「「政治」の映画としても、「宗教」の映画としても、見応えがある」教皇選挙 tomatoさんの映画レビュー(感想・評価)
「政治」の映画としても、「宗教」の映画としても、見応えがある
新しいローマ教皇が選出されるまでの話なのだが、ゾクゾクさせるような映像と音楽が、サスペンスフルな雰囲気を盛り上げる。
「宗教」の世界の話ではあるものの、描いていることは、多数決で決まる選挙という「政治」そのもので、「保守VSリベラル」という対立の構図が明確なのも、分かりやすくて面白い。
選挙に先立ち、選挙を取り仕切る主人公の枢機卿が、「多様性」と「寛容」の必要性を説いた時点で、選挙の結果はだいたい予想できるのだが、それでも、有力候補のスキャンダルが次々と明るみに出る過程では、探偵が謎を解いていくようなミステリアスな展開に引き込まれる。
その一方で、絶えず苦悩に満ちた表情を浮かべている主人公は、おそらく、カトリック教会という巨大なシステムに疑問を感じているのだろうが、そこのところの掘り下げが今一つだったところには、やや物足りなさを感じてしまった。
有力候補のスキャンダルにしても、「隠し子」とか「選挙の票稼ぎ」とかといった話で、カトリック教会を揺るがすようなインパクトに欠けると思っていたのだが、ラストに用意されていた「選挙の結果」と「新教皇の秘密」という二段構えのサプライズには、「そう来たか!」と唸ってしまった。
特に、「新教皇の秘密」については、「確信」と「疑い」という本作のテーマに直結する問題でもあり、改めて「信仰」とは何かということについて考えさせられた。
結局、すべては、前教皇の目論み通りだったという見方もできるのだが、その割には、余りにも偶然に左右されているように思えてならず、もし「報告書」が見つからなかったり、爆弾テロが起こらなかったら、一体どうなっていたのだろうという疑問も残る。
ただ、これについては、「すべては神様の思し召し」だったという考え方もできて、ラストで密室から解放され、空を見上げる主人公の姿からは、そうした聖職者としての「悟りの境地」を垣間見ることもできるのである。
散々、人間臭い、ドロドロとした駆け引きを見せ付けた挙げ句に、最後の最後に「神の存在」を感じさせるところなどは、「政治」だけでなく「宗教」にまつわる映画として、良くできていると思わざるを得なかった。