「「特別な選挙におけるあっと驚く極上なミステリー映画」」教皇選挙 かなさんの映画レビュー(感想・評価)
「特別な選挙におけるあっと驚く極上なミステリー映画」
教皇が死去した。新しい教皇を選ぶ「特別な選挙」がコンクラーベだ。世界各地から108名の枢機卿が集まり選挙をする。この「特別な選挙」を映画は二つの観点から描写している。
一つ目は伝統と格式美を印象付ける描写だ。大勢の枢機卿のまかないをするシスターが世界各地から集められる。コンクラーベに身に着ける衣装や装身具の数々。大勢の枢機卿が集まるシーンや宿泊、選挙会場を上からの撮影、俯瞰的カメラアングルによって壮大さを描写している。「特別な選挙」は外部とまったく遮断され隔離状態になることや進行、投票方法などディテールも緻密だ。
二つ目は約十四億人の信者のトップを決める名誉と権力をかけた戦いを極上のミステリー心理戦として秀逸に描写していることだ。この「特別な選挙」は伝統と格式美のもとおこなわれているが内実は違う。コンクラーベの前日から丁々発止のやり取り、牽制、仲間内との密談。投票が進むごとに明らかになる策略、追い落とし、嘘、多数派工作がおこなわれ投票の力学的変化が起きてくる。
しかしこの「特別な選挙」は聖職者のトップを選ぶものだ。神に仕える枢機卿という役職にあるまじき野心への露骨さと一番聖なる座に就く人を選ぶ選挙というギャップが所詮人間だと思わせる。
コンクラーベ中に二度テロ事件がおきる。異教徒の仕業だ。首席枢機卿が事件を枢機卿に説明すると保守派とリベラル派の対立がおきる。まるでどこかの国の政局を見ているごとく聖なる者たちの対立。テロを宗教戦争と意味づける保守派。六十年の歴史と前教皇の否定。そこで誰と戦争するのか、確信に疑念をいだくことが必要と説く一人の枢機卿の一言に皆が黙る。
結末はあっと驚く展開が二つ連続する。まったく予想できない結末。ただこの結末は前教皇がすべて仕組んでいたのではないかと想像力が掻き立てられる。あまたいる枢機卿を死期を悟ったときから監視し続け、ある者を断罪しローレンス首席枢機卿の辞任を認めなかった。「特別な選挙」が虚無感しか残らない終幕にした見事なミステリー映画であった。