「スタイリッシュな映像で描かれる心理戦とサスペンス、宗教への問いかけ」教皇選挙 ycoさんの映画レビュー(感想・評価)
スタイリッシュな映像で描かれる心理戦とサスペンス、宗教への問いかけ
様々な賞を獲ったりノミネートされただけあって面白かった。
まず、カメラワークがスタイリッシュでかっこいい。
構図・色彩、どれも洗練されている。
そしてそれにより、本来伝統を重んじ安寧の世界であるはずのカトリック教会が、
「決してそれだけではない」と感じさせる効果も果たしているのだろう。
そしてストーリー。始まって間もなく、来るはずのない正体不明の人物が現れる。
もうこの時点でその先が気になる。面白くなりそうな気配がする。
そして物語は淡々と、じりじりと進んでいく。いくつかのさざ波を越えるうちに、
正体不明の人物の存在感が増していき、主人公の心も徐々に揺れ始める。
その「じりじり」感が絶妙である。
淡々と、しかし着実に進んでいく中でのクライマックス。主人公が手のひらを反すように私欲を見せた瞬間の爆風!まさに神の裁きと言わんばかり。隔離されていた教会内部の人間模様に対し、さわり程度にしか触れられていなかった外部の事案がこんな活かされ方をするとは!映像も音響も、それまでの密やかな空気を打ち破る迫力。思わず息をのむ。
個人的にはここが一番の見どころかと。
最後はやはりあの人物が持って行くことに。
で、映画的にはここが更なる大どんでん返しとなるだろう展開、
その人物は子宮を持っているという。=女性「でも」あると言おうか。
教皇は男性しかなれないという極めて基本的なルールを覆す出来事だが、
その人物の「神の与えられた姿のまま」という言葉に主人公は反論もできない。
結局胸の内にしまうこととなる。なんとも複雑そうな表情ではあるが受け入れたのであろう、エンディングはこれまでの画よりも光・明るさを感じさせるものであった。
このラストについて「映画的には」と書いたのは、私自身がカトリックではないため、「教皇が子宮をもっている」ことへのタブー性が感覚として理解できなかったからである。途中から「もしや」と思っていたこともあるが、根本的に「女性で何が悪い」という意識が根っこにあるため、主人公が受けるほどの衝撃は受けなかった。
が、改めて宗教(ここではカトリック)がいかに女性を排除してきたかを痛感した。(ちなみに他文化に於いては両性具有は神の子とされる場合も悪魔の子とされる場合もあるらしい)
シスターが「普段はまるで見えないもののようにされている私たち」というセリフもあった(個人的にはこのセリフの方が衝撃であった)。作中では枢機卿たちの実社会でも報じられたようなスキャンダルにも触れられる。人種・国・主義等々に、排他的な面も描かれている。とある枢機卿は「私たちは理想そのものではない」と自己弁護し、まさにその通りなのだろうが「じゃぁ宗教って何?」と無宗教の自分は冷めた気持ちにもなる。
しかしながらこの映画を通してカトリックの一面を覗けたことはとても面白く(どの程度真実味があるのかは当事者たちに聞いてみたいが)、サスペンスとしてもとても良くできていた。
特にサン・マルタ館の様子はとても興味深かった。映画の方がだいぶ近代的なつくりのようだが調べた限り本物もなかなか素敵だ。一回くらい泊まってみたい