「ピーター・ストローハン(脚本)と、エドワード・ベルガー(監督)の手腕を評価する」教皇選挙 Dickさんの映画レビュー(感想・評価)
ピーター・ストローハン(脚本)と、エドワード・ベルガー(監督)の手腕を評価する
❶相性:上。
➋時代:現代。
❸舞台:バチカン宮殿、システィーナ礼拝堂。
❹主な登場人物(全員架空)
①トマス・ローレン〔イギリス出身・ローマ教皇庁〕(✹レイフ・ファインズ、61歳):主人公。ローマ教皇庁・首席枢機卿(Cardinal-Dean)。コンクラーベを主宰する。有力候補の一人。リベラル派。信仰に関する悩みを抱えており、前教皇に辞職を申し出たが慰留されていて、自身は教皇に相応しくないと考えている。
②アルド・ベリーニ〔アメリカ出身・バチカン教区〕(✹スタンリー・トゥッチ、63歳):ローマ教皇庁・次席枢機卿。ローレンスの友人。知識人でリベラル派。有力候補の一人。
③ジョセフ・トランブレ〔カナダ・モントリオール教区〕(✹ジョン・リスゴー、78歳):枢機卿。保守派。有力候補の一人。前教皇が亡くなる直前に辞任を要求したとされて裏がありそう。
④ゴッフレード・テデスコ〔イタリア・ベネチア教区〕(セルジオ・カステリット、70歳):枢機卿。保守派にして伝統主義者。有力候補の一人。スキャンダルとは無縁の存在だが、改革派の前教皇との関係は悪かった。
⑤ジョシュア・アデイエミ〔ナイジェリア教区〕(ルシアン・ムサマティ、47歳):枢機卿。有力候補の一人。史上初となるアフリカ系教皇の座を狙う。
⑥ヴィンセント・ベニテス〔メキシコ出身、アフガニスタン・カブール教区〕(カルロス・ディエス、52歳):枢機卿。紛争地域や教会の勢力が弱い地域での奉仕を行ってきた。その功績を評価されて前年に前教皇から枢機卿に任命されたが、活動経緯から秘密の任命であり、ローレンス達もその事実を知らなかった。コンクラーベ開始直前に任命状を携えて到着し参加する。
⑦サバディン〔ローマ教皇庁〕(メラーブ・ニニッゼ):枢機卿。修道会所属。リベラル派。ベリーニへの票集めに奔走する。
⑧シスター・アグネス〔ローマ教皇庁〕(✹イザベラ・ロッセリーニ、71歳):修道女。コンクラーベ中の宿泊施設の管理最高責任者。
⑨モンシニョール・レイモンド・オマリー〔ローマ教皇庁〕(ブライアン・F・オバーン):神父。ローレンスの秘書役。枢機卿団の補佐役を務める。ローレンスから依頼を受け、トランブレに関する調査を行う。
⑩ヤヌシュ・ウォズニアック〔ローマ教皇庁〕(ジャセック・コーマン):大司教。教皇公邸管理部の責任者で、前教皇の身の回りの世話を行なっていた。前教皇の遺体の第一発見者で、死の直前に前教皇とトランブレの間で行われたやりとりを目撃していた。
❺要旨(参考:Wikipedia & IMDb):
①時は明示されないが現代。ローマ教皇が心臓発作のため帰天したところから幕が開く。
②首席枢機卿のローレンスは、新教皇を選出するコンクラーベを執行することとなり、世界各地から枢機卿団を招集する。その数百数十名。
③有力候補は、アメリカ出身でリベラル派最先鋒のベリーニ、ナイジェリア出身で社会保守派のアデイエミ、カナダの保守派のトランブレ、イタリアの保守強硬派のテデスコの4人。
④教皇庁長官のウォズニアックは、ローレンスに対し、教皇が死去前にトランブレに辞任を要求していたと告げるが、ローレンスは確証がないので発表を控える。
⑤土壇場でカブールのベニテスが任命状を携えて到着する。彼は、前年に前教皇から枢機卿に任命されていたが、アフガニスタンではキリスト教徒が迫害されている状況があるため秘密にされ、ローレンス達もその事実を知らなかった。ローレンスはベニテスを正当な枢機卿として認め、枢機卿団に紹介する。
⑥1日目:
ⓐコンクラーベが開幕し、システィーナ礼拝堂にて枢機卿団による投票が始まる。
ⓑ1回目の投票では当選に必要な2/3の多数を獲得した者はいなかった。
ⓒローレンスは、補佐役のオマリー神父の調査により、ベニテスがスイスの病院で診察を受けるための費用を前教皇が支払っていたことと、ベニテスがこの診察をキャンセルしていたことを知る。
⑦2日目:
ⓐナイジェリアからローマに派遣されたばかりの修道女シャヌーミが、昔アデイエミと不倫関係にあり子を出産したことを告白する。アデイエミは事実を認め、選挙戦から脱落する。
ⓑローレンスは、シスター・アグネスと協力し、シャヌーミの転勤をトランブレが手配していたということを知る。問い詰められたトランブレは、教皇の要請でそうしたと主張する。
ⓒローレンスは教皇の帰天以来封印されている部屋に侵入し、トランブレが枢機卿たちに買収行為を行ったことを示す文書を発見する。トランブレは教皇の死期を悟り、1年前より買収行為によって来るべきコンクラーベでの票集めを行っており、それが前教皇に露見して辞職を要求されたのだった。
⑧3日目:
ⓐローレンスはアグネスの協力の下、トランブレに関する文書を枢機卿団に公表する。トランブレはローレンスが、封印されている部屋に侵入したと反撃するが、アグネスが、「私たち修道女は目に見えぬ存在ですが、神は目と耳を下さった」とトランブレの策略を暴露した結果、トランブレは教皇候補から外れる。
ⓑ次の投票時、爆弾が礼拝堂に投げ込まれ、コンクラーベは一時中断する。
ⓒこの爆発はイスラム教原理主義者による自爆テロ事件であること、ヨーロッパ各地で発生した一連の自爆テロ事件の一つであり、数百人の死傷者が出ていることが枢機卿団に伝えられた。
ⓓテデスコがイスラム教に対する宗教戦争を主張したのに対し、ベニテスは暴力に暴力で対抗することに反対する。「権力争いを止めて、教会の教えを周縁の人々にまで届けるべき」と主張する。
ⓔ投票が再開され、圧倒的多数でベニテスを選出。ベニテスは教皇名「インノケンティウス」を選んだ。
ⓕローレンスは、オマリーから、ベニテスの診察予約がキャンセルされた事情の報告を受け、ベニテス本人から真相を聞く。ベニテスは、生まれつき子宮と卵巣を持っていて、盲腸の手術でそれが明らかになるまでそのことを知らなかった。その事実に悩んで前教皇に辞職を申し出るも、切除すればいいとして慰留された。予約していた診察の内容は子宮摘出手術だったが、神に創造されたままの自分であり続けるべきだ("I am as God made me.")と考えて出発前夜に手術を断念した。
ⓖローレンスは、この秘密を、自分だけの胸に納めることを決意した。外からは、新教皇の選出を祝う群衆の歓声が聞こえていた。
❻まとめ
①コンクラーベに関しては、下記❽に示した映画等で、ある程度の知識があったが、詳細なプロセスは本作が初めて。
②首席枢機卿のローレンスが、公正かつ冷静にコンクラーベを仕切っていく様子が頼もしい。
③一番納得したのは、紛争が多く危険も多い、イスラムのアフガニスタンで活動するベニテスが新教皇に選ばれたこと。
④そして、一番驚き共感したのは、ベニテスが生まれつき女性生殖器(子宮と卵巣)を持っていて、前教皇が切除を望んだのに、本人は、神に創造されたままの自分であり続けるべきだと判断したこと、そして、ローレンスがそれを認めて、他言しないようにしたこと。
★フィクションだから出来ることではあるが、画期的・革新的であると言える。
⑤これだけの内容を、2時間に仕上げたピーター・ストローハン(脚本)と、エドワード・ベルガー(監督)の手腕を大いに評価する。
❼トリビア1:実際のコンクラーベ
①本作が日本で公開中の4月21日、ローマ教皇フランシスコが88歳で死去し、5月8日にコンクラーベが行われ、4回目の投票でアメリカ出身のロバート・フランシス・プレヴォスト枢機卿(69)が第267代ローマ教皇に選出され、レオ14世となった。
②この投票には、日本から2名の枢機卿が参加している。
・菊地功枢機卿(東京教区大司教)
・前田萬葉枢機卿(大阪高松大司教)。
③去る6月7日、名古屋の南山大学で行われた『第4回南山大学「人間の尊厳賞」表彰式・記念講演会』に参加した。講演者は菊地功枢機卿。
④「混乱の時代に助け合う命」と題する80分の講演は、博愛に満ちた内容と巧みな話術の両面で、分かり易く深い感銘を受けた。
⑤最後に、5月8日のコンクラーベについても話があった。
ⓐ映画『教皇選挙』は往きの機内で観たが、良く出来ていて、大半が描かれた通りだった。でも違っている所もあった。
ⓑ実際に集まった枢機卿たちは、和気あいあいとした雰囲気で、お互いをけなしたりおとしめたりというような謀略的なことはなかった。
ⓒ食事は長テーブルではなく、6人単位の丸テーブル。この方が、くつろいで会話が弾む。赤の衣装は着ない。汚れると後が大変だから。
❽トリビア2:枢機卿とコンクラーベが描かれた劇映画
①『枢機卿(1962米)』:
ボストン生まれの神父がカトリック教会のなかで頭角をあらわし枢機卿にのぼりつめるまでの物語。
②『栄光の座(1968米)』:
ソ連で政治犯として20年も強制労働キャンプに送られていた元大司教が、新法王に選ばれ、世界平和に尽力する。
③『天使と悪魔(2009米)』 :
コンクラーベを前に、有力な候補である4人の枢機卿が誘拐される・・・・
④『ローマ法王の休日(2011伊・仏)』:
選出されたくないという願いもむなしく選ばれてしまった新しいローマ法王が、大観衆へ向けた就任演説直前にローマの街に逃げ出す・・・・
⑤『2人のローマ教皇()2019英・伊・アルゼンチン・米』
カトリック教会の方針に不満を抱く枢機卿が教皇に辞任を申し入れるが、スキャンダルに直面し自信を失っていた教皇は辞任を許可せずローマに呼びつける・・・・
➒トリビア3:聖職者の犯罪
①本作では、有力候補のトランブレ枢機卿が、選挙で有利になるように、陰謀や買収行為をしていたことが描かれる。これはフィクションだが、次の②は実話である。
②アカデミー賞作品賞と脚本賞を受賞した『スポットライト 世紀のスクープ(2015米)』では、神父による児童への性的虐待が世界中で幾つも起きていて、カトリック教会が組織ぐるみで隠蔽してきたことが示されている。
③「聖職者」であっても「聖人」でない人がいるということだ。
④忘れてはならないことがある。それは世界には自浄作用があるということ。邪な手段で手にした権力は、長くは続かない。それは世界の歴史が証明している。
⑤それは政治の世界も同様だ。プーチン政権もトランプ政権も、いずれ終焉を迎える。そう願っている。
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