「映画は現実を描く」教皇選挙 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
映画は現実を描く
昨秋の全米公開時から気になっていた。
時期ローマ教皇を選ぶ選挙“コンクラーベ”。
『天使と悪魔』などでも描かれた事あるが、ここまでがっつりメイン題材になる事はそうそう無い。
そこに、陰謀や思惑交錯するサスペンス・ミステリーとしてエンタメ性もプラス。
同じく宗教題材のダン・ブラウンの一連のシリーズを彷彿。まああちらは映画の出来映えは…だったけど。
アカデミー賞にもノミネートされ(脚色賞受賞)、品質は保証付き。
しかしこういう作品って、なかなかにヒットに結び付き難い。殊に宗教に馴染み薄い日本に於いては。
“コンクラーベ”を“根比べ”と大喜利みたいな語呂合わせでしか覚えて貰えず、どういうものか関心持たれぬまま、一部の映画ファンや通好みの間だけの話題で終わり、興行収入も数億程度だった事だろう。
現実世界でタイムリーな事が起きた。事態に対して不謹慎な言い方かもしれないが、奇跡的な事が起きた。
俄然、話題と注目の的に。映画は時に現実を描く。
じわじわロングランヒット。興行収入もこの手のジャンルにしては大健闘の10億円を間もなく越え。
公開前、本作がまさか実写版『白雪姫』よりヒットするなんて誰が思っただろう…?
現実世界でも全く同じ事が起きたので、あらすじは割愛。
あらすじをいちいち説明しなくてもいい事が現実でタイムリーに起きるなんて、本当に驚きとしか言いようがない。
『天使と悪魔』などを見て少しは知っていた事も。
コンクラーベが始まると、集まった司教たちや新教皇候補者たちはバチカンの礼拝堂の地下に籠る。
外部とのコンタクトは一切遮断。新教皇が選出されるまで、選挙は繰り返し行われる。
遂に新教皇が決まった時、礼拝堂の煙突から投票用紙を燃やした煙が…。
それが合図で、世界14億人以上と言われるカトリック教徒歓喜の瞬間。
今回ニュースでも速報され、TVなどを通じて、映画の公開と話題もあって、リアルと感慨深さを感じた人も少なからずいただろう。
現実世界では厳かに、格調高く。
映画ではリアルさを追求しつつも、映画ならではの面白味も。
首席枢機卿のローレンスはコンクラーベの仕切りを任される。
自分は教皇の器じゃない。仕切り役に徹し、旧知のベリーニ枢機卿を推す。
集まった新教皇候補者たち。神に全てを捧ぐ人格者たち…と思いきや、一人また一人に黒い噂や欲が発覚する。
前教皇の死が免れぬと知るや、方々に賄賂を渡して根回し。
ある者は性的スキャンダル。聖職者ともあろう者が…!
リストに名前が無い飛び入り参加の者。
波乱の選挙が始まる…。
派手なシーンは一切無い。唯一、静寂を突き破るようなある爆破シーンはびっくりしたが…。
重厚な映像、厳かな美術や衣装、編集も音楽も緊迫感を終始孕む。
映画は全編ほぼ“コンクラーベ”。見る我々も一緒になって礼拝堂に籠ったかのようで、息詰まるシークエンスは先日見た『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』の原潜内シーンとは桁違い。
『西部戦線異常なし』とは全く異なるジャンルながら、エドワード・ベルガー監督が連続ホームランの名手腕。2作連続でアカデミー作品賞ノミネートなのに、自身は連続で監督賞ノミネート落選なんて嘘でしょ!?
ハリウッドではVFXを多用した大作が、日本では若者向けのアニメーションやTVドラマ映画化やコミック実写化が人気の昨今。これぞ大人の鑑賞に耐えうる“映画”。
それには名優たちの名演が必須。
レイフ・ファインズの醸し出すオーラ、歳を重ねた渋さ、枢機卿姿もばっちり、風格に存在感に演技力と、何もかも申し分ナシ!
スタンリー・トゥッチの巧助演、ジョン・リスゴーのクセ者感。出演時間は僅かながらイザベラ・ロッセリーニのインパクト。
これぞ“映画”であり、名アンサンブル。
新教皇はなかなか決まらず。
各候補者たちの裏の顔やスキャンダル。
教皇に相応しい者は…?
こうなってくると、“野心”というものが芽生えてくる。
あくまで表面には出さず。変わらず仕切り役に徹して。
が、虎視眈々と。何度目かの選挙で、投票用紙に書いた名前は…。
厳粛なコンクラーベ。その腹の底で、各々がこんな思惑や野心を秘めているかと思うと…。
途端にどんよりしてくる。
が、遂に選出された新教皇は意外な人物であった…。
それまでほとんど目立たず。
唯一と言えば、飛び入り参加のイレギュラー。
しかしちゃんと、前教皇から認められて。
終盤、皆が激しい口論。お互いを責め合い、罵り合い、野心や欲が飛び交う。
司教も人間。人の子とは言え、これが崇高たる司教の姿か…。
そんな中、司教という職、在り方を真摯に問う。
それは皆を動かした。
異論も少なからず出たが、選ばれた新教皇。最も相応しいとローレンスも認める。
ところが…。選ばれた直後に発覚。
驚きの秘密。前例は無い。前代未聞。
日本の天皇がそうであるように、神聖にして不可侵な伝統に反する。
いやそれは、変わるべき事なのかもしれない。新しく受け入れるべき事なのかもしれない。
新教皇は、心は男でも、身体は…。
静かながらも熾烈なコンクラーベの末に、選ばれるのは主演レイフ・ファインズだろうと思っていた。
意外性を付いた。
脚本の妙。映画ならではの展開。
本当にただそれだけか…?
遠い未来か、近い将来か。絶対に起きないフィクションとは言い難い。
今回の映画そのものがそうであったように、映画は現実を描く。
近大さま
共感ありがとうございます😃
>映画は現実を描く
>ハリウッドではVFXを多用した大作が、日本では若者向けのアニメーションやTVドラマ映画化やコミック実写化が人気の昨今。これぞ大人の鑑賞に耐えうる“映画”。
本当にその通りの映画でした。
そして近大さんの緻密で骨太なレビューも。
ラストで新教皇が「インターセックス」の手術を受けないことと、「インノケンティウス」と名乗ったこと。
前教皇がチェスの8手先を読んだ人物なら、新教皇はチェスの駒にはならないキャラだった、という大どんでん返し!に★5つを付けました。
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