「バチカンの隔離された密室で展開する極上の政治サスペンス劇。」教皇選挙 kazzさんの映画レビュー(感想・評価)
バチカンの隔離された密室で展開する極上の政治サスペンス劇。
ゴールデンウィーク直前、平日の昼間だというのに劇場は満員だった。つい3〜4日前に教皇フランシスコの訃報が届いたことが影響しているのだろうか。
現実世界でも2013年以来のコンクラーベが行われることになるのだ。
教皇の急死の報を受け、世界中から枢機卿たちが「聖マルタの家」にやってくる。
首席枢機卿のローレンス(レイフ・ファインズ)は教皇の死に目に会えず、最後に教皇と言葉を交わしたのはトランブレ枢機卿(ジョン・リスゴー)だった。
ローレンスは次期教皇を選出するための選挙の準備に取り掛かるのだが、トランブレに対してある疑念を抱いていた…。
枢機卿は、教皇が任命した教皇に次ぐ権威の聖職者で、世界中で100人を超える枢機卿たちがそれぞれ担当教区を受け持って任務に就いているようだ。
次期教皇はこの枢機卿たちの互選によって決められる。
この映画では次期教皇の有力候補が数名存在するが、どうやら立候補や推薦はないらしい。選挙は枢機卿たちの自由投票で行われ、2/3以上の票を得た者が教皇となる。
2/3以上の得票者が出るまで投票が繰り返されるのだが、得票数上位者での決選投票という方式ではないから、場合によっては長くなる。
投票は午前と午後の2回しか行われないので次回投票までにそれなりに時間が空くから、その間に投票権者同士の会話もあれば、期間中は外界から隔離されているとはいえ職員との接触はあるので、何らかの情報がもたらされることもあり得る。そうなると、何度目かの投票で潮目が大きく変わったり、予想外のダークホースが現れることも起こり得るのではないか…というところに着目した(と、思われる)物語。
トランブレを初めとする次期教皇候補たちにはそれぞれに秘密があり、それらが次々に暴かれていくというサスペンスが密室選挙を背景に展開していく。
各人各様の秘密はカトリックへのアンチテーゼと読めなくもないが、あくまでフィクションのエンターテイメントを楽しみたい。
主人公のローレンスがいわゆる探偵役なのだが、そのローレンス自身は教皇になりたいとは思っていない素振りで、この選挙を滞りなく終わらせることに注力する姿勢を示す。
たがその実、彼こそが教皇の座を虎視眈々と狙っているのではないかと私には感じられた。そこがこのサスペンスの巧妙なところかもしれない。
ローレンスが探るでもなく見つけていく各種の証拠は、前教皇が計算ずくで仕掛けておいたようにも思える。それに操られるようにローレンスは捜査させられていたのかもしれない。ローレンスをこの選挙を主導する立場の首席枢機卿に指名したのも前教皇なのだから。
そして、本当は自分が次期教皇にふさわしいと心の底では思っていた(だろう)ローレンスのその道を閉ざしたのも、前教皇の計算だったと考えると面白い。
ローレンスはインターセックスを罪だと考えていたように保守的な面を持っており、前教皇は彼を人物として評価しつつも自身の革新的な思想との隔たりを感じていたのではないだろうか。
そうなると、シスター・アグネス(イザベラ・ロッセリーニ)もその協力者だったに違いない。
映画の冒頭から、カメラはしばしばローレンスの後ろ姿(背中・後頭部)を追う。
そして、台詞がない場面でローレンスの鼻の呼吸音と、赤基調の大仰な祭服の衣擦れ音を必要以上に拾っている。
苦悩するローレンス、思考を巡らすローレンス、行動するローレンスを密着して見せるこの手法が意味深長で、彼の怪しさを示しているように私は感じた。
システィーナ礼拝堂とマルタの家はチネチッタに建てたセットだとのこと。
教皇の居室があり、バチカンに滞在する枢機卿たちの宿泊所にもなるマルタの家の内部は、実際はどうなのか知らないが、現代の技術でセキュリティが施されている様子。教皇の死後にその居室が封印されるのは事実らしい。
映画の結末はある種どんでん返しだと言える。
そもそもローレンスは信仰に迷いを感じていた。そんな彼に、前教皇は強烈なメッセージを送ったともとれる。
どうやら、枢機卿たちが「教皇になりたい」と口にすることはないらしく、誰を次期教皇に推すかという話を互いにするだけだとか。そんな枢機卿たちの話題の中で有力候補が浮かび上がってくるのだろう。
でも、ちゃんと自分の教皇名は決めているという。だから、選ばれれば直ぐに教皇名が決まるのだ。
以下、2025/5/10追記**********
2025年のコククラーベは、2日目(4回目の投票)でレオ14世を新教皇に選出した。初のアメリカ出身の教皇だそうだ。
選挙前のバチカンで、枢機卿たちがアイドルのように市民から握手を求められたり、写真に納まったりしていたのには、驚いた。
この選挙に際しても、映画のように有力候補者の名前が挙がっていて、なるほどこうなるのかと感心した次第。
こんばんは
共感ありがとうございます。
ロングランになりましたね。
本当に見応えあるミステリーのようなコンクーペでしたね。
最初から前教皇の隠し玉だったのですね。
やや奇を衒うような結果でしたね。
kazzさん お久しぶりです。
この前は色々とご迷惑をお掛けし大変申し訳ありませんでした。
ローレンスが実は教皇を狙っていたとのお説、見事です‼︎
流石、kazzさんです‼︎ 一本取られた感じです‼︎
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