション映画並みの鑑賞後感が、よいのか、悪いのか、 奇跡なのか
初週から結構お客さんが入っているとのことで、画面で登場するような、オレのようなおっさんや先輩方ばかりの客層かと思えば、さにあらず。熱心な若い映画ファンなんだろうね、カップルさんも多く、意外とオレのようなメンドクサイお客さんはいなかった。
ルックと鑑賞後の印象ががらりと違う、オシャレさんもエンタメ大好き映画ファンも満足ささる、ある意味奇跡の
「教皇選挙」
・
・
・
「ああ、面白かった!」でスカッとアクション映画並みの鑑賞後感がよいのか、悪いのか、
奇跡なのか、といった塩梅。
面白いけど、ご都合すぎやしねえか。キャラがテンプレ過ぎて漫画だし、ベニテスの演説もちょっとセリフ自体はこっ恥ずかしい。
と思っていたのだが、ラストの亀の出現とそれを噴水に帰す、というところで、これは前教皇が描いたシナリオ通りに事が進んだことが分かる。
前教皇がチェスの名手(先を読む、手駒を操る)であるということと、トマスが前教皇を、「愛してた」ことが本作の主軸。
トマスは、前教皇から、管理者としての使命を受けるが、すでに、クセものだらけの、というよりも、「おいおい、こんなのしかいねえのか。。。」のおじさんたちを教皇候補から外すよう導かれただけで、ベニデスを教皇に仕立てあげるシナリオ通りにことが進んだだけに過ぎない。
もちろん、トマスが、前教皇の部屋に侵入し、ベッドのそばの壁の隙間から証拠を見つけることも織り込み済なんだろうね(笑)
「愛」故に、一人教皇のベッドの脇でおいおいと、むせび泣くところは最高だった。
トマスは「愛していた」から、教皇の思い通りに「管理職」に徹することを決意し、だが、色気なのか、こんなに選挙がもめるなら、なってやろうかと思ったのか、の自分への投票の際、「おいおい、お前違うだろ! ちゃんと仕切れや!」と、爆発という形でのお叱りを受ける。
そんなこんなで選ばれた新教皇が、そういう身体的特色を持った人物だった。
ストーリー自体はもうネタとサプライズ優先のご都合主義満載だが、前教皇の「シナリオ通り」と言われれば仕方ない。。
ところが、前教皇の意に反して、手術を行わなかったことは、トマスの信仰をさらに上回る、ありのままの姿(インノケンティノス)で「理想を求める」姿だった。それは「無垢」であり、「絶頂期」を期待させるダブルミーニング。
トマスの名乗ろうとした「ヨハネ」は、そういった流れからは、「洗礼者」のほうではなく、「弟子」の方を指しているのかなと。
「イノセント」な新教皇誕生と尼僧の笑い声を聞くトマスは、シスター・アグネスの存在も併せて、バチカン内の「女性」の存在を改めて知り、また新時代への「理想」を想像したことだろう。
追記
票を失った各候補のシュンとした顔、素敵。
追記2
「女性」を意識したことで、トマスの「愛」はどこに向かうのか。
最後に驚きはある
新教皇を決める教皇選挙のことを「コンクラーベ」というらしい。世界中から集まった100人を超える候補者たちが、システィーナ礼拝堂の閉ざされた扉の向こうでただひたすら投票を繰り返すその様を執拗に丁寧に描き出している。ちなみに「コンクラーベ」とは「鍵をかけた」という意味で日本語の「根比べ」とは無縁とのこと。
権力を前にするとどんな聖職者とされる人間でさえも時に俗物に成り下がる。観ている私たちは観てはならないものを観せられた気がして気が滅入る。決して同じではないと願うが、普段私たちが直接見ることのできない総理大臣選挙など清廉や潔白を求められる選挙が、この映画のように絶望すべき俗物感情のメロドラマだとしたら最悪だと想像してしまう。
ストーリーは地味で単調なのに、役者の重厚でしっかりとした演技と美しい映像が見応えがあり不思議と長いとは思わない。観客は次第に投票を見守るオーディエンスの立場から投票者側の心情に変化していく。一体誰が教皇に一番相応しいのか?答えを探しながら物語に没頭していく。故ローマ教皇の真意はどこにあったのか?その真意と思惑通りに教皇選挙は進んだのか否か?
ラストにもうひと波乱あり?!
うん、驚きはある
なるほど🧐
選ばれるべき人はいつも一番遠くで変わらぬ心を貫き通す人なのか…
【この映画をオススメな人は】
寝不足ではない万全の体調の方
じっくり味わい深い映画が好みの方
アカデミー賞受賞作品はぜひ押さえておきたい方
ルックが良い
現実にもローマ教皇が亡くなったことで俄然注目度が増している本作だが、そうした外的要因抜きにしても、非常に面白い作品なので、ぜひ多くの人に見てもらいたい。
まず撮影の見事さ。荘厳な宗教画のような雰囲気が全編に漂うが、登場人物たちは電子タバコを吸っていたり、スマホをいじっていたりして、そのギャップが面白い・古くて厳かなものと新しいものが混ざりあう空間になっているのだ。
古いものと新しいものが混ざり合うというテーマは、物語にも反映されている。保守的な勢力と改革派の勢力が権謀術数を用いながら選挙戦を戦うさまにそれが表れている。史上初のアフリカ出身の教皇誕生の可能性もあったが、保守勢力の策略で失脚。女性の方が信徒としては多いカトリックだが、ここで話し合いをやっているのは男性ばかりという現実。そこに楔を打ち込む存在のメキシコ出身でアフガンの協会からやってきた枢機卿。
亀が印象的だ。亀のようにスピードは鈍いが、ゆっくりとカトリック教会も変化しているのだということの現れか。
レイフ・ファインズはじめ、役者がみな素晴らしい。印象的な顔がいくつもあった作品だった。
選挙という名の極上の密室ミステリー
ヴァチカン中枢の深紅の世界を舞台に据えるという宗教的なリアリティに挑んだ知的興奮もさることながら、本作は選挙という民主主義的過程を通じて浮かび上がる推理小説然とした面白さを併せ持つ。それこそ『裏切りのサーカス』のストローハンが脚色を手掛けたのも、一筋縄ではいかないキャラをチェスの駒のように冷静沈着に動かす手腕が最適とみなされたからではないだろうか。兎にも角にもまるで容疑者の如く候補者が浮かび、一人一人が脱落していくその根拠に至るまでの入念な捜査過程があり、しまいには真犯人登場さながらに最後の一人が、動かぬ説得力と確信性をもって選出される。選挙とはかくも先読み不能なミステリーであり人間ドラマなのかと荘厳な描写力に溜息が出る。まるで『サーカス』のスマイリーのように任務遂行するレイフ・ファインズの機微の演技、さらには自らの信仰心と向き合いながらの葛藤も秀逸。久々に極上の密室ミステリーを仰ぎ見た。
過大評価
フラグの立て方がいちいちご丁寧なので展開が読めてしまう。
意味ありげに治療経歴アリと伏線張られた時点でほぼベニテス当確。後から病気の影響で選挙続行不可or当選撤回or死亡ラストかなと思っていたけれど、オチは唐突すぎて驚きというより白けた。
他の枢機卿達の権謀術数も大したことなく、月9ドラマのサスペンスみたいだった。
衝撃のラスト!とか言ってる人は映画全然見たことないのかなと思う。
あとアデイエミの配役に黒人は微妙な気が……黒人枠が必要だったのは仕方ないけど。
枢機卿達がスマホいじったり平気で煙草ポイ捨てしてる図はちょっと面白かったし、レイフ・ファインズの演技も流石。
映像美があればまだ良かったかもしれないけれど、似たような構図が延々に続くので視覚的にも満たされない。
階段のシーンは綺麗ではあるけど明らかに南伊のカゼルダ宮殿で、ヴァチカンじゃないじゃん!とやや萎える。
あとはキリスト教的寓意の扱いもやや野暮ったい印象。
窓が爆破された後に差し込む光はカラヴァッジョの《聖マタイの召命》や《悔悛するマグダラのマリア》的な神の啓示の光、ローレンスは当選意欲無さげでなんかナヨナヨしてるし確信を持たないこと云々の説教してるしファーストネームがトマスだし明らかに聖トマスが由来……と、いかにも「考察してください」的な態度も個人的には楽しめなかった。
そもそもキリスト教美術なんて寓意ありきなんだからいちいち突っ込む方が野暮なのか?と思ったけれど、例えば素晴らしい宗教画を観ている時にはいちいちアトリビュートがどれで〜などと考える以前に目の前の作品に没入しているわけで、ツッコミを入れたくなっている時点で作品が鑑賞者を世界観に没入させないクオリティである証拠だよなぁ、と座席でしみじみ考えていた。
個人的に関心ある主題だし前評判良かっただけにガッカリ感否めず。高尚な映像作品じゃなくて知的風味のエンタメドラマだと思って観たらそれなりには楽しめると思う。
エンタメ以上、シリアス未満
驚異的な現実とのシンクロ! 法廷サスペンス×『薔薇の名前』の手法でコンクラーベを描く。
やっぱり時節柄、これだけはさすがに観ておかないとね!!
いやあ、まさかマジで公開の真っ最中に、現実のコンクラーベとかち合うなんて!!
こんなこと、ホントにあるんだなあ。
てか、マーケティング部門、もしかして狙ってた??
この辺りで逝きそうだって、逆算して公開してたんならエラい。
本当は連休あたりのガチで「ドンピシャ」だった時期に観たかったんだけど、帰省したり、明けてすぐ仕事の詰めがあったりで、なかなか足を運べず今に至る。
(ちなみに部下は5月の連休に新婚旅行でイタリアに行ったけど、マジでサン・ピエトロ広場やシスティナ礼拝堂が封鎖されていて入れなかったらしいwww これぞ旅の忘れがたき思い出ですな。余談ですが、僕は25年前のやはり5月の連休に新婚旅行でヴァチカンを訪れ、システィナ礼拝堂の内部はツアーでしっかり実見している。代わりにミラノでメーデーにぶつかり、寺まで休んでしまって『最後の晩餐』が観られなかったw しょうがないので嫁を置いてひとりでエッチな映画館に行ったのは内緒。)
実は、『サブスタンス』を観る前日には既にレイトショーで観ていたのだが、あまりに『サブスタンス』が面白かったので、ついそちらの感想を先に書いちゃいました。
とはいえ、『教皇選挙』も、とても面白かった。
今年のアカデミー賞候補は、ほんと粒ぞろいだったんだね。
最近のアカデミー賞でオスカーを獲得する裏要件の一つとして、「人種問題」もしくは「ジェンダー問題」を扱っていることが必須条件であるような気がしているわけだが、あからさまにユダヤとアメリカの関係を問う『ブルータリズム』や、ロシアとアメリカの関係、および女性の性労働の問題を扱う『アノーラ』、バリバリのフェミニズム映画でもある『サブスタンス』と比べて、『教皇選挙』はそういった要素は若干薄いかな、と内心思ったりもしていた。
おじいちゃんしか出てこないし。
でも、いざ観てみたらびっくり。
中盤戦では、思った以上に「人種」と平等性の問題、あるいは聖職者の性搾取の問題を真正面から扱っているし、終盤戦では……以下、自粛。ああ、なるほど、そういうこともあって、きちんとこの映画もアカデミー賞候補に「ど真ん中から」あがってきたのね、とおおいに感心した次第。
あと、『サブスタンス』はフランス映画だけど、ハリウッドが舞台。
『教皇選挙』は英米合作の映画だけど、イタリアのヴァチカンが舞台。
そういや『ブルータリスト』はアメリカが舞台だけど、ハンガリーでロケしたらしい。
最近は、だんだん映画のプロダクションにおける国の境目が薄くなってきていて、結果としてアカデミー賞も、いろいろな国の映画が本賞を競い合うことが多くなってきている。
結局は、脚色賞しか獲れなかったようだけど、十分にアカデミー賞にふさわしい映画だったのではないでしょうか。
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『教皇選挙』は、扱っているテーマこそ珍しい感じもするが、基本的には由緒正しい「法廷もの」のフォーマットを援用して作られている。
完全に隔離されたメンバーが、
投票によって合意を得られるまで
ひたすら投票し続ける。
これは、まさに「陪審員」制度の延長上に置かれうる「ルール」だ。
要するに『教皇選挙』は、投票の目的が「有罪/無罪の認定」か「次期教皇が誰か」と違うだけで、本質的には、シドニー・ルメットの『十二人の怒れる男』やクリント・イーストウッドの『陪審員12番』と同種のプロットを持つ映画なのだ。
監督本人は、アラン・J・パクラの70年代のポリティカル・スリラーが霊感源と述べている。その言葉が正しいなら、おそらくは『大統領の陰謀』(76)を意識して言っているはずで、たしかに「選挙の候補者の裏の顔を暴いて引きずり落とす」という意味では、両作品は似た構造を持っている。なお、アラン・J・パクラは、その後、法廷劇スリラーの佳作、『推定無罪』(91)を撮っている点にも留意したい。
なんにせよ、リーガル・サスペンスとしての枠組みを持つ以上、『教皇選挙』はリーガルもの特有の「弱み」をも併せ持つことになる。
ここで言う「弱み」とは、法廷劇で頻発する「後出し」の問題だ。
「密室」下で「すでに得ている情報を元に判断を下すこと」が、もともとの裁判もののキモであるはずなのに、実際には後から後から「新情報」が出てきて、「法廷(投票所)」に持ち込まれてくる。つまり、最初の評決の段階では「判断のための情報がもとより出そろっておらず」、後から提示される情報でどんどん評決の根拠も揺らいでいく、ということになる。これ(新証拠・新証人の登場)は、実際の裁判ではほとんどないシチュエーションであり、娯楽としての法廷ものならではの「ズル」と呼ぶべき仕掛けである。
本作でも、最初の投票で多数派が形成されなかったあと、教皇戦を左右する「マイナス情報」は、後からどんどん都合よく投入されてくる。
結局、物語構造としては、「過去の過ち」や「教皇に相応しくない行動」が露見して、バレた者から順番に落ちていくだけのお話になってしまっている点は否めない。
だんだん観ているうちに「単にろくなやつがいない」消去法の教皇戦にしか思えなくなってくるのは、さてどうなんでしょうか(笑)。
あと、主人公のローレンス枢機卿が、教皇選挙自体を仕切りながらも、自身にも被投票権があって、しかもどんどん当選確率が上がっていくのは、そんな制度でホントに大丈夫なのかと思わざるを得ない。
そもそも、これって延々とただ同じ投票行為を繰り返すだけの原始的なシステムで、足切りも決戦投票もない不思議な制度。これでよく今まで750年近く、無事に教皇を決められてきたもんだと素直に感心する。そんだけ枢機卿たちはみんなで、なんとなく空気を読み合ってきたってことか。自分が「少数派」だと判明したら、より多数派の教皇候補で信条的に乗り換え可能な勢力に、さっさと気を利かせて移っていくようにできている、ということなんだろうな。
なんにせよ、「固い」と思われた評決が、意外な事実の露見によってどんどんと覆っていく面白さは、まさに法廷サスペンスの読み味であり、その辺のクリシェをうまく「援用」していると思う。
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「法廷サスペンス」要素と並んで、『教皇選挙』のミステリ性を支えているのは、「教会の探偵」としてのローレンス首席枢機卿の存在である。
彼は、いわば「苦悩する名探偵」として本作に君臨する。
役どころとしては、教会内の隠された内情を調査するという意味で、ウンベルト・エーコの『薔薇の名前』に出てくるウィリアム修道士や、エリス・ピーターズの創造した修道士カドフェルのような立ち位置にある。
必ずしも推理を働かせて真相に迫るというわけではないが、新たに得た情報を分析し、必要な尋問を推し進め、何より「選挙の展開を調整して落としどころを付ける」役割を担っていて、これはまさに推理小説における「名探偵」の機能に他ならない。
『教皇選挙』の場合、少なくとも最初の二人の有力者は、疑惑を突きつけられただけで比較的簡単に白状&降参するので、ちょっと拍子抜けする部分もあるが、かといって三人目の有力者のように最後まで抵抗しても、疑惑を認めようが認めまいが「投票者の支持を喪って票が入らなくなる」ともうおしまいである。
「名探偵」としてのローレンス枢機卿の決断が、自らの内なる正義に問うというよりも、「亡くなった教皇が生前どう判断していたか」に常に依拠しているのはちょっと新鮮な感覚があるが、彼は「使命」に従って仕切っている立場である以上、そこはわからないでもない。
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以上のように、本書はまずもって「法廷もの」と「名探偵もの」の要素を掛け合わせた「ミステリー」としての足場をしっかり保持している。
だがそれと同時に、「内幕もの」(バックヤードもの)として抜群に面白い点もまた強調されるべきだろう。
カトリックにおいて、「儀式」の秘儀性は重要だ。それこそがカトリックをプロテスタントと分ける最大のアイデンティティであるとすらいえる。
教皇選挙もまた、厚い秘密のヴェールに隠されたとびきりに「謎めいた」儀式であり、その中身を垣間見られるというだけでドキドキさせられるものがある。
儀式の手順や所作、ガチで使用されるラテン語、本物のミケランジェロ『最後の審判』の前での宣言、有名な「煙」を用いた外部への連絡。いやあ、面白い。
ふだんは普通の恰好をしている老人たちが、真っ赤なおべべを着て「権威」を身にまとい、発するラテン語の台詞まで決められた究極の「ロールプレイ」に挑んでいく姿は、どこか地域の祭事に臨むおじいちゃんたちにも似て、ほほえましい。
しょせん現代の俗世しか知らない老人たちが、必死で750年の歴史を背負って「それらしくやろう」とやっきになってあたふたしているのを、外から観察する面白さというか。
それにこいつら、カトリック界の頂点に君臨する者たちの最高位の選挙といいながら、過去の過ちがどうしたとか、相手を陥れるためにどうしたとか、やっていることがやけに世俗じみているうえに、あまりにしょぼくて、みみっちい。
だいたい、パンフには「メディアさえ立ち入りを禁じられ、外部からの介入や圧力を徹底的に遮断する選挙」と書いてあるけど、選挙期間中に外からもたらされた情報に右往左往してるし、思いっきりテロの影響受けてるし、正式の投票の場では結局何も決まらず、夜の秘密の追及劇や急遽開かれた野良会議でほぼ全てが左右されてるんだもん。ぶっちゃけ最後とか、明らかに「なりゆき」と「ノリ」だけで、超大事なこと(教皇)が決まっちゃってる気がするんだけど……大丈夫か?(笑)
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以下、寸感。
●鳥瞰カメラで枢機卿たちの日傘が動いていくショットは、『シェルブールの雨傘』みたい。このあと『サブスタンス』でもシェルブール・オマージュと思しきオープニングに出くわし、あの映画の不思議な影響力を感じる。
●英米合作の映画でありながら、ヴィスコンティやベルトルッチを観ているような「イタリア」的な映像感覚が顕著で、イタリア映画好きの僕としては胸が躍った。枢機卿たちを象徴するカーマインレッドのインパクトと美観も、忘れがたい。チネチッタ・マジックか。
●レイフ・ファインズ以外、誰も知らない俳優ばっかりだなあと思っていたら、トランブレ枢機卿ってジョン・リスゴーだったのか!! 『レイジング・ケイン』以来の邂逅(笑)。あと、野中広務みたいな顔の修道女が意外に重大な役回りで出てるなと思ったら、なんとびっくりイザベラ・ロッセリーニだった!!
●イタリアが舞台なのに、この映画も『ハウス・オブ・グッチ』みたいにみんな英語でしゃべるんだな、と思っていたら、ローレンスは英国人、ベリーニは米国人、トランブレはカナダ人だから英語で話してるのね! あとから出てくる連中は自分の国の言葉をしゃべるし、選挙中は公用語のラテン語を話す。なるほど、これは考えられてるなあ。
●ほかのアカデミー賞候補作同様、映画の背後には「トランプ対リベラル」「キリスト教世界対異教」といった要素がほの見え、製作者のスタンスがうかがわれる。このあたり、パンフのコラムがとても示唆的だった。
●個人的には、つい自分の名前を投票用紙に書いちゃったとたんに、天罰覿面のごとくテロの被害に遭って、心身ともにダメージを負って悄然としているレイフ・ファインズにいちばん萌えた(笑)。
●ラストのひねりについては、ネタ自体たしかに面白いは面白いけど、結局は「何者としてどう生きてきたか」が重要なのであって、「そのこと」については本人すら知らなかったくらいなのだから、あんまり気にする必要はない、むしろ問題視すること自体がナンセンスなのでは、くらいにしか思わなかった(笑)。
そりゃ、家父長制の権化みたいなカトリックの根底を揺るがす事態ではあるんだろうけどね。
●ロバート・ハリスの原作はなぜか未訳(まあ地味な話だしね)。読んでみたいのでどこかの出版社でぜひお願いします。
さすがに良作
正直、難しい。
期待していたようなドキドキ感や緊張感のある展開はあまりなく、全体的に淡々と物語が進んでいきます。派手な演出や大きな山場よりも、人間の内面や感情の機微に重きを置いた作品であり、静かに心を揺さぶられるような印象を受けました。
一度観ただけでは全てを理解しきれず、登場人物の言動や背景に込められた意味を読み解くには、何度か観返す必要があるかもしれません。その分、繊細に張り巡らされたテーマや心理描写に気づけたときの深い納得感があります。
前提知識があるとより深く楽しめる作品でもあるため、鑑賞前に簡単な予習をしておくことをおすすめします。決して分かりやすい映画ではありませんが、じっくり向き合えば向き合うほど味わいが増す、そんなタイプの作品だと感じました。
今時の脚本とその矛盾点
現実に教皇が亡くなったことで人々は実際の教皇選挙というイベントそのものにも関心を持つことになったわけだが、恐らく制作側の意図としては教皇選挙の派閥争いを通して、バチカン内部への関心を持たせつつ、そこに現代の欧米の政治や思想の問題をメタファーとして織り込んでいる作品であり、そういった時代の変化がテーマになっている作品であると思う。
コントラストのあるしっかりとした撮影とドラマチックな音楽、確かな演技力のある役者をそろえた見ごたえある作品であるが、何よりも複雑な人間関係を見事に整理した脚本力が大きい作品だと思う。
ただ、そのポリティカルコレクトネスを、ふりかけのようにちりばめた「今時な」脚本の好き嫌いは人によって別れるところがあるのではないだろうか。
自由、平等の精神を伝えたいのはわかるのだが、「あの」人物は果たして本当に無私の野心を持たない聖人だったと言えるのだろうか?彼はずっと嘘をついていたわけだ。そして他のものと違い、なぜ彼のついた嘘は許容されてしまうのだろうか?
つまりこれでは理想主義側の正義は紛うこと無き正義なのだという潔癖で、都合の良い物語にしかなっておらず、とても現代の複雑さを内包出来ている作品とは言えないのである(特にこの作品がアメリカで公開された時と違い、アメリカが変容してしまった2025年現在では)。
そのような先進的で理想主義の側が常に正しく、遅れている相手の話は聞く必要がない、という閉じた態度が現代の社会の分断をもたらしているわけである。だからこそ「あの」人物の矛盾や偽善にまで言及出来ていれば、この作品は更に複雑で深い作品になりえていたのではないだろうか。
予習必須
カタカナ名のおじさんがたくさん出てきて、顔と名前を一致させた上で、それぞれの立場や主張を頭に入れて…としている間に、現実世界の私はおそらく数分、睡魔との闘いに手痛い敗北…。
そのせいか、映画を世界観を6割くらいしか堪能出来なかったと思う。
それでも、前教皇が仕掛けたとおぼしきギミックによって、あざやかに次の教皇が決まっていくさまは、見事だった。
カトリックの教義やしきたりを知ってから見たら、きっともっと深く感じることがあったかも。
奇しくも現実世界でもコンクラーベが行われ、あんなふうにして、決まったんだなーと、これまて遠い世界のニュースだったことが、少しだけ身近に感じられたのは良かった。
ちゃんと下調べをしてから、もう一度観たい映画です。
人をジャッジする難しさ ある意味問題作
トマスが真実を見極める力
感想
つい最近のニュースでも史上初のアメリカ合衆国出身の教皇が誕生した事が話題となっていた。コンクラーベ自体は以前からその秘匿性の高さが気になり、昨年度のアカデミー脚本賞を受賞した本作を是非劇場で鑑賞したいと思っていたが、体調的に余り勝れず日比谷まで行くには遠いと感じていた。しかしニ番館上映として家の近くの映画館で上映が始まったのて出かけて鑑賞した。
全世界に13億人以上の信者を抱えていると言われているローマンカトリック。その頂点にある教皇が亡くなり次の教皇を選出する為に行われる教皇選挙(コンクラーベ)に於いて選挙管理を司る首席枢機卿の視点を通して展開していく人間が企てた様々事実(事象)を描き変化し続けていく人間模様の中で新しいローマ教皇が選出される模様を描くミステリーサスペンス。
コンクラーベを進めていくうちに次第と分かってくる次期教皇となるべき枢機卿達の過去や人間としての考え方や、神と真摯に向き合う時、神に対する畏敬の念と宗教指導者としての顔の裏にある人間的な虚栄心や自我、利己的な心の葛藤や悩みと苦しみ、自分が過去に犯してきた聖職者としてとても人には言えない罪への贖罪の気持などが赤裸々に浮き彫られる。その様子は現在の全世界が抱えている様々な民族的災いや国家間の争いに巻き込まれる人間の不幸、死の悲しみと重なり観る者に心の葛藤と問題を投げかける。
本作に於ける教皇の選出結果にしてもその結末は其々の個人が持つ宗教的信念と掛け離れていて賛否両論があるのかも知れない。しかし世の中の不確実性極まる事件や事故さらに社会問題化する多様性社会の問題等が、普段の社会には溶け込んでいるが、一旦事象が発生してくると顕在化してくるダイバーシティにおける人種的差別問題やジェンダー受容、格差問題、その他不条理な諸々の現代社会の心理、また細々とした人間関係、社会的要素が加わりそこから想定外の事態が発生してしまうという事実がある。
それらを鑑みると本作主人公の第一日目の最初にあった祈祷の中で発せられる「確信に満ち溢れた信仰、又は確信に満ちた行動や考えほど思い込みが過ぎてしまい独善的な恐怖と抑圧に満ちた偏見を生み出してしまう原因になるのではないか?人として不確実性の中を生きることによる迷いや悩みの原因と苦しみがあるのだが、一つずつ人間として向き合い考えぬき、ある程度の納得をして結論を出して解決していく事が正しいのではないか。此処に集う全員に神様のご加護があります様に。」と祈祷の意味を私は解釈したのだが。ローマンカトリックの各地区のリーダーたる枢機卿という高い位の立場の者であっても人として、また一個人としての考えをその場にいる者の内で心が通い合う者同士だけでも良いので意思疎通を繰り返し話し合う事が最良で正しい判断であると感じさせるシーンが印象的であった。
精神医学の中に認知バイアスという考え方がある。それは判断においての規範や合理性から体系的に逸脱したパターンを指す。閉鎖空間の中で繰り返し行われる投票行動により認知バイアスが働き全く予測が出来ない経緯を経て真の宗教的リーダーが選ばれる事もあるのだということが本作を鑑賞してよく解った。三日間で数回に渡る投票を繰り返すうちに枢機卿達は神と自己との関わり深める。同時に現実として新しい教皇を選出するという行動に認知バイアスに規制が掛かりその内で最適と考える候補者を選出していく。単に票集めの政治的工作や競合者を貶める様な裏工作も宗教者を選出するという行為は良心の呵責が大きく作用し、新たな情報としてその行動を認知する事により、新しい認知バイアスが作用する。認知バイアスは全く自由に情報を選択できる場合に的確な回答を外しむしろ逆に害を及ぼす場合もあるが、情報が限られた世界(外部からの情報を遮断された空間)においては認知科学又は社会心理学的に見ても認知バイアス上での教皇の選出は真当な事となり得る。
世界的多数の信者を持つ宗教のリーダーを選出するために故意に情報が入れない世界を設定し神と自分を対峙させる事で真実として結論を導き出していく教皇選挙。しかし、真実として選ばれた者であってもその後の振る舞いによっては正当ではなかったと解釈される事も存分に考えられるのだが。
本当の真実とは何か。世界の、どの分野(宗教・国家・政治・民衆文化)にも該当する本当の真実(人間の本来持ち得る、本質的な道義・道徳的な正しさ)は既存の規範や合理性から体系的に逸脱したパターンの中に実は存在するのではないか?そんな気持が湧き出てくる作品であった。
世界の現状は過ぎたる「確信」による災いが世の中ではありとあらゆる場所で頻発し、国家や政府のリーダーがその「確信」を改めない限り世界に平和は訪れる事はない。その中で新しい宗教リーダーであるローマ教皇は世界平和実現の為にどの様な働きをしていくのだろう。興味を持ち注視していきたい。
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脚本・演出◎
想像以上の脚本の出来映え。自分自身の信念や信仰が無くても問題提起として充分な仕上がりをみせる。
配役
レイフ・ファインズ:トマス・ローレンス
神経質で人間性豊かな神への畏れを持つ首席枢機卿を絶妙な演技でまさに聖書にある「キリストの復活を疑い惑うトマス」のような表情を体現していて秀逸。
イザベラ・ロッセリーニ:シスター・アグネス
「ブルー・ベルベット」が自分にとっては衝撃の映画であったので懐かしい。久しぶりに御姿を拝見。シスターの服装なので最初気付かず。
ジョン・リスゴー:ジョセフ・トランブレ
スタンリー・トゥッチ:アルド・ベリーニ
セルジオ・カステリット:ゴッフレード・テデスコ
ルシアン・ムサマティ:ジョシュア・アデイエミ
カルロス・ディエス:ヴィンセント・ベニテス
⭐️4.5
宗教的よりも権力争い
赤と白と黒が織りなす極上の映像美
教皇選挙(コンクラーベ)というコアな題材を扱いながらも、現代社会が抱える人種や性別、果ては個人的な価値観といった問題を浮き彫りにし、真の多様性とは何かを観る者に問い掛ける大傑作。
最早、全てのシーンが絵画。
丁寧に作り込まれた美しい映像の数々に目を奪われっぱなしでした。
壁を背に映し出される黒い服の聖職者たち、白い傘を差した無数の人が噴水の周りを通る真上からのカット、赤い服に身を包み投票を待つ枢機卿たちなど。
赤と黒と白が織り成す映像の数々は何処を取っても息を呑むほど素晴らしいものばかりです。
当然、衣装や小道具、セットなども文句の付けようがありません。
赤を基調とした質感の良い衣装や豪華な装飾品は勿論、イタリアにあるチネチッタ・スタジオに再現されたバチカン内部のセットが素晴らしい事!
荘厳なシスティーナ礼拝堂や聖マルタの家など本物と見間違えるほど。
それこそ、絵画の中に入り込んでしまったかのような錯覚さえ味わえる作品でした。
そうした美しさの中で繰り広げられる教皇選挙(コンクラーベ)が更に観客の心を掴んできます。
主人公ローレンス枢機卿を演じたレイフ・ファインズの視点で展開される物語なので没入感が物凄いです。
枢機卿が抱える苦悩がいつしかこちらへと伝わり、「なんとしてもコンクラーベを円滑に終わらせたい」という気持ちで一杯になります。
秘密裏で行われる選挙で陰謀や策略が渦巻き、主人公ローレンスを更に追い詰めてくるので緊張感も半端ありませんでした。
ミステリ要素を内包しつつ、静かに展開される物語から目が離せなくなります。
そして待ち受ける衝撃的なラスト!
これほどまでに「多様性」という問題を扱った映画で溜飲の下がる作品はなかった気がします。
間違いなく見逃し厳禁の作品。
見終わった後に「確かな事など何一つない」事を痛感させられる傑作なので、映画館に足を運ぶ事をお勧めします。
理想と現実を生きる僕達と
基本的に娯楽にフルスロットルの映画を好む為、真面目系映画はあまり嗜まないのですが、そっち方面としては近年有数レベルで面白いです。
舞台は新しいカトリックのトップを選ぶ教皇選挙、教皇を選ぶ候補者兼選挙権を持つ枢機卿が集められます。
集められた枢機卿は、カトリックのトップクラスの人間だけあり、基本的に全員が善性で有能な人達で同じ信仰を持つ人達ですが、そんな人達でもスキャンダルや権力闘争の中で選挙を行っていくお話です
個人的には、前時代的なカトリックは好きでは無く、選挙モノということもあり、もっとギスギスした話を期待していたため、そういった意味では肩透かしとも言える内容でしたし、リアルのカトリックのスキャンダルや姿勢等を考えると、理想的過ぎるオチは反発したくなる人も多いとは思いますが、劇中のいくつかのスピーチはそれでも私の心には確かに響きました。
予想もつかない権力闘争劇
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