「確信と疑念」教皇選挙 sow_miyaさんの映画レビュー(感想・評価)
確信と疑念
少し前まで「新しい教皇を決めるってだけで、面白い作品がつくれるの? 」とか、「有力候補同士が足の引っ張り合いをしたり、意外な人が暗躍して“実は…”っていうコテコテな展開だったりしたらヤダなぁ」なんて、観るのにちょっと腰が引けていたのだが、試写を観た同僚が「めっちゃ面白かった」というので、信じて視聴。
結果、アカデミー賞脚色賞受賞も納得の充実さで、観て損はない佳作だった。
<以下、ちょっとだけ内容に触れます>
もちろん、選挙なので、組織内の力関係が影響は与える。けれど、やはりそこは聖職者たち。俗な欲望だけで釣られる訳ではない。「綺麗事だ」という言葉も飛び出すが、きちんと正論が通るし、過ちがあっても、「赦し」の精神は忘れない。
更にその上に立って、登場人物たちがもう一段奥を問われたり、そうした映画を観ている私たちも問い返される深さや豊かさを持っている作品だった。
その問い返しのきっかけになり、相手の心を動かすのは、どの時も「言葉」。
象徴的だったのは、コンクラーベを執り仕切るローレンスの説話と、戦地での布教活動を重ねてきたベニテスの反論。そして忘れてはいけない、シスターアグネスの発言。
どの「言葉」にも、その人固有の体験や苦悩が滲み出て胸を打つ。
とりわけ自分が共感したのは、「確信」と「疑念」についてのローレンスの話。
最近、仕事上のことで、「迷うことの大切さ」と「迷わないことの怖さ」について考え続けていたので、ローレンスの話はまさにストレートに共感できた。
ただ、自分とすると、字幕の「確信」と「疑念」という言葉は、少し「正誤」を含んだニュアンスがあって別の意味を生んでしまっている感じがするので、それらが訳語として当てられた元の言葉は何だったのか、気になった。
あと、今作のよさは、語られる言葉だけには止まらない。映像的にも、色彩や光や、風や雨などがとても効果的に使われていて美しい。それに、窓やドアの役割にも意味を持たせる演出が、いいバランスに施されていて、トータルで、目でもとても楽しめる作品だった。