「カリカルチュア化はされているが問題点は挙げられている」教皇選挙 ジュストさんの映画レビュー(感想・評価)
カリカルチュア化はされているが問題点は挙げられている
いつも、宗教問題では一神教は排他的、多神教は寛容という主張がある。しかし、インドにおけるヒンドゥー原理派による他宗教排斥、日本の国家神道による他の神道系団体、仏教をによる弾圧で多数の殉教者を出した事実を知らないのか、知らないふりをしているのか疑問に思う。
この映画のテーマは世界最大宗教であるカトリックの指導者、教皇を選ぶドラマである。一か所で外に出ない閉鎖的な空間での劇となっている。日本ではくじ引きが神意を占うものとされたが、欧米では選挙が神意を表すとされていることが良く分かる。
ドラマは教皇の死から始まる。教皇が死の直前にトランプレ枢機卿を馘首にして、新たに戦時下のコンゴ、イラク、アフガンで困難な仕事をしていたベニテスを枢機卿に選任していたことが分かる。
保守派デテスコは100年くらい前の教会制度を理想としている。映画ではテデスコはいかにも傲慢、尊大、俗悪な人物として描いている。
主人公ローレンスはテデスコに反発して、リベラル派のベリーニを推すが票は集まらない。ベリーニ自身は「野心はない」と言いながら、ローレンスに票が入ったのを知ると、「お前が野心家だったとは思わなかった」と詰る。
進むに連れ、第二候補のトランプレ枢機卿が教会財産を流用して他の枢機卿を買収。有力候補であるアフリカ出身のアディエミを過去の醜聞を暴いて失脚させる陰謀をしていたことを突き止める。
自分が立ち上がるしかないと決意して自身の名前を書いて投票した途端に自爆テロが起こり教会のシャッターが壊れる。まるで、天罰の様に。
テロに対して憤るテデスコ。イスラム教徒を野放しにしていたからだと革新派を非難。これは宗教戦争だ。戦わなければならないと主張。これに同意する枢機卿と反発する枢機卿たち。
そこに立ち上がるベニテス。私は初めて参加した。これを最後にしたい。あなたは戦争を知っているのか、私は数多くの死を見てきた。キリスト教徒もイスラム教徒も。戦うとは何と戦うのか。妄信者と戦うのか。違う、戦う相手はここにいる。胸を指していう。自身の信仰の揺らぎと戦うべきだと主張。ここは神の家たる教会ではない。皆、自分のことしか考えていないという。
最後の投票でシャッターが壊れた窓から入る日差し。これが象徴的だった。私はベニテスは女性なのかもと思っていた。コンゴでは性暴力を受けた女性を救うために病院を作ったという報告からの推測だった。
カトリックでは保守派と革新派の対立がある。前教皇フランチェスコは保守派だった。しかし、ミサをラテン語にしろとか主張したことはない。その前のヨハネ・パウロ二世は革新派だった。二人は対立する派の代表だが、カトリック教会の方針は大きくは変わっていない。また、欧州では退潮でアフリカでは上げ潮に乗っている。また、排斥されている女性への役割を増やそうとする試みもある。教会が抱えている問題は挙げてあるが、全て誇大に描かれいる。この映画は、あくまでも虚構の物語である。
最初から全て前教皇の思惑通りにことが進んだと最後に理解した主人公の晴れやかな顔が良かった。
映像的にも素晴らしい。全世界から枢機卿が集まるが、その一方で修道女たちも集まる。カージナルレッドと言われる赤い枢機卿に対して真っ青な服の修道女。雨の日に白い傘をさして移動する枢機卿たち。映像芸術たる映画の本領発揮といえる。これはテレビで見ても面白くない作品だと思う。
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