「仁義なき選挙戦」対外秘 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
仁義なき選挙戦
選挙で勝つには…?
クリーンな政策? 清廉潔白な人物像? 正義感と信念?
そんなの落選も同然。選挙で勝つには…
金、コネ、権力。
相手を出し抜き、裏切り、腹の探り合い。
クリーンで通じる世界ではない。仁義なき韓国選挙戦。
1992年の釜山。
政治家のへウンは党の公認候補を約束され、国会議員選挙に出馬。地元での強みや人気を活かし、順調に見えたが…。
政治を影で操る“フィクサー”のスンテが公認候補を自分に言いなりの男に変えた事により阻まれ、落選。
へウンは地元ヤクザのピルドと組み、スンテが富と権力を牛耳ろうとする“対外秘”(最高機密文書)を手に入れ、復讐しようとする…。
あくまでこれはフィクション。だからこその面白さ。
だって、もしこれがリアルだったら…? 恐ろし過ぎる政治の世界。
いや、こうやって話のネタになる以上、全てがフィクションとは言い切れないかもしれない…。
政治を影で操るフィクサー。映画などで時たま描かれる事あるが、本当にそんな存在が実在するのか…? 日本の政治史の中にも、いるとかいないとか。
その人物の意向一つで政治が動く。政治家たちは言いなり。
なら、政治って…? 政治家って…? 国民の声は…?
取るに足らん。政治も権力も我が手中。
フィクサーと対するに結託する政治家、ヤクザ、怪しいビジネスの社長。
政治、ヤクザ、金…。切っても切れないとは言え、裏社会の者たちがこうも選挙戦に乗り出してくるとは…。
現代日本の選挙だったら有り得ん。少しでも噂が立っただけでアウト。今は…。しかし、昔は…?
ヤクザや悪徳社長にとっては政治もビジネス。
当選したならまだしも、落選して良好な関係でいられる訳ない。
亀裂が入った関係は、やがて悪徳社長を亡き者に…。
それが運と縁の切れ目。
絆を育んでいたへウンとピルドだったが…。
文書を武器に脅すへウンに対し、スンテは社長殺しに二人が噛んでいると睨む。
へウンは女性記者の協力を経て、文書改ざんの証拠を握る男に接触。記者会見を開いて暴露すれば、スンテにとって致命的。
スンテもまた文書に関わる者を自分側に。さらに、もう一人…。
ピルド。へウンが切り捨てようとしていると吹き込む…。
記者会見当日、各々の命運が…。
相手が仕掛ければこちらも仕掛ける。
立場も状況も派閥も代わる代わる。
使い古されたキャッチフレーズ“最後に笑うのは誰だ?”がこんなにもぴったり合う作品もなかなか無い。
それを面白巧く見せ、『悪人伝』のイ・ウォンテ監督が再びスリリングな三つ巴のノワールを激写。
人の良さそうだったへウンが非情に変わっていく。チョ・ジヌンの巧演。
『工作』や『KCIA』など権力者を演じさせて右に出る者ナシのイ・ソンミンの存在感。
『犯罪都市 PUNISHMENT』で冷徹な悪役だったキム・ムヨルが再び危なっかしさを孕みつつ、哀愁も滲ませる。
ひょっとしたら、最もまともだったのは彼ピルドだったかもしれない。
へウンとピルドが政界のフィクサーを失脚…だったら最も理想的だが、そんなありきたりにはならない。
ピルドがスンテの配下に。へウンを追い詰め…。韓国サスペンスらしくていいが、後味は悪し。
そういう展開になったと思いきや、もう一捻り。“納品”は思わぬ人物。
誰と組んだら己の利になるか…?
へウンの場合。ヤクザと組むより政界のフィクサー。
スンテの場合。ヤクザを配下に置くより息の掛かりそうな政治家。
ピルドの場合。どっちもどっち。
切り捨てられたのはピルド。
ピルドがスンテの配下になったと思わせ、裏ではへウンとスンテが結託。社長殺しや改ざんの脅迫者など全ての罪をピルドに。
政治の食い物にされたピルドが哀しい。
それを土台にさらにのし上がる者がいる。
晴れて国会議員になったへウン。
傍らにスンテ。
各界の大物たちと密会合。
今後とも末長く…。
私たちが政治やこの国を操っていく。
我々の知らぬ所で…。