劇場公開日 2025年3月20日

「この映画が名作である事だけは確信している」教皇選挙 てんぞーさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5この映画が名作である事だけは確信している

2025年8月27日
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レイフ・ファインズが選挙中に起きる様々な問題に頭を悩ませる話。
主人公ローレンス枢機卿(レイフ・ファインズ)は選挙の責任者として、集合する枢機卿たちの受け入れ準備を整え、儀式の段取りを仕切り、枢機卿同士の政治闘争や保守派とリベラル派の対立を取りなしつつ、自らの派閥の談合にも参加する。枢機卿とシスターが修羅場になれば事情聴取を行い、枢機卿の不正疑惑に奔走し、さらには亡き教皇からの遺言めいた不正の証拠を見つけて頭を悩ませる。それはそれとして選挙を妨害したいテロ勢力からの攻撃もあり、ローレンス枢機卿は大体ずっと困っている。
信仰・権力・倫理、それぞれの持つ魔力がせめぎ合うドラマの中で葛藤するローレンスの様がじっくりと描かれており、ここはレイフ・ファインズの圧巻の演技力が光を放っている。

選挙にあたりローレンス自身が語る「確信を持たず」というフレーズはこの作品の核心 。現在の行い、信仰、教義を絶対とせず、常に疑問を投げかけるという姿勢はとても正しいと思う。
その一方で、長い歴史に根差したカトリックという組織の中でその信念を貫くことの難しさも描かれており、物語のラストではその言葉そのものが思いがけない形でローレンス枢機卿に返ってくる場面がある。物語中ではリベラル派の筆頭であったローレンス自身もまた、自ら語った「確信を持たず」という言葉に強く揺さぶられ、その重みを思い知ることになる。この踏み込んだラストは、保守・リベラルという枠を超えて、カトリックという組織そのものへの大きな問いかけとなっていて、最後まで油断できない。

この映画の楽しい所は選挙にまつわる政治サスペンス部分だけではない。
教皇選挙(コンクラーベ)といえば、システィーナ礼拝堂で執り行われる枢機卿たちによる儀式で、白い煙が昇れば教皇選出、黒い煙は未決というのは割と有名な話だが、それ以外にも、実際に教皇が死んだ後の段取りはどうなっているのか、世界各地の枢機卿はどのように参集し、どのように選挙を行うのか。選挙に使う専用の紙、専用の投票箱、一人一人が唱える宣誓の言葉、華麗な紅の衣装。コンクラーベに伴う一挙手一投足が事細かに描かれており、深い歴史に裏打ちされた未知のディテールは、見ていて興味が尽きない。

映画はこの一連の儀式を決して無駄なものとしては描かず、その形式に含まれる宗教的な意味合いに大きな敬意を払っている。荘厳さと歴史の重みを画面の中に再現するエドワード・ベルガー監督の手腕が光っている。
このディテールの積み重ねによって観客も儀式の重要性を体感できるようになっており、映画への没入度が高まる。
また同時に、形式にこそ意味が宿ることや歴史を尊重することの重要性を暗に語っているようで、これは保守にもリベラルにも味方しないという、この作品そのものが放つメッセージなのかもしれない。物語・美術・構造のすべてを駆使して真の改革とは何かを問いかける。類まれなる作品である。

てんぞー
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