「こんなトランプに誰がした?」アプレンティス ドナルド・トランプの創り方 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
こんなトランプに誰がした?
まさか当選するとは思わなかった…。
またしても初の女性大統領誕生ならず。
アメリカはよほど“アメリカ・ファースト”を掲げる傲慢男が好きなのか、それともただのバカなのか。
今年の一月から始まった第二次トランプ政権。
世界中の問題に世直しマンの如く乱入したり、世界中大混乱のトランプ関税…。早速、やりたい放題。
イランの核施設を爆撃した際、それを広島・長崎の原爆投下になぞらえて正当化しようとした発言にドン引き…。
少なくとも後3年半はコイツの独裁が続くのか…。
こんなトランプを誰が選んだ?
こんなトランプに誰がした?
それは若き頃、ある弁護士との出会い…。
1970年代。20代のドナルド・トランプは不動産王の父フレッドの下、実業家のキャリアをスタート。
が、父が政府に訴えられ、破産寸前。仕事も行き詰まり、父からも無能者扱いされ、崖っぷちにいた。
そんな時、財政界の大物が集う高級クラブで出会ったのが、弁護士ロイ・コーンだった…。
ロイ・コーン。本作を見るまで知らなかったが、超有名らしい。
たくさんの顧客を抱えるやり手。時のニクソン大統領とも親しく、財政界やマフィアのボスとも繋がりが。
裁判では負け知らず。勝つ為にはどんな手段も厭わない。
性格は鋭く、冷徹。無能、役立たず、価値ナシは容赦なく切り捨て。…
そう。有名なのはその悪名高さ。白を黒、黒を白にもする悪徳弁護士であった…!
初めて会った時もロイはトランプにシビアな態度。
圧倒的オーラに萎縮する若きトランプ。あのトランプが…!
トランプとて最初から“トランプ”ではなかった。最初はまあ一応、実業家としての成功を夢見る“普通”の青年だった。我々一般人から見れば、傲慢さや俺様はちらつくが…。
ロイのお眼鏡に適う人はそういない。
が、何故かトランプは気に入られ、その時抱えていた父の問題を強引な手腕であっさり解決。
ロイに心酔するトランプ。顧問弁護士になって貰う。
この若造が気に入ったロイ。たくさんの顧客の中でも特別な顧客に。
もしこれが成長株の若者とクリーンな弁護士だったらその出会いに感謝だが、悪徳弁護士と後の…。
ここから誕生してしまったのだ…。
とは言え、アンチ・サクセスストーリーとしては面白い。
ロイはトランプに、身の振る舞い、トーク、着る服まで指南。
さらに、“勝つ為の3つのルール”を伝授。
一つ、攻撃。
一つ、非を認めるな。
一つ、勝利を主張し続けろ。
若造を仕立て上げていく。
トランプを。プロデュース!
サバイバルな世界をタフに生き抜く為、言ってる事は分からなくもないが…、いずれも強引・横暴な事ばかり。時には違法も。
ある時、ロイは盗聴を。それを目撃し、違法じゃないのかと危惧するトランプにロイは、それがどうした?
ロイは堂々と、取るに足らん多少の法律など守る必要ない。
真実はいつも一つなんて妄想。真実はいつだってねじ曲げられる。某名探偵の信念を一蹴。
差別主義者。黒人嫌い。その他の人種も。
ロイの第一は、アメリカ。アメリカを愛している。アメリカこそ私の一番の顧客だ。アメリカの為なら何でもする。
移民への強固な姿勢。アメリカ・ファースト…。
トランプの思想にも影響を及ぼしていたとは…。
若き実業家とやり手の悪徳弁護士。鬼に金棒。ビジネス上のパートナー関係を超えた信頼と友情を育むが、その終わりは呆気なく早かった…。
すっかり時代の寵児となったトランプ。
豪華ホテル、トランプタワー、カジノ…。その飛ぶ鳥を落とす勢いは常に注目の的。
トランプも強気な言動。異を唱える者は皆敵。
あの平凡だった若者がNYの王に。まだまだ目指す。
政治家? 大統領? 興味無いね。
この頃からロイの助言を聞かなくなる。それほどの自信家になったという事でもあるが、理由はそれだけじゃない気がする。
薄々察しは付くが、ロイは同性愛者。男性パートナーがいる。
ある時、トランプは“その場”を目撃してしまう…。
80年代になり、エイズが流行。当時のエイズへの認識や理解の無さは言うまでもなく。
ロイのパートナーがエイズに。つまりはロイも…。
ロイが次第に衰弱。自身はガンだと言い張るが…。
これまでの違法行為により弁護士資格も剥奪。ロイは自分の事よりパートナーの為にトランプに助けを求めるが…。
トランプは恩を仇で返す仕打ち。
激昂するロイ。一蹴するトランプ。激しく言い合う二人。
信頼と友情の終わりはいとも簡単に…。
あんなにロイに教えを乞うていたトランプ。もう自分に必要無くなったら切り捨て。
そのやり口はまるで…。
そういう意味では、トランプはしっかりとロイの教えを身に付けたと言えよう。
ロイにとっては誤算。あのやり手ですら先を読めなかった。
可能性に満ち溢れた可愛かった若者が、想像を超えた大物…いや、“怪物”になるのを…。
トランプが失ったのはロイとの友情だけじゃない。
結婚なんて財産を損するだけだ…とロイに反対されながらも結婚したイヴァナ。
当初は愛に溢れていたが、トランプの身の振り方が尊大になると比例して愛は薄れ、妻に魅力も感じなくなり…。ある時などレイプ紛いの行為を。
家族。父、母、兄の存在。
かつては帝王のような父に従うだけだった。いつしか父を上回る実業家に。
父が認知症に。そんな父を利用しようとするが、気付いた母に止められる。
父に厳しくされた時も味方になってくれた母だが、この時ばかりは息子に怒り。
家族を襲った悲劇。一族の劣等者の兄。精神を病んだ果てに…。
ロイとの友情を失い、妻との愛を失い、家族との絆を失い…。
普通だったら孤独と破滅へ転落なのだが、その野心は留まる事を知らない。
何を失おうとも、どんなに憎まれようとも。
俺は、ドナルド・トランプだ。
鬼才アリ・アッバシの演出は妙なカタルシスを呼ぶ。
小難しい政治ドラマになったりせず、異様な高揚感。
テンポも良く見易く、お陰で全く飽きずに見れた。と言うか、思ってた以上に面白かった。
オスカーノミネートはサプライズと言われたセバスチャン・スタンとジェレミー・ストロングの熱演。いや、怪演。
あのウィンター・ソルジャーがトランプに…? セバスチャンはトランプに全く似てない。だってセバスチャン、イケメンだもん。ヘアメイクの力もあるが、それだけじゃない。平凡だった青年が凄みのある怪物=トランプに。その変貌ぶりはセバスチャンの演技力の賜物。
圧巻はジェレミー・ストロング。登場時から只者じゃない雰囲気。悪党と言われ続け、決してクリーンじゃなかったかもしれないが、いつだって自分に真っ直ぐだった。その姿は何処かカッコ良くもあった。それだけに、終盤の悲哀さは…。
良作で実力を発揮してきたストロングだが、本作で飛躍。遅咲きながらこれからクリストフ・ヴァルツやマーク・ライランスのように重宝されていくだろう。
長らく疎遠だったトランプとロイだが、久し振りに再会。あるパーティーに招く。
プレゼントを贈ったり、ロイを讃えたりして、まだ敬愛は失っていなかったと思うが…、
結局それはトランプの引き立て役でしかなかった。
私は負けたのだ。この男に。
程なくして、ロイはエイズで死去。トランプは葬儀に出席したりせず、ハゲ隠しや脂肪吸引の手術を。
ラストシーン。ある作家に勝利する為の3つのルールを説く。
恩を仇で返すどころではない。欲するもの、必要なものは全て自分のものに。俺様ファースト!
やがてトランプは本当にアメリカの頂点に。
崖っぷちにいた青年がアメリカ大統領になろうとは、ある意味アメリカン・ドリームである。
トランプ万歳!
いや、見れば分かる。本作はアンチ・トランプ映画である。
あからさまに批判はせず、そのサクセスや人間性も描いているが、こうしてトランプはトランプになった…と、警鐘と戦慄を感じる。
言うまでもなく、トランプ本人は本作に対して…。
こんなトランプに誰がした?
ロイと思うが、あくまで影響やきっかけ。
悪徳教えに自分でブレーキを踏む事だって出来た。
そうしなかったのは…。自分がそれを望んだから。
自分の中の野心と傲慢。なるべくしてなったのだ。
元々本人に備わっていた“天賦の才”なのかもしれない…。
困った事に。
共感ありがとうございました(^^)
ほんとに、あのウィンターソルジャーがトランプになるなんて悪夢のようでしたが、見応えある作品でした。MCU絡みですとスパイダーマンの出身地がクイーンズで、トランプも同じとこの出だったんだと思うとなんとも言えない気持ちです。
近大さん
トランプ大統領を演じたゼバスチャン・スタンと、ロイ・コーンを演じたジェレミー・ストロング。
撮影時のプライベートタイムをどう過ごされていたのでしょうね。切り替えが難しかったのでは、と想像しています。
観ている間、全く快感はなかったですが、「彼はなぜ、あんな態度であんなことを言うのだろう?」という疑問を解くためには、いやでも観なきゃいけない映画でした。わかると余計に絶望感が深まるのですが。
人間が恥を忘れて心の底から自分だけが正しいと信じ込むことができ、それを貫きことができれば、こんな大変なことになってしまうんだ、とわかりました。



