動物界のレビュー・感想・評価
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ケモノノケモノ
サスペンススリラーになりそうな題材で描くヒューマンドラマ。
フランソワ視点で始まった物語は、症状の進行と連動するようにエミールに比重が移る。
状況説明はスムーズで、父子がメインであることを考えれば学校や職場、憲兵の比重も適切だったと思う。
哺乳類ならともかく、鳥類や爬虫類、ましてや軟体動物にはならんやろ、とかは言いっこナシ。
人間の身体のままで飛べんやろ、も禁句。
前提として“そういうもの”だと受け入れる必要はある。
出色はエミール役の演技で、変容に対する苦悩や動物としての動きという内的/外的どちらの面も抜群。
そういった意味ではフィクスも秀逸で、この二人の交流がとてもよかった。
その分、変容した者たち自身の“どう生きるか”という葛藤や決断が描かれないのは勿体ない。
特に思春期のエミールにとって、ニナとの今後なんかは大問題のハズなのに。
父は、どうす“べき”かだけでなく、息子がどう“したい”かをもっと聞くべきだとは思った。
しかし常にそこに確かな愛情があったのは間違いない。
彼はただ息子が自由に生きられることを望み、信じた。
冒頭の「服従するな」「反抗する」という会話に繋がるラストから感じる生命力は、とても力強い。
変容が始まる箇所もペースも、凶暴化の度合いなども、個体差が大きそうで法則性は見えない。
原因の究明や今後どうしてゆくかという話には到らず、あくまで入口の話。
そこが物足りなくもあるが、しかし一番考えを巡らせるべきなのもこの“一歩目”だよなぁ。
アルベールがとても可愛いので、終盤出なくて寂しい。
コロナ禍を経験したからこその違和感が気になってしまう
人間が動物に変異する奇病の蔓延というアイデアは面白いし、それを具現化した特殊メイクやVFXも見応えがある。
ただ、何のためにそのような設定を導入し、それで何を訴えようとしているのかが、今一つ分からない。
この奇病は、エイズや新型コロナなどの実際の病気のメタファーではなさそうだし、この奇病で、新種の狼男や吸血鬼やゾンビを描こうとしている様でもなさそうだ。
奇病を発症した人に対する差別や抑圧、あるいは、健常な人と発症した人との分断や対立みたいなものも、それなりに描かれてはいるのだが、それがテーマであるとも思えない。
別に、無理矢理、寓意やメッセージを読み取る必要はないのだろうが、それでも、こうした奇病に対する対応の不自然さは気になってしまう。
例えば、自分が、いつ、この奇病にかかってもおかしくない状況のはずなのに、人々に、そうしたことに対する不安や警戒心が全くと言っていいほど感じられないのは、どうしたことだろう?
新型コロナの頃は、隣の人がマスクをしていなかったり、ちょっと咳をしただけで、あれほど過敏に反応していたのに、この映画の高校生たちが、ごく普通の学校生活を謳歌しているばかりか、主人公の少年の異変に気付かないことには、大きな違和感がある。
奇病に対する社会の対応にしても、発症した者を捕獲したり隔離するばかりで、病気の予防法や発症が疑われる場合の措置(病院や保健所に届けるなど)が周知徹底されていないことには首をかしげざるを得ない。
そもそも、社会がこんな対応をしていたら、主人公のように、発症を隠そうとしたり、家族が発症した人をかくまおうとするような事例が後を絶たなくなるはずで、施策としては完全な失敗と言えるだろう。
祭りの夜に、村人たちが、発症した人たちを、問答無用で撃ち殺そうとする場面は、唐突で脈絡がないとしか言いようがないが、こんなことを放置していたら、それこそ、社会の秩序は崩壊してしまうだろう。
その一方で、父親と少年が、施設に入る前に行方不明になった母親を独自に捜し出そうとしたり、病気を発症した少年が、施設に入ることを拒否しようとする理由にも、あまり説得力が感じられない。
病院で面会した母親は、そんなに酷い扱いを受けているようには見えなかったし、施設に収容されても、家族等が面会できる(そのために、施設の近くに引っ越したのだろうし、終盤で、父親が少年に「面会に行くから」とも言っている。)のだから、それほど孤独にはならないように思えるのである。
もし、病気を発症した人や家族が、施設に対して良からぬ印象を持っているのであれば、施設内の様子を明示するなどして、その理由をきちんと説明するべきだったのではないだろうか?
いずれにしても、ラストシーンからは、結局、「束縛から逃れて自由に生きろ!」みたいなことが言いたかったのかとも思えるのだが、その一方で、そのために、このような特異な設定とストーリーは必要だったのかという疑問も残るのである。
動物である人間が持つ、原始的な愛のかたち
観ながら、「人間も動物でしかない」という視点でこの世界は描かれているような気がしました。
動物に変わっていく子供ら「新生物」と呼ばれるものが、
・異教徒や移民など?
・新型コロナなど疫病のパンデミック感染した人々?
・怪我や病気で外見が変わってしまった人?
・政治的立場でマイノリティになってしまった人?
そのどれでもあり、そのどれでもないのかもしれない。
人間は他者とのかかわり・社会性によって成立する生き物であるが、「新生物」はそこから逸脱し、社会に居場所を失った「異形の者」すべてを内包していそうな気がしました。
そんな「異形」の在り方は、どことなくデル・トロ監督のモンスターたちや、石森章太郎がかつて描いた漫画版・初代仮面ライダー本郷猛を思い出しました。
そして動物も人間も変わらず、「妻や子がどんな姿や立場になったからって、夫(父親)は家族を慈しみ、守ろうとするものだ」という、本能のような「愛」を示していたような気もしました。
ただし、「何故感染し、どんなスピードで肉体が変異していくのか」の設定が曖昧だし、「人としての知性は残るのか消えて動物になっていくのか否か」なんてのも不明確なんで、そこらへんが気になって没入できず、ラストシーンで感情移入しきれなかったのが、作品のせいなのか、自分の性格のせいなのかは判断が難しいところ。
設定は奇抜だけど、わりと良作
すごく面白かったという訳ではないんだけど、まあまあ見ごたえのある映画だった。
観る前に若干ザ・フライ的なグロさがないかだけ心配していたが、そこはわりとソフトでした。
ただ、途中で出てくるセイウチ(?)に変体したやつだけ、ちょっとザ・フライ感があった。
冒頭の「何を食べて、何を話すかでその人の存在が決まる」という父親のセリフが妙に心に残った。
ベジタリアン
人が動物に変化する奇病という設定からどう物語が展開するのだろうと思っていたら、家族愛、友情とか前向きな感情が残るプロットだった。
自分はベジタリアンなのだけれど、動物との共生というテーマが思い浮かんだ。欧州ではベジタリアン人口は増加傾向で、日本もそうならないかなと期待している。
嗚咽ですわラスト
疫病の始まりってずっと昔からこんなんだったんやろな
無理解ではなく無知 それでも愛してくれる者はいて光の方向へと変わっていくコロナも始めは村八分自殺色々ありましたよね動物界も隔離ではなく穏やかに暮らせる場所へとたどり着きますように
しかしカエルちゃんなんて愛らしい顔
制度に反抗しろ!
全く事前の情報を入れずに観に行きましたが、のっけからギアがフルスロットルに入った作品で、終始刮目して鑑賞しました。
舞台は近未来のフランス。感染すると動物になってしまう(獣化してしまう)病気が世界的に蔓延してしまった世界。感染者は人間としての理性を失って凶暴化することから、監獄同然の施設に閉じ込められてしまう。ここだけ聞くと実にSFチックで、あり得なさそうなストーリーですが、この病気を新型コロナに置き換えれば実はつい最近現実のこととして我々の眼前に広がった悪夢であり、そう感じた瞬間に恐ろしい現実を戯画化したお話だと捉えることとなり、心の奥底に突き刺さるお話でした。
内容的には、獣化してしまった母親の回復を信じた父(フランソワ)と息子(エミール)が、移送中の自動車事故で行方が分からなくなった母親を捜すものでしたが、その過程でエミールも獣化していることが判明。それを知ったフランソワのショックは計り知れないものがありましたが、最終的に”制度に反抗しろ!”という自らの信念に従い息子を助けるフランソワ。その充足感、満足感を映して幕となりましたが、悲劇的な話でありながらも、悔いが残らない生き方を見せたフランソワの行動と、最後の笑顔に、勇気を貰った気がしました。
また本作で注目すべきは、その映像の素晴らしさ。獣化してしまった人間のリアルな姿は、恐ろしくもあり愛おしくもあり、感性を揺さぶられるものでした。そしてこのような内容でありつつも、フランソワとエミール親子の情愛をきちんと描いているのを皮切りに、エミールと同級生の恋愛を描いてみたり、エミールと先に獣化して鳥の姿になってしまったフィクスとの友情を描いてみたり、はたまたフランソワと女性警備隊員のジュリアとの信頼関係を描いてみたりと、登場人物たちの輪郭を立体的に見せる描写が随所に挿入されており、非常に味わい深い作品でした。”制度に反抗しろ!”というフランス人らしい反骨心を冒頭でフランソワに言わせ、最終盤でフランソワに実行させるところや、ジュリアがフランソワに対して繰り出した格闘術を、危機に陥ったフランソワが繰り出すことになるなど、伏線の回収にも余念がありませんでした。
そんな訳で、本作の評価は★4.5とします。
結局は愛の映画。
人間が動物化する病が流行している世界が舞台の今作。
今まであったようでなかったような設定で、この物語の行く末はどうなるのかとずっと目が離せなかった。
人間が動物化する過程の描写が見事で、皮膚感だったり身体の動きだったりリアルさを感じた。
息子と父が最後に笑顔で交わした会話と、そして最後に父の取った選択がどこまでも頭から離れない。
映画館を後にしてからもずっと涙が止まらなかった。
結局父にとって息子が息子であることに変わりはなく、一番優先させるのは「息子が生きること」なんだな、としみじみ思った。
素晴らしい映画でした。
期待度◎観賞後の満足度◎ あなたは愛する者が自分とは違う者になった時、それを知った時に変わらず愛することが、背中を押すことが出来ますか?
①人間が動物に突然変異する奇病が蔓延しだした世界と動物へと変異して“新生物”とも“バケモノ”とも呼ばれるようになった人々は何かのメタファーだと言えるだろう。
何のメタファーかは観る人の解釈に任せるとして、私としてはADHD(注意欠如・多動性障害)を持った女の子がエミールが奇病にかかっていることを承知で体を委ねたところに注目した。
②鳥人間のフィクスが翔ぶシーンの爽快さ。監督が宮崎駿のアニメにインスパイアされたと語っていたのがよく分かる。
(因みに、人間が羽ばたいて空を飛ぶためにはステロイドを大量に注射したボディビルダーの胸筋どころではない文字通り鳩胸を超える胸筋が必要らしい。)
③それよりも更に爽快で且つ多幸感に溢れているのがラストシーン。
何故かとても感動して胸一杯になってしまった。
④キワモノ的な題材ではあるけれども、物語が進む中でフランソワとエミールの心の動きがビビットに伝わって来る当たりはやはり良くできた映画だと思う。
⑤エミール役の男の子…どこかで観たことあると思ったら『ウィンターボーイ』の主役の子だったんだ。本人が自覚するかしないかの前から挙動や表情に変化が出てくるところからの繊細な演技が上手い。
試練を受けた父子の物語
人の身体が動物へと変わる奇病?進化?が蔓延した社会に生きる、とある父子。
子供が父親の愛情を認識していく過程が素晴らしい。細かな設定が施された脚本、また無理のない思春期ドラマの演出もいい。ラストは勿論、中盤を含め何度か泣けた。
この作品は傑作かもしれない。
邦題、どんぴしゃだなー。
獣人化に対峙する人間達の話だけど、まんま人種差別な話だし、感染してない人達にただただ追い込まれていく感染者達がいたいたしい。メイン3人の家族関係にも興味がつきない。なかなか見応えあり映画。
おい、ヒト、なにしてる?
世に変身譚は数々あれど、こちらは少し異色のSF。だが設定はかなり甘い。突然変異の奇病が流行し、人々がいろんな動物(フツーは一種類だが)に獣化してしまうという近未来を描く。しかし当局の対策は、その新生物を捕獲し施設に隔離するだけというゆるいもの………
巨大な毒虫に変身した主人公が家族に迫害され、その父親が投げつけたリンゴに当たって死んでしまうのはカフカの小説だが、映画の父親は既に獣となった妻を探し続け、獣化しつつある息子を必死に守り、その不条理と疎外の構図に抗おうとする
そして、フランス映画のお約束“エスプリ”とやらが注入される。決してエンタメに振り切らず、問題提起や学びを盛り込まないと気が済まないのが“彼等”の矜持。だから、米国製エンタメのように観終わって、ああ面白かった、にならず何かほろ苦さが残る。
それでも、獣化しつつある息子の視点から、フツーの人間達を意識的に見させるカメラ撮りは興味深い。ラストで『生きろ!』と叫んで息子を逃がす父親が切なく、奇声を上げながら、森を遁走する息子の姿も胸に刺さる。
獣になるウィルス
SFファンタジー
こんな作品よく考えたな〰️と脱帽
母親がこのウイルスにかかり隔離 南仏にできた施設に移送中に、バスが転落
移送中の感染者(ほぼ獣だが…)が森に逃げ出し、その中にいた母親を父と息子で探す奇想天外なストーリー
母親似の息子も…
最後に父親の取った行動は良かったのかな
ポテチ
どこのどこの、
どこの誰から頼まれた♪
命をかける価値もない、
これほど汚れたニッポンの、
ひとの心が生み出したー・・♪
川内康範の、子供向け変身ヒーロー作品、
「正義のシンボル コンドールマン」を、
例に挙げるまでもなく、
本作は、
古今東西の、
ヴァンパイア、ゾンビ、
ビースト、モンスター、
DCEU、マーベルといった、
無数に存在する物語フォーマットに則っている。
同種のフォーマットであっても、
観客の記憶から速やかに消え去る作品と、
半世紀を経ても人々の心を捉え続ける作品が存在する。
それは何故か。
答えは、
VFXやアクションといった表層的な要素だけではなく、
シナリオ、演出、そして俳優の芝居といった、
いわゆる【平場】と呼ばれる部分の質の高低にあるとも言えるだろう。
本作は、派手なVFXや流行りのアクションに頼ることなく、
爪の下の爪、
子の毛を剃る父、
洗濯物の匂い等、
緻密に練られた脚本と、
卓越した演出によって、
観客の想像力を最大限に刺激する。
ポテチを食べるシークエンス、
森を疾走するシーン、
コンドルマン・・・
翼を持った友人と叫ぶシーン、
観客も一緒に叫びたくなるように、
徐々にクレッシェンドさせていく演出は高度な技術である、
また、
その意図をシェアできている、
編集、音楽含めたポスプロチームとの共同作業も素晴らしい。
観客にそれぞれ異なる経験視界視点から物語を読み解き、
自分だけの解釈を生み出す余地を残す。
ある者は、
作品に現代社会における分断や疎外感、解放感を投影し、
ある者はファンタジー作品や文学作品との類似性を発見する。
また、
親子の絆や人間の普遍的な感情を深く掘り下げる者もいれば、
音楽や芸術作品との関連性を指摘する者もいるだろう。
父子の関係を通して、
観客を信頼し、彼ら(観客)の解釈の多様性を尊重する姿勢が際立っている。
それは、観客一人ひとりが作品の中に自分自身を見出し、
共感し、そして新たな発見をすることを可能にする。
父と子のラスト、ポテチも含めて、
観客に思考を促し、感情を揺さぶり、
そして人生観すら変える可能性も秘めている、
というのは言い過ぎだろうか。
【蛇足】
飛ぶ者の主観、見上げる仲間、
お互いマイノリティのカット、
は、
U2のアルバム「魂の叫び」
「All I Want Is You」のサーカス団を描いたMV、
を思い出した。
「百年の孤独」の世界観でもある。
なかなかの良作
他にも観たい映画があったにも関わらず「動物界」という何とも奇妙で怪しげなタイトルがどうにも気になり、とりあえず予告編を観てみたところ興味がさらに爆上がり。結果まんまと釣られてしまった。まあ正直なところ好みが割れる作品だとは思う。見方によってはホラーともヒューマンドラマとも言い切れない内容だし結論もよく分からない。もっと言えば何が言いたいのか何を示したかったのかすら不明瞭だ。その中途半端さをどう受け止めるかで評価が大きく変わるんじゃないかと思うが、どの方向にも振り切っていない中途半端さが味わい深く感じられた僕にとっては「アリ」となった。
いつ変異が始まったのか?なぜ変異するのか?他の地域はどうなのか?他の国はどうなのか?そもそも変異って何なのか?といった話は一切出てこない。何の説明もなく解明もされず、ただ奇妙な状況が続くだけで客観的な視点などまるでないため全体像が全く把握出来ないわけだ。おそらくそれが気に入らないと言う人も居るんじゃないかと思う。ただ僕にとってはそれが良いのだ。世の中のどんな事にも言える事だと思うんだが「渦中の人」は大抵周りが見えてないものなのだ。つまり状況の分からなさこそが実は強烈なリアリティになり得るわけで、主人公と同じ目線になる事で物語に完全に没入する事が出来る(ただしその為の描き方は本当に大切)。
エミールが徐々に人間性を失っていき動物的になっていく様も不思議なリアリティを感じた。フィクスとの友情(?)も良かったし、母親との再会も良かった。限りなく動物的で完全には理解出来ないのがまた良いのだ。そして父フランソワが全くブレてないのが素晴らしい。もちろん大切な家族だからというのもあるが、何よりフランソワが「誇り」を持って生きているのが伝わってくる。たとえ家族が動物に変異したとしても彼の決意は何も揺るがない。だから最後の「生きろ!」の言葉に思わずグッと来てしまうのだ。あれはとても良いラストだったなと思う。動物に変異してしまうという奇妙で大袈裟な設定ながら、結局は一家3人の物語という小さなスケールのまま最後まで走り切ったのも結果的に良かったのではないだろうか。
この作品をもってフランス映画全体を語るのもナンセンスなのは承知の上で言うが、何とも言えない「苦味」が残る味付けとか、気持ち悪いのにアートに見えてしまう絵面とか、喜怒哀楽を一つに特定し切れない情感とか、色んな要素が複雑に絡み合って映画が終わった時にひと言では言い表せない感情になる所がちゃんとフランス映画だな~と思ってしまうのである。僕がおそらく初めて観たフランス映画は「ディーバ」だったと記憶している。これも実に不思議な映画であったが、とにかくめちゃくちゃ面白くて信じられないほど美しかった。やっぱりフランス映画ってちゃんとフランスの味がするんだよな~と思わずにはいられない。
奇病の原因や対策の話じゃない❗️
人間が突然変異する奇病が流行っている世界で、人々はどう過ごしているのかが描かれていた。
新生物に対して理解できない者は恐れ、攻撃する。理解できる者は共生をと考える。
いろいろな考えがあってどれが正義で正解かはわからない。
自分ならどうするかと考えさせられる映画だった。
私も一人息子を持つ親として、ラストのフランソワ(お父さん)の決断にはグッと来てしまった。
独特の世界観と表現
新生物の映像がとても綺麗。
鳥の新生物のフィクスはキャラも良く、羽のも綺麗な表現でとても良かったし、セイウチと馬なども絶妙に人間と融合していて素晴らしかったです‼︎
予告で出てきたクワイエットプレイスの敵みたいなカマキリが気になってましたが、一瞬しか出てこなかったのはちょっと残念。(欲を言えば他の新生物ももっと観たかった…)
ストーリーも差別などの現代の問題が描かれている+親子のドラマとして観てもとても見応えのある作品に仕上がっていました。
ただ、新生物の表現がとても凄かっただけに新生物の印象に強く残るような描写や、あらすじに書いてあったスリラー描写があまり無かったのは、そういう映画じゃないと分かっていたけど若干残念でした。
だけどフィクスが飛ぶシーンや、フィクスがエミールを助けながらエミールが逃げるシーンはすごく良かったです‼︎
異端への恐れ、差別…そして愛。フランス映画らしい描き方。
突然「新生物」と称する既存別生物へ変異する奇病を背景に人々の恐れ、差別、そして愛の物語…ともすれば世紀末パニック世界になる題材をいかにもフランス映画らしい高尚な人間劇で観せる作品です…まぁフランス人とフランスという国を考えれば、ああそういうアプローチなのねと納得。王道のフランス映画的な仕上がり。特に異形の新生物を狩る人間たちを中世ヨーロッパ時代の人々とオーバーラップさせる様な見せ方にはアングロサクソンの歴史を感じますな。
当初、小理屈こねる父ちゃんがあまりに貧相な見かけなので「おいおい…」と思ったがw変異する母親、そして息子への限りない愛を描ききったところは評価したい。これが芯にある故にラストこの映画がひとつレベルが上がったように思う。悪くなかった。
鑑賞後、ぶっちゃけ、このテーマでハリウッド映画なら世紀末パニック、韓国映画なら終末ホラーてな感じになるんだろうなと(それはそれで観たいのだが…)
住むべき世界に境界線ができた時、親は愛よりも生存を優先させなければならない
2024.11.11 字幕 MOVIX京都
2023年のフランス&ベルギー合作の映画(128分、PG12)
獣人化する奇病が蔓延するフランスを描いたパニックスリラー
監督はトマ・カイエ
脚本はトマ・カイエ&ポリーヌ・ミュニエ
原題は『Le régne animal』、英題は『The Animal Kingdom』でともに「動物の王国」という意味
物語は、フランスの北部のどこかの街にて、渋滞にハマっているフランソワ(ロマン・デュリス)と、その息子エミール(ポール・キルシェ)が描かれてはじまる
二人は病院に行く用事があり、そこで妻ラナ(フローレンス・デレッツ)の主治医ヴァレリー先生(ナタリー・リシャール)と会う予定だった
ラナは今世間を騒がせている奇病に罹っていて、それは体が徐々に獣の姿になると言うものだった
渋滞に痺れを切らしたフランソワはエミールに強くあたり、それが原因で彼は車を降りてどこかへ行ってしまう
フランソワは力づくでエミールを止めるものの、その矢先に、救急車の中から鳥に変化しつつある男(のちにフィクスと判明、演:トム・メルシエ)が飛び出して、あたりは騒然となった
その後、病院に着いた二人は、ヴァレリーから南仏に新しい施設ができて、ラナをそこに移して治療を続けると告げられる
二人はラナを追うように南仏の街に一時的に仮住まいを見つけ、2ヶ月間限定で、そこで過ごすことになったのである
映画は、獣人化していく人々を描き、それを世間では「クリーチャー」などと呼んで距離を置く様子が描かれていく
そんな中でも、近親者が獣人化した人は変わらぬ愛を保っていると言うテイストになっていて、フランソワは妻のみならず、息子も獣人化していくと言う試練に打ちひしがれることになる
エミールの変化も少しずつで、周りに悟られないように生きていくものの、クラスメイトのニナ(ビリー・ブラン)はそれに気づいているし、憲兵のジュリア(アデル・エグザルコプロス)も彼らの変化に敏感になっている
だが、施設における治療には効果がないこととか、ただの実験に使われているのではと言う疑念が拭えないまま、フランソワは獣人化しつつあるエミールをどうすべきかを迫られていく
そして、彼が取った行動とは何か、と言うのが映画の命題となっていた
元々医者の言うことを信用していないフランソワは、妻の病変を止められない医学に見切りをつけていて、事故によって行方不明になった獣人たちの捜索も早々に打ち切られている現実を知る
憲兵隊レベルでは何もできず、軍隊が投入されている背景から、フランソワは国がこの事態に何を考えているのかを悪読みしていく
それらの積み重ねが彼の決断となっていて、それを見過ごすジュリアも国の決定には異を唱える立場にあるのだと思う
獣人化する前の人を知っているほど差別意識が生まれず、それから遠いほどにそれが強まる傾向があるのだが、これはある種の人間の性のように描かれている
当事者意識を持てる範囲はかなり狭く、そこから数センチはみ出しただけで異端として弾く傾向がある
そういったものへのアンチテーゼとして、物語は機能しているように思えた
いずれにせよ、クリーチャー化する造形美とか、映画の雰囲気を楽しめればOKと言う内容で、描かれている普遍的な愛の物語はそこまで特筆すべきものではないと思う
この映画では、得体の知れぬものへの恐怖と差別意識が生まれる境界線を描いていて、目に見えることがそれを増長していく様子を描いていく
フランソワの決断はおそらくは正しいのだが、今後国がどのような行動に出るかは読めない
それを踏まえた上で「生きろ」と言っているのだが、それは親が子を社会に放つ意味とはまるで違うようにも思えた
実際にこのような別離というものは訪れないと思うが、帰る場所を提供できない親ほど、揺るがぬ決意と愛を示せるのかな、と感じた
マジョリティからマイノリティへの変貌
最初は半獣(動物になった人間)のことを見下していた主人公が、話が進むにつれて主人公自身が徐々に半獣へと変貌していくことで、マジョリティからマイノリティへと立場が入れ替わっていく話。
映画を観ていて2010年公開の映画『第9地区』を思い出した。
鑑賞中は「自分が同じ状況に置かれたらどういう行動を取るのがベストなのか?」みたいなことを考えずっと頭を悩ませていたが、あまりの難問っぷりに頭から煙が出始めてきたところで「これは空想の世界の話で、実際には起こり得ないので考えても無駄」と思考停止。
映画を観終わっての結論は「マジョリティを守るための秩序によって、マイノリティがどれだけ苦しめられているのかをわからせるための映画」という感じ。
そう考えるとスッキリした。
父親のフランソワはきっと近所から「奥さんと息子さんがあんなことになって大変ねえ」と影でこそこそ噂されているとは思うが、愛する家族のことを最優先に考えて仕事や捜索に奮闘する姿に感動を覚え、途中から尊敬の眼差しで観ていた。
世の中には妻が妊娠中に不倫するような男もいるのに、妻の見た目が獣になっても愛し続けていて偉すぎる。
映画の最初と最後に出てくるポテトチップス演出が絶妙。
オープニングでは親に対する息子の反抗期表現だったのに対し、ラストでは息子に対する親の愛情を伝える手段となっていて、「ポテトチップスをバリバリ食べる」というちょっと滑稽にも思える画に、これだけの深みを与えていて思わず唸ってしまった。
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